示談金とか損害賠償金とか、色々な種類があってよくわからないんだ・・・
示談金と、損害賠償金は同じ意味合いで、その中に慰謝料という項目が入っているんだ。
交通事故で被害者となった場合には、加害者や保険会社と「示談交渉」をするものです。
その結果、加害者からは「示談金」を払ってもらうことができますが、「示談金」と「慰謝料」にはどのような違いがあるか、ご存知でしょうか?
一般的には「慰謝料」を重視しがちなのですが、実は、被害者にとって重要なのは「示談金」を増額させることなのです。
今回は、交通事故の慰謝料と示談金の違いや、示談の流れ、注意点について、解説します。
目次
慰謝料と示談金の違い
被害者が加害者に請求するお金は「損害賠償金」
交通事故に遭ったとき、加害者に対しては、どのようなお金を請求することになるか、ご存知でしょうか?
一般的には「慰謝料」と思われていることがありますが、このとき、請求するのは「慰謝料」だけではありません。
「損害賠償金」を請求します。その中に、「慰謝料」も含まれることになります。
交通事故は、過失による違法行為であり、これによって、加害者は被害者に損害を発生させています。
そこで、加害者は被害者に対し、損害賠償をしなければなりません(民法709条)。この賠償義務のことを「不法行為責任」と言います。
また、交通事故の加害者は、不法行為責任以外にも自賠法にもとづいて「運行供用者責任」という責任も負います。
被害者は、こうした不法行為責任や運行供用者責任にもとづいて、加害者側に対し、損害賠償額請求ができるのです。
その結果として受けとるのが「損害賠償金(賠償金)」となります。
それでは、「示談金」や「慰謝料」は、どこに出てくるのでしょうか?
示談金とは
示談金とは、「示談交渉によって、支払われるお金」のことです。
被害者が加害者に対して損害賠償金の支払いを求めるとき、通常は、話し合いによって請求します。
いきなり裁判をすることは、ほとんどありません。
このような、損害賠償金についての話し合いのことを「示談交渉」と言います。
そして、示談交渉によって支払うことが決まったお金のことを「示談金」と言います。
そこで、「示談金」というのは、「示談によって取り決めた損害賠償金」ということになります。
つまり、示談交渉をした結果、相手から払ってもらえることになった損害賠償金が「示談金」です。
この意味で、「示談金」と「賠償金」は、同じものとなります。
同じ「賠償金」であっても、裁判によって賠償金を払ってもらうときには、賠償金は示談金とは呼びません。
慰謝料とは
それでは、「慰謝料」は、どのようなものなのでしょうか?
慰謝料は、「精神的苦痛に対する損害賠償金」です。
意外に感じるかもしれませんが、これは、交通事故の賠償金全体から見ると、ほんの一部に過ぎないものです。
以下で、交通事故の賠償金全体の内容として、どのようなものがあるのか、見てみましょう。
交通事故の賠償金(示談金)に含まれるもの
交通事故が賠償金(示談金)を受けとるとき、具体的には、以下のような種類の賠償金が含まれています。
- 物的損害
- 積極損害
- 消極損害
- 精神的損害(慰謝料)
物的損害
物的損害とは、車が壊れたり、建物や施設、道路上の設置物が壊れたりした場合の「物」に発生した損害です。
たとえば、車の修理費用や買い換え費用、代車損害や荷物が破損した際の損害などが該当します。
これは、慰謝料ではありませんが、「賠償金」の一部であり「示談金」の一部として支払われます。
積極損害
積極損害とは、被害者が実際に支払わなければならなくなった分の損害です。
たとえば、治療費や入院雑費、通院交通費や介護費用、器具装具の費用、自宅改造費用などが損害額として該当します。
これも、慰謝料ではありませんが「賠償金」の一部であり「示談金」の一部として支払われます。
消極損害
消極損害とは、交通事故によって失われてしまった利益のことです。
たとえば、交通事故でケガをしたために仕事ができない期間が発生すると、休業損害が発生するので休業補償を請求することができます。
