今回の記事では後遺障害9級と認定された場合の慰謝料の計算方法や、弁護士に依頼するメリットについて、詳しく見ていこう。
交通事故で後遺障害9級と認定されたら、高額な「後遺障害慰謝料」や「逸失利益」を受け取れます。
後遺障害9級に該当する症状、慰謝料の相場、より確実に後遺障害認定を受ける方法を解説します。
目次
後遺障害9級を取得するには
後遺障害9級は、14段階ある後遺障害等級の中で上から9番目の等級です。
だいたい真ん中くらいの重症度といえるでしょう。
認定されるのは、以下の17種類の症状のうち、いずれかが残ったケースです。
- 1号 両眼の視力が0.6以下になったもの
両眼の視力が0.6以下になった場合です。
メガネやコンタクトなどの「矯正視力」が0.6以下である場合で、矯正可能なら後遺障害認定されません。 - 2号 片眼の視力が0.06以下になったもの
片眼の矯正視力が0.06以下になった場合です。 - 3号 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
半盲症とは、視野の右半分または左半分を失う症状です。
視野狭窄は視野が狭まる症状、視野変状は視野内に穴などができて「見えない部分」が発生する症状です。 - 4号 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
両眼のまぶたが欠損し、閉じても角膜を覆いきれない状態になった場合です。 - 5号 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
鼻の軟骨を失い、呼吸や嗅覚の機能を大きく失った場合に認定されます。 - 6号 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
咀嚼機能とは、ものを噛んで飲み込む機能です。
言語機能とは、言葉を発する機能です。
固い食べ物を食べられず、かつ音の種類によっては発音が制限されるときに9級が認定されます。 - 7号 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
両耳の聴力が低下し、1メートル以上離れると人の普通の話し声を聞き取れなくなった場合です。 - 8号 片耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話し声を解することが困難である程度になったもの
片耳の聴力が「間近でないと大声も聞こえない状態」になり、かつもう片方の耳が「1メートル以上離れると普通の話し声を聞き取れなくなった場合」に認定されます。 - 9号 片耳の聴力を全く失ったもの
片耳の聴力が完全に失われ、純音聴力レベルが90dB以上になると認定されます。 - 10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
脳障害や神経障害、精神障害により仕事が大きく制限されるケースです。
高次脳機能障害、てんかん、麻痺、うつ病などの症状が残ったときに認定される可能性があります。 - 11号 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
心臓や肺、消化器などの内臓機能が低下して労働が大きく制限される場合です。 - 12号 片手のおや指又はおや指以外の2の手指を失ったもの
片手の親指または親指以外の2本の指を失った場合です。 - 13号 片手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの
片手において、親指を含む2本の指の用を廃した場合、または親指以外の3本の指の用を廃した場合に認定されます。
用を廃したとは、運動障害が起こって指を動かせなくなった場合や触覚・温感・痛覚などの感覚を失った場合を意味します。 - 14号 片足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの
片足の親指を含む2本以上の指を失った場合です。 - 15号 片足の足指の全部の用を廃したもの
片足の指のすべてにおいて長さが2分の1以下になったり可動域が2分の1以下に制限されたりすると、認定されます。 - 16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの
頭、顔、首の露出部分に5センチメートル以上の線状痕が残ったら9級となります。 - 17号:生殖器に著しい障害を残すもの
男性の場合には男性器の著しい欠損や勃起障害、射精障害、女性の場合には卵管の閉塞や癒着、子宮の喪失などのケースで9級が認定されます。
後遺障害9級で受け取れる慰謝料の相場
弁護士基準が一番高い計算方法となるんだ。
後遺障害9級に認定されるとどのくらいの慰謝料が支払われるのか、みてみましょう。
入通院慰謝料の計算方法
入通院慰謝料は、人身事故の被害者へ支払われる慰謝料です。
けがをすると被害者は大きな恐怖や痛みを感じて精神的苦痛を受けるので、入通院慰謝料を受け取れます。
金額については計算基準が3種類あり、それぞれ相場が異なります。
自賠責基準
自賠責基準は、自賠責保険が保険金を計算する際の基準です。
金額的には3つの基準の中でもっとも低くなります。
入通院慰謝料=治療日数×4,200円
治療日数は、以下のうち少ない方の数字とします。
- 治療期間に応じた日数(4か月通院したら120日)
- 実通院日数×2(4か月間に50日通院したら、100日)
通院日数が少なくなると減額されます。
弁護士基準
弁護士基準は、弁護士が示談交渉をするときや裁判所が計算するときに利用する基準です。
通院期間より入院期間の方が、金額は上がります。
相場は以下のとおりです。
入院 |
|
1ヶ月 |
