安全運転義務違反か、過労運転によって罰金や罰則は変わってくるんだよ。
今回の記事では、居眠り運転を起こしてしまうと、罰金や罰則はどうなるのか、詳しくチェックしていこう。
寝不足や過労などがたたって居眠り運転をしたら、どのような処罰を受けるかご存知でしょうか?
実は「居眠り運転罪」などの罰則は存在しません。
居眠りで運転してしまった場合、多くの場合には「安全運転義務違反」となりますが、ときには「過労運転」として厳しく処罰されます。
今回は安全運転義務違反と過労運転の違いや処罰内容、居眠り運転による交通事故が加害者や被害者に与える影響について解説します。
目次
居眠り運転した場合の点数、罰則
運転中に居眠りをしてしまったら、加害者にはどのようなペナルティが科されるのでしょうか?
道路交通法違反に対するペナルティには「点数加算」と「反則金」「刑事罰」があります。
それぞれについてみていきましょう。
居眠り運転での加点数
居眠り運転をすると、事故を起こさなくても運転免許の点数が加算されます。
日本の運転免許制度では、道路交通法違反の行為をしたり交通事故を起こしたりしたときに「免許の点数が加算される」制度になっています。
点数が一定以上になると免許が停止されたり取り消されたりします。
居眠り運転の場合、安全運転義務違反または過労運転に該当して点数が加算されます。
安全運転義務違反とは
安全運転義務違反とは、車のハンドルブレーキ操作を確実に操作せず、道路交通や他人に危険を発生させることです。
道路交通法上、運転者には安全運転すべき義務が課されていますが(道路交通法70条)、居眠り運転は危険なので安全運転義務違反となります。
安全運転義務違反の行為をすると、運転免許の点数が2点加算されます。
過労運転とは
居眠り運転をしたとき「過労運転」と判断される可能性があります。
過労運転とは「過労の影響によって正常な運転ができないおそれのある状態での運転」です。
過労状態での運転は交通事故の危険を高めるので道路交通法によって禁止されています(道路交通法66条)。
過労運転で居眠りをすると、運転免許の点数は25点加算されます。
これまでに前歴のないドライバーでも一発で免許取消となり、2年間は再取得できなくなります。
居眠り運転による「反則金」
だけど、過労運転の場合には、罰金ではなく刑事事件として立件されてしまう事になるんだ。
居眠り運転をすると「反則金」を科されるケースがあります。
反則金制度とは、道路交通法違反の行為をしたときに一定金額のお金を払うことにより、刑事罰を免れるものです。
道路交通法違反には罰則がもうけられているので、違反者がいたら本来は刑事事件として立件し裁判を開いて処罰しなければなりません。
しかし軽微な違反についてまですべて裁判をするのは大変ですし不経済です。
そこで軽微な違反の場合「反則金」を払うことによって刑事事件にしない扱いにしています。
反則金を払ったら刑事裁判にならないので前科もつきません。
居眠り運転で反則金制度が適用されるのは「安全運転義務違反」のケースのみです。
その場合の金額は以下の通りです。
- 普通自動車 9,000円
- 大型自動車 12,000円
- 二輪車 7,000円
- 小型特殊車 6,000円
- 原付 6,000円
過労運転は重大な違反なので反則金制度が適用されません。
過労運転が発覚したら基本的に刑事事件として立件され、不起訴にならない限り刑事罰が適用されます。
居眠り運転の刑罰
居眠り運転をすると、どのくらいの刑罰が適用されるかご存知でしょうか?
安全運転義務違反となった場合、反則金を支払えば刑事罰は適用されません。
しかし定められた反則金を支払わなかったら刑事裁判となり「3か月以下の懲役または5万円以下の罰金刑」が適用される可能性があります。
過労運転をすると「3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑」が適用される可能性があります。
居眠り運転で交通事故を起こしたらどうなる?
安全運転義務違反よりも過労運転の方が、加算点は大きくなるよ。
上記はすべて居眠り運転をしたけれども交通事故を起こさなかった場合の点数や罰則です。
居眠り運転で交通事故を起こしたら、上記より加算点数が大きくなりますし罰則も重くなります。
免許の点数加算や罰則適用があるのは、基本的に「人身事故」のケースです。
居眠り運転で人身事故を起こすと、被害者の負傷の程度や死亡の有無、加害者の過失割合の程度に応じて点数が加算されます。
最低でも4点(安全配慮義務違反と人身事故)、最高22点(死亡事故でもっぱら加害者に過失があった場合)です。
また加害者の過失の程度に応じて適用される刑罰が変わります。
安全運転義務違反で人身事故を起こした場合には「過失運転致死傷罪」が成立して「7年以下の懲役または100万円以下の罰金刑(自動車運転処罰法5条)」となる可能性が高くなります。
居眠り運転が「過労運転」と判断されると「危険運転致死傷罪」が成立し、被害者が負傷したときに「15年以下の懲役刑」、被害者が死亡した場合に「1年以上の有期懲役刑(自動車運転処罰法2条)」が適用される可能性が高くなります。
過労運転と安全運転義務違反の違い
居眠り運転をした場合や居眠り運転で交通事故を起こしたときの免許の加点点数や適用される刑事罰は、安全運転義務違反となるのか過労運転となるのかで大きく異なります。
過労運転と判断されると免許は一発取消、刑事罰も重くなり、加害者へのペナルティはかなり厳しくなります。
同じ居眠り運転の中でもどのようなケースでどちらの義務違反が適用されるのか、区別をみてみましょう。
安全運転義務違反になるケース
居眠り運転をした場合、多くの場合に安全配慮義務違反となります。
普通に運転をしているときに居眠りして以下のような行動をとってしまった場合、だいたいは安全配慮義務違反です。
- 不適切なハンドルブレーキ操作、ペダルの踏み間違いなど
- 前方不注意
- 他の車両の動きに注意を払わず危険を発生させた
- 安全不確認
- 速度違反