後遺障害が残ると、生涯にわたって労働能力が制限されて収入が落ちてしまいますから、減収分を「逸失利益」として請求することができます。
死亡した場合には、被害者は一切の収入を得られなくなりますから、やはり「逸失利益」を請求することができます。
これらの賠償金も、すべて慰謝料とは異なるものですが、示談するときには「示談金」の一部として支払われます。
精神的損害(慰謝料)
精神的損害とは、交通事故で被害者が受けた精神的苦痛に対する賠償金です。まさしく、これが「慰謝料」です。
つまり、慰謝料は、数ある賠償金の項目の中の1つに過ぎないのです。
以上のように、示談交渉によって賠償金を決めるとき「賠償金」=「示談金」となりますが、「慰謝料」<「賠償金」の関係となります。
世間一般では、「賠償金」=「示談金」=「慰謝料」だと思われていることがありますが、これは間違った認識ですから、ここで正しておきましょう。
大切なのは、「示談金」をアップさせること
今までの説明のとおり、慰謝料は示談金より小さな概念となります。
当然、金額を比べるときも、慰謝料の金額は賠償金全体の金額と比べて、かなり少なくなります。
慰謝料は数百万円でも、逸失利益を含めた賠償金全体では数千万円になるケースなども普通にあります。
そこで、交通事故で示談交渉をするときには「慰謝料」にだけ注目するのではなく、他の損害賠償の項目もしっかりと検討して「示談金」全体をアップさせることが重要です。
示談金を受けとれる時期
治療費が足りなくなったら、すぐに申請すれば良いのかな?
示談交渉は治療内容によってかかる期間が変わってくるんだよ。
交通事故で被害を受けたとき、加害者からは、いつのタイミングで示談金を支払ってもらうことができるのでしょうか?
これについては「示談が成立したとき」となります。
交通事故が発生したからといって、すぐに示談金を受けとることはできません。
まずは、損害内容が確定するのを待ち、加害者や相手保険会社と示談交渉を進めて、話し合いが成立したときに、ようやく示談金を受けとることができるのです。
また、基本的に「一部だけ先に受けとる」こともできません。
示談金は、示談が成立したときの一括払いとなります。
被害者がお金に困ったからと言って、「先に示談金をもらって生活をする」ということは基本的にできません。
お金に困ったら、相手の自賠責保険に対して仮渡金の請求をしたり、自分が加入している保険会社から人身傷害補償保険などの支払いを受けたりして、何とかしのいでいく必要があります。
示談のタイミングとは
交通事故後、すぐに示談交渉を開始するわけではありません。
示談には、タイミングがあります。
示談交渉では、損害賠償金額の計算をして、支払い方法を決定しなければなりません。
そこで、前提として「損害内容が確定している」ことが必要です。
損害内容が不確定な状態では、賠償金額を決めることができないからです。
損害内容が確定する時期は、交通事故の種類によって異なりますから、以下で、交通事故のパターン別に、示談交渉のタイミングを説明します。
物損事故のケース
物損事故の場合、自動車の修理費用が明らかになれば、だいたいの賠償金額が確定します。
そこで、事故後、自動車の修理見積もりを出して、だいたいの金額が明らかになった時点で示談交渉を開始します。
人身事故(傷害)のケース
人身事故で、被害者がケガをした場合、損害内容が確定するのは「症状固定」したときです。
症状固定というのは、それ以上治療を継続しても、症状が改善しなくなった状態のことです。
交通事故では、症状固定するまでの治療費や入通院慰謝料を請求することができます。
また、症状固定時に残っている症状について、後遺慰謝料障害が認定されます。
このように、症状固定時は、交通事故の賠償金計算の基準となる時期です。
症状固定する時期は、ケースによってさまざまです。
2ヶ月で症状固定することもありますし、1年以上かかるケースもあります。
