支払う慰謝料は過失割合によって変わってくるんだけれど、高速道路の場合には、一般道とは異なるルールにより過失割合が決まってくるんだよ。
今回の記事では高速道路で交通事故を起こしてしまった場合の過失割合について詳しく見ていこう。
高速道路で交通事故が発生すると、一般道路のケースより被害が大きくなりがちです。
大けがをしてしまったとき、どのくらいの慰謝料や賠償金を払ってもらえるのでしょうか?
実は高速道路上では一般道路とは異なるルールが適用されるため、過失割合の考え方が異なってきます。
今回は高速道路上で事故に遭った場合の慰謝料・賠償金や過失割合について解説します。
目次
高速道路でも賠償金の計算方法は同じ
高速道路上の交通事故では被害が大きくなるケースが多いため、加害者に請求できる賠償金や慰謝料が一般道路より高額になるイメージがあるかもしれません。
ただ、慰謝料を含む賠償金の計算方法自体は一般道でも高速道路上でも同じです。
基本的には「被害者に発生した損害の程度に応じて」賠償金や慰謝料を計算します。
高速道路だからといって慰謝料が特別高額になることはありません。
後遺障害が残ったり死亡したりして大きな損害が発生すれば、一般道でも高速道路でも同じように多額の賠償金を請求できます。
高速道路上の事故で高額な賠償金が発生するイメージがあるのは、高速道路上の事故が大事故につながりやすいからです。
たとえば一般道の事故ではむちうちで済むケースも多いですが、高速道路上で衝突すると車が大破してドライバーが死亡する可能性も高くなります。
賠償金の計算方法が違うのではなく、損害が大きくなるので賠償金が高額になります。
言い換えれば、高速道路でも損害が小さければ慰謝料・賠償金は少額です。
以上のように「一般道でも高速道路でも賠償金の計算方法が同じ」である点をまずは把握しておきましょう。
高速道路と一般道では過失割合が異なる
高速道路と一般道の交通事故では「過失割合」の考え方が大きく異なります。
過失割合とは、事故の当事者それぞれに認められる損害発生への責任です。
過失割合が高くなるとその分相手に請求できる賠償金額が減額されるので、被害者にとって過失割合は非常に重要です。
高速道路では一般道とは異なる道路交通のルールが適用されるため、基本の過失割合や修正要素の内容が一般道路と違います。
そのため、高速道路上の事故では加害者に請求できる賠償金の金額が一般道より大きく減額されたり、反対に多額になったりする可能性もあります。
以下ではさまざまな高速道路上の交通事故における過失割合をみていきましょう。
高速道路での交通事故の過失割合
高速道路では一般道路と違い、すべての車両が一定以上のスピードを出して走行することが前提となっており「最低走行速度」も定められています。
また信号がなく、歩行者や自転車などの存在も予定されていません。
こうした状況の違いがあるため、一般道とは異なる過失割合のルールが適用されます。
合流地点での接触事故
高速道路では、合流地点で横から入ってくる車と接触してしまう事故が多発します。
基本の過失割合
合流地点における基本の過失割合は、以下のとおりです。
- 自動車対自動車
直進車が30%、合流車が70% - 自動車対バイク
バイクが直進している場合、バイクが20%、自動車が80%
自動車が直進している場合、自動車が40%、バイクが60%
バイクは自動車(四輪車)よりも立場が弱いため保護が強くなり、過失割合が低めになります。
修正要素
以下のような事情があれば修正要素が適用されて過失割合が修正されます。
- 合流車が進入路の手前で進入
合流車の過失割合が10%程度加算されます。 - 合流車に著しい過失や重過失
合流車がスピード違反や飲酒運転、片手運転やスマホを見ながらの不適切な運転などをしていると、著しい過失や重過失が認められて合流車の過失割合が10~20%程度加算されます。 - 直進車がスピード違反
直進車がスピード違反していたら、違反の程度に応じて直進車の過失割合が10~20%程度加算されます。 - 直進車が急加速
直進車が急加速したために事故につながった場合、直進車の過失割合が10~20%程度加算されます。 - 直進車に著しい過失、重過失
直進車が飲酒運転、著しいハンドルブレーキ操作不適切、スマホを見ながらの運転などをしていると、著しい過失や重過失が認められて直進車の過失割合が10%程度加算されます。
進路変更時の事故
高速道路上では、進路変更時に接触事故が発生するケースも非常に多くなっています。
その場合の基本の過失割合は以下の通りです。
基本の過失割合
【通常の走行車線から追越車線へ進路変更するケース】
- 自動車対自動車
直進車が20%、進路変更車が80% - 自動車対バイク
バイクが直進している場合、バイクが10%、自動車が90%
自動車が直進している場合、バイクが70%、自動車が30%
【 それ以外のケース(追越車線から走行車線へ変更など)】
- 自動車対自動車
直進車が30%、進路変更車が70% - 自動車対バイク
バイクが直進している場合、バイクが20%、自動車が80%
自動車が直進している場合、バイクが40%、自動車が60%
高速道路上での落下物による事故
高速道路上に「物」が落ちていることが原因で交通事故が発生するケースもよくあります。
先行しているトラックから荷物が落下したため後続車両が避けようとして事故につながるケースなどが典型です。
落下物が原因となる事故の過失割合をみていきましょう。
後続車両にも過失が認められる
先行車の落とした物によって事故が発生した場合、後続車両には責任がないと思うかもしれません。
しかし高速道路上では各車両がスピードを出して進行しているため、後続車両には前方車両と充分な車間距離を保つよう義務が課されます。
また落下物に気づかなかった場合後続車両に「前方不注視」の過失も認められます。