- 誤った予測(車両の大きさや速度、相手の車の速度や動きを見誤ること)
一般ドライバーが「ついつい居眠りしてしまった」場合、たいていは安全運転義務違反となると考えて大丈夫です。
過労運転になるケース
過労運転となるのは、過労によって「正常な運転ができない可能性があるのに運転した」ケースです。
「正常な運転ができない」というのは、たとえば飲酒や薬物などの影響によってまともに運転できない程度の状態です。
たとえばトラック運転手などで過労が蓄積しており運転すると明らかに危険なのに、仕事で無理矢理運転して案の定居眠りしてしまった場合などに過労運転が成立しやすいといえます。
一般ドライバーでも過労運転になる可能性はありますが、「どうしても運転しなければならない状況」に追われる職業ドライバーの方が過労運転をしてしまう危険性は高くなります。
居眠り運転と過失割合
どんなものが居眠り運転の証拠になるのか、チェックしてみよう。
交通事故の当事者が居眠り運転をしていた場合、過失割合が上がります。
ケースや状況によりますが、だいたい1~2割は過失割合を加算されると考えましょう。
居眠り運転を立証する方法
交通事故が発生したとき、相手が居眠りしていたのに否定されるケースもあります。
そのようなときには相手の居眠りを被害者が立証しなければなりません。
居眠り運転の立証方法をみていきましょう。
居眠り運転の証拠となるもの
一般的に居眠り運転の証拠になるのは以下のようなものです。
ドライブレコーダーの記録
事故の直前から相手が明らかにおかしなふらふら運転をしており、事故が発生したときにも相手がこちらをまったく見ていないような動きをしていたなど、不自然な状況がドライブレコーダーの記録で明らかになれば、相手が居眠りしていた事実を立証できる可能性が高くなります。
目撃証言
事故前後の相手の不自然な動きや相手が目をつむって寝ていたところを見ていた人がいたら、その目撃証言が居眠り運転の証拠になります。
相手の供述調書
交通事故後、警察は事故当事者の供述調書を取ります。
その際相手が「居眠りしていました」などと供述すれば、その供述調書は居眠り運転の証拠になります。
実況見分調書
人身事故が発生すると、現場に到着した警察官が実況見分を行います。
たとえば相手が明らかに不自然な動きをして事故が発生した場合、相手がまったくブレーキを踏んでいなかった場合などには実況見分調書の内容によって相手の居眠り運転を推測できるケースがあります。
「相手の供述調書」や「実況見分調書」は検察庁から取り寄せる必要がありますが、相手の刑事事件の進捗状況によって開示を受けられないケースもあり、手続きにも手間がかかります。
また実況見分調書を入手しても「居眠りしていた」とはっきり書いてあるわけではないので、そこから「なぜ相手が居眠りしていたと言えるか」説明しなければなりません。
このような対応は交通事故について専門知識を持っている弁護士でないと困難です。
居眠り運転の被害に遭い、相手が居眠りを否定しているときには、一人で悩まずに弁護士に相談してみてください。
居眠り運転は保険適用となるのか
交通事故が起こったときに加害者が自動車保険に加入していれば、通常は対物賠償責任保険や対人賠償責任保険が適用されて保険会社から被害者へと賠償金が支払われます。
人身事故であれば自賠責保険も適用されます。
また本人が自動車保険の人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険に入っていれば、自分の自動車保険からも保険金が支払われるものです。
では居眠り運転によって事故を起こしたときにもこれらの保険は適用されるのでしょうか?
居眠り運転の被害者に対する保険金
交通事故によって支払われる保険金には、被害者に対して支払われる賠償金と加害者に対して支払われる保険金があります。
これらのうち、被害者に対して支払われる賠償金や自賠責の保険金は、加害者が居眠り運転をしていても適用されます。
居眠り運転は加害者側の過失であり、加害者の過失が高いことによって被害者が救済を受けられなくなるのは不合理だからです。
加害者が居眠り運転をしていても対物賠償責任保険、対人賠償責任保険、自賠責保険すべてが適用されます。
ただし家族限定がついている、年齢制限に該当する、天変地異が発生したなど別の保険不適用要因がある場合には保険が適用されません。
居眠り運転の加害者本人に対する保険金
一方、加害者に支払われる人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険、車両保険などの適用についてはケースバイケースです。
一般ドライバーがついつい眠ってしまって事故を起こした安全運転義務違反のケースなどでは、多くの場合上記のような保険が適用されると考えて良いでしょう。
一方職業ドライバーが明らかに通常運転をできる状態ではないのに無理に運転して過労運転となるケースでは、加害者の過失が高すぎるので加害者に支払われる保険が適用されない可能性が高くなります。
また居眠り運転をすると自分の過失割合が高くなるので相手の対人対物賠償責任保険から支払われる保険金が減額されます。
自賠責保険の場合にも「重過失減額」があるので、居眠り運転によって過失割合が7割以上になると受け取れる保険金額が減額されたりなくなったりする可能性があります。
以上をまとめると、以下の通りです。
- 事故の相手が居眠り運転をしていた場合には基本的に保険が適用される
- 自分が居眠り運転をしたら自分の保険会社や相手の保険会社から保険金を払ってもらうのは厳しくなる
まとめ
過労運転の方が罰則が厳しいということが良くわかったよ。
居眠り運転は非常に危険です。
たとえ仕事上であっても寝不足や過労状態で運転するのは避けましょう。
万一居眠り運転で事故を起こしてしまったり、事故の相手が居眠り運転していたのに居眠りを否定したりするようなケースでは、1度弁護士に相談するようお勧めします。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。