どんなに治療に長くかかった場合でも、基本的に治療を終えて症状固定するまでは示談交渉を開始できないので、待ち続ける必要があります。
死亡事故のケース
死亡事故の場合、損害が確定するのは、被害者が死亡して、葬儀と49日の法要を終えたタイミングです。
そこで、だいたいのケースでは、49日の法要を終えた頃から示談交渉を開始します。
示談が成立するまでの流れとかかる期間
以下では、交通事故後、示談が成立するまでの流れとかかる期間を見てみましょう。
物損事故の場合
物損事故の場合には、自動車の修理費用の見積もりが出てから、加害者の保険会社の担当者との間で、示談交渉を開始します。
そして、各種の損害賠償金の計算方法について話し合い、合意します。
合意ができたら、示談書を作成して、加害者と被害者がそれぞれ署名押印します。
こうして示談書ができたら、速やかに保険会社から、示談金が振り込まれます。
物損事故の場合、示談ができるまでの期間は、交通事故後2~3ヶ月程度であることが多いです。
人身事故(後遺障害なし)の場合
人身事故で、被害者に後遺障害がなかった場合には、まずは症状固定(完治)するまで通院を継続する必要があります。
完治して治療を終えたら、その後に加害者や加害者の保険会社と話し合いをして、賠償金の金額や支払い方法を決定します。
双方に折り合いがついたら、その内容で示談を成立させて、示談書を作成します。
その後、速やかに相手から示談金が振り込まれます。
この場合、交通事故から示談が成立するまでの期間は、ケガの内容やどのくらい治療にかかったかによって、異なります。
治療期間が長引けば、その分示談交渉を始めるタイミングが遅くなってしまいます。
ただ、後遺障害がない場合、示談自体にはさほど時間がかからないことも多く、示談交渉開始後3ヶ月程度もあれば、話し合いができることが多いでしょう。
人身事故(後遺障害あり)の場合
人身事故の中でも、被害者に後遺障害が残ると、多少手続きが複雑になります。
この場合にも、まずは症状固定するまで治療を継続しなければなりません。
症状固定すると「後遺障害等級認定」とい手続きを行う必要があります。
後遺障害等級認定とは、後遺障害の内容や程度を正式に認めてもらうための手続きです。
きちんと認定されなければ、後遺症が残っていても、必要な慰謝料や逸失利益を請求することができないので、確実に後遺障害認定を受ける必要があります。
後遺障害等級認定には、数ヶ月くらいかかってしまうこともあります。
そして、認定結果に応じて、相手や相手の保険会社との示談交渉を進めます。
慰謝料を含めた損害賠償金の金額について折り合いがついたら、示談が成立して示談書を作成します。
すると、速やかに相手の保険会社から、示談金が振り込まれます。
後遺障害がある事案の場合、話し合いがこじれたりすることもあり、期間は長くなりやすいです。示談交渉開始後、半年以上かかることもあります。
人身事故(死亡)の場合
死亡事故の場合には、49日の法要が過ぎた頃、被害者の家族に相手の保険会社から連絡があることが多いです。
そして、「相続人の代表を決めるように」と言われます。
相続人が複数いるときには、示談交渉を進めるときに、誰か1人が窓口にならないといけないのです。
そこで、相続人が話し合って、代表者を決めます。
代表者が決まったら、その人を窓口にして、加害者の保険会社と話し合いをすすめていきます。
慰謝料を含めた損害賠償請求の金額について、折り合いがついたらその金額で示談をします。
示談書を作成したら、示談金が振り込まれます。
その後、相続人達の間で、示談金の分配方法を決定しなければなりません。
通常は「法定相続分」に従って分配します。
法定相続分とは、民法によって定められている、それぞれの相続人の相続割合のことです。
死亡事故の場合、示談が成立するまでの期間は、交通事故後4~6ヶ月くらいは見ておいた方が良いでしょう。
示談金をアップさせるためのコツ
加害者に請求できる示談金を少しでもアップさせるためには、どのようなことが重要なのでしょうか?