よって後続車両にも一定の過失割合があると考えられています。
基本の過失割合
落下物による交通事故のケースにおける基本の過失割合は以下の通りです。
- 物を落とした先行車両が60%、後続車両が40%
修正要素
- 事故現場が視認不良な状況であれば、後続車両の過失割合が10%減算されて30%となります。
- 追越車線で事故が起こった場合、後続車両の過失割合が10%減算されて30%となります。
- 後続車両がバイクの場合、事故を避けにくくなるので過失割合が減算されてバイクの過失割合が30%、先行の自動車の過失割合が70%となります。
- 後続車両や先行車に著しい過失や重過失があれば、それぞれ10~20%過失割合が加算されます。
- 後続車両が速度違反をしていた場合、危険が高まるので後続車両の過失割合が10~20%程度、加算されます。
高速道路上に歩行者がいた場合
高速道路上にもまれに「歩行者」が存在します。
本来、高速道路の本線道路上には歩行者が立ち入ってはならないのですが、駐停車したときなどに本線道路に出てきてしまう人がいるためです。
高速道路上で歩行者と自動車が接触した場合、どのくらいの過失割合になるのかみていきましょう。
歩行者の過失割合が高くなる
一般道では歩行者が非常に強く保護されるので、信号無視でもしていない限り歩行者の過失割合が極めて低くなります。
しかし高速道路上では歩行が禁止されています(高速自動車国道法17条1項)。
本線道路上で事故が発生した場合、歩行者は法律違反をしていることになるので歩行者の過失割合が高くなります。
基本の過失割合
- 歩行者が80%、自動車が20%
高速道路上を歩行していて自動車にはねられたら、大けがをしたり死亡したりしても「20%」しか賠償金を受け取れない可能性が高くなります。
高速道路上では絶対に道路を歩いてはなりません。
駐停車中の車両の近くで事故が発生したケース
高速道路でもさまざまな事情で車がやむなく駐停車することがあります。
駐停車車両がある場合、走行車からも「近くに人がいるかも知れない」と予想しやすくなるので、走行車両側の過失割合が上がり歩行者側の過失割合が下がります。
基本の過失割合
- 歩行者が40%、自動車が60%
高速道路上での追突事故、玉突き事故
高速道路上では追突事故や3台以上の車の玉突き事故も数多く発生します。
以下でそういった場合の過失割合をみていきましょう。
前方車両にも過失が認められる
一般道路で追突事故が発生すると後続車両の過失割合が非常に大きくなり「前方車両が急ブレーキを踏んだ」などの事情がなければ、後続車両の過失割合が100%となるケースが多数です。
たとえば駐停車中の車両に一方的に後続車両が追突したら、追突車の過失割合は100%です。
しかし高速道路では、前方車両もスピードを出していることが前提で「駐停車」が予定されていないため、この原則が修正されます。
以下で具体的な過失割合をみていきましょう。
前方車両の責任により駐停車していた場合
高速道路で駐停車中の車両に追突した場合、「どういった理由で駐停車していたか」によって過失割合が変わります。
たとえばエンジントラブルやガス欠、事故を起こした場合など「前方車両に原因のある事情」で駐停車していた場合、前方車両の過失割合が高くなります。
基本の過失割合
- 前方車両が40%、後続車両が60%
前方車両の駐停車後の対応に問題があった場合
駐停車の原因がやむを得ないものであっても、駐停車後の対応に問題があるケースがあります。
たとえば退避できるのに退避しなかった、停止表示機材を置かなかった、非常用のハザードランプを点灯させなかった場合などです。
基本の過失割合
駐停車の原因はやむを得ないものであっても、前方車両の駐停車後の対応に問題があった場合の基本の過失割合は、以下の通りです。
- 前方車両が20%、後続車両が20%
前方車両の駐停車後の対応に問題がなかった場合
駐停車の原因がやむを得ないものであり、かつ駐停車後の対応にも問題がなかった場合にも追突事故が発生する可能性があります。
たとえば退避不可能な状況にあってやむなく道路上に停止し、後続車両に危険を知らせるために停止表示器材を置いてハザードランプを点灯させていたにもかかわらず、後続車両の不注意で追突されたケースなどです。
こういった場合、追突された車両には過失がないので過失割合は0%となります。
基本の過失割合
- 追突された車両が0%、追突した車両が100%
前方車両が急ブレーキをかけた場合
前方車両が急ブレーキをかけたために後続車両が追突した場合、当然前方車両の過失割合が大きくなります。
基本の過失割合
- 前方車両が50%、後続車両が50%
玉突き事故の考え方
3台以上の車が関係する玉突き事故の場合には、基本的に「2台の追突事故の過失割合」を基準に過失割合を算定します。
たとえば一番前の車にまったく過失がなく停車しているところに2番目の車が衝突し、続いて3番目の車が衝突した場合、1番目の車の過失割合は0%となり2番目の車と3番目の車に過失割合が認められます。
具体的な割合は事故の状況によって異なりますが、たとえば2番目の車が急ブレーキを踏んだなら、2番目と3番目の車の過失割合がそれぞれ50%ずつとなります。
高速道路の事故で適切な賠償金を獲得するために
修正要素によって過失割合が変わってくるんだね。
適切な過失割合にするためにも、高速道路で交通事故を起こしてしまった時には、専門家に相談するのがお勧めだよ。
高速道路で事故が発生すると、一般道の事故よりも重傷になりやすく死亡リスクも高くなります。
また一般道とは異なる過失割合が適用され、適切な賠償金の計算が難しくなるケースも少なくありません。
困ったときには弁護士に相談して、不利益を受けないようにきちんと慰謝料や賠償金を払ってもらえるように対応しましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。