必ず症状固定するまで通院する
まずは、必ず「症状固定」するまで通院を継続することが重要です。
交通事故では「症状固定」するまでの分の治療費や入通院慰謝料が支払われますが、症状固定前に通院を辞めてしまったら、それまでの分の治療費と慰謝料しか受け取れなくなってしまうからです。
後遺障害も、基本的に症状固定時に残っている症状について認められますから、症状固定前に通院を辞めると、後遺障害認定も受けられなくなってしまうおそれがあります。
通院が面倒になったり忙しかったりして、途中で辞めてしまう人がいますが、そのような対応はまずいです。
また、加害者の保険会社が、通院を辞めさせようとして、
「そろそろ治療は終わり」
「これ以上通院するなら治療費は支払えません」
などと言って治療費の支払いを打ち切ってくることがありますが、そのような場合でも、治療を辞めてはいけません。
健康保険に切り替えてでも、最後まで通院を継続することが、慰謝料を含めた示談金アップのコツです。
確実に、後遺障害認定を受ける
慰謝料や示談金の金額に大きく影響するのが「後遺障害認定」です。
後遺障害認定を受けると、高額な後遺障害慰謝料や逸失利益が支払われるので、一気に示談金がアップするのです。
後遺障害認定を受ける方法としては、被害者請求と事前認定という2種類の方法があります。
より確実に等級認定を受けたいなら、「被害者請求」を利用することをお勧めします。
被害者請求は、被害者自身が手続きを進める方法なので、自分の裁量で有利な証拠などを提出することもできるからです。
ただ、被害者請求にはたくさんの書類が必要ですし、医学的な知識なども必要とされることが多いので、できれば弁護士に依頼する方が良いでしょう。
過失割合を小さくする
交通事故の示談金をアップさせるためには、被害者の過失割合を小さくすることが重要です。
被害者の過失割合が高くなると、その分相手に請求できる示談金を減額されてしまうからです。
しっかりと事故の状況を分析し、裁判所が認める適切な過失割合基準をあてはめて、お互いの過失割合を割り出しましょう。
示談をプロ(弁護士)に依頼する
示談金をアップさせるためには、プロである弁護士に任せることが一番です。
弁護士が示談交渉をする場合「弁護士基準」という賠償金計算基準が適用されます。
弁護士基準は、裁判所も採用する法的な根拠を持った適切な基準です。
被害者が自分で示談交渉をするときには、弁護士基準ではなく、自賠責基準や、任意保険会社が勝手に作った任意保険基準が適用されるので、賠償金の金額が不当に下げられてしまいます。
弁護士に依頼すると、保険会社基準から弁護士基準に適用が変わるだけで、慰謝料が2倍や3倍程度になることもあります。
また、弁護士は、後遺障害認定に注力している方も多いので、任せていたら、適切に、より高い等級の後遺障害認定を受けることができて、賠償金がアップします。
過失割合に争いがある場合にも、弁護士に依頼したら、事故の状況を分析し、判例の適切な過失割合の基準を当てはめて、被害者が不利にならないように対応してくれます。
そこで、示談金をアップさせたいなら、まずは交通事故トラブルに注力している弁護士を探して、示談交渉を依頼しましょう。
示談のやり直しはできないから、まずは弁護士に相談を!
高額な弁護士費用がかかってしまうんじゃない?
いったん示談書に署名押印をして示談が成立してしまったら、基本的に、やり直しはできません。
そこで、示談書に署名押印をする前には、本当にその内容で良いのか、慎重に検討する必要があります。
保険会社が提案してきた示談内容は、弁護士のところに持っていくと「不当に安い」と判明することが多いです。
そんなとき、弁護士に示談交渉を依頼すると、数百万円、数千万円以上の賠償金アップにつながることもあります。
相手の保険会社と示談交渉を始めるときや、すでに示談を開始していて示談書に署名押印をしようとしているとき、一度弁護士に相談してみましょう。
示談書にサインをするのは、その後でも遅くはありません。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。