2ヶ月 |
3ヶ月 |
4ヶ月 |
5ヶ月 |
6ヶ月 |
7ヶ月 |
8ヶ月 |
9ヶ月 |
10ヶ月 |
|
通院 |
53 |
101 |
145 |
184 |
217 |
244 |
266 |
284 |
297 |
306 |
||
1ヶ月 |
28 |
77 |
122 |
162 |
199 |
228 |
252 |
274 |
291 |
303 |
311 |
|
2ヶ月 |
52 |
98 |
139 |
177 |
210 |
236 |
260 |
281 |
297 |
308 |
315 |
|
3ヶ月 |
73 |
115 |
154 |
188 |
218 |
244 |
267 |
287 |
302 |
312 |
319 |
|
4ヶ月 |
90 |
130 |
165 |
196 |
226 |
251 |
273 |
292 |
306 |
326 |
323 |
|
5ヶ月 |
105 |
141 |
173 |
204 |
233 |
257 |
278 |
296 |
310 |
320 |
325 |
|
6ヶ月 |
116 |
149 |
181 |
211 |
239 |
262 |
282 |
300 |
314 |
322 |
327 |
|
7ヶ月 |
124 |
157 |
188 |
217 |
244 |
266 |
286 |
301 |
316 |
324 |
329 |
|
8ヶ月 |
132 |
164 |
194 |
222 |
248 |
270 |
290 |
306 |
318 |
326 |
331 |
|
9ヶ月 |
139 |
170 |
199 |
226 |
252 |
274 |
292 |
308 |
320 |
328 |
333 |
|
10ヶ月 |
145 |
175 |
203 |
230 |
256 |
276 |
294 |
310 |
322 |
330 |
335 |
任意保険基準
任意保険基準は、任意保険会社が保険金を計算するときの基準です。
各保険会社が自社基準を定めているので、明確な相場を示すのは困難な面があります。
総じて自賠責基準より少し高い程度となり、弁護士基準よりは大幅に下がります。
入院すると、通院時よりも高くなる可能性があります。
高額な入通院慰謝料を受け取る方法
入通院慰謝料を高額にするには、きちんと症状固定するまでまじめに通院しましょう。
治療期間が長くなればなるほど、慰謝料が高額になる仕組みだからです。
途中で治療を放棄するとその分慰謝料を減額されるので、注意してください。
また、なるべく頻繁に通院しましょう。
あまり通院頻度が落ちると「既に完治しているのではないか?」と疑われて慰謝料を減額されたり後遺障害認定を受けにくくなったりする可能性があります。
また、弁護士基準をあてはめることも重要です。
弁護士基準で計算すると、他の基準と比べて慰謝料額が1.8倍程度に上がります。
弁護士に示談交渉を依頼するだけで高額な弁護士基準をあてはめてもらえるので、示談交渉時には交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。
後遺障害慰謝料
後遺障害9級の後遺障害慰謝料の相場は以下のとおりです。
- 自賠責基準…690万円程度
- 弁護士基準…245万円程度
- 任意保険基準…300万円程度
弁護士基準を適用すると、他の基準の2倍以上になります。
高額な後遺障害慰謝料を受け取るためにも弁護士に示談交渉を依頼することは重要です。
後遺障害逸失利益を請求する
後遺障害9級になると、高額な後遺障害逸失利益を請求できる可能性があります。
後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残ったことによって得られなくなった将来の収入です。
後遺障害が残り、それまで普通にできていたことができなくなって労働効率が落ちると生涯年収が減ると考えられるでしょう。
そこで減収分を「後遺障害逸失利益」として請求できます。
計算方法は、以下のとおりです。
後遺障害逸失利益=事故前の年収×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
事故前の年収は、実際に事故前に稼いでいた年収です。
サラリーマンなら源泉徴収票、自営業者なら確定申告書の数字で判断します。
被害者が主婦や子どもの場合、平均賃金を使って算定します。
後遺障害9級の労働能力喪失率は35%と決められています。
ライプニッツ係数とは、将来にわたって受け取るべき収入を前払いで一括して受け取る利益を調整するための特殊な係数です。
9級の場合の後遺障害逸失利益は、5千万円を超えるケースも少なくありません。
後遺障害慰謝料よりも圧倒的に高額な数字となる可能性があります。
交通事故で後遺障害が残ったら、慰謝料だけではなく逸失利益も正しく計算してきっちり支払ってもらいましょう。
後遺障害認定の申請を弁護士に依頼するメリット
その他にも、後遺障害等級認定の手続きや、保険会社とのやり取りもお任せすることができるから、被害者の負担を大幅に減らすことができるんだ。
後遺障害等級認定の申請は、被害者が自分でもできますが弁護士に依頼するとメリットが大きくなります。
以下でその理由をご説明します。
弁護士基準で請求できる
交通事故の慰謝料や賠償金計算基準には、自賠責基準と任意保険基準と弁護士基準の3とおりがあります。
被害者が自分で示談交渉をすると低額な「任意保険基準」を適用されて、慰謝料額を減額されます。
一方、弁護士に依頼すると法的根拠のある高額な弁護士基準で計算してもらえるので、慰謝料額が大きく上がります。
後遺障害9級の場合、2倍以上になるケースも少なくありません。
弁護士に依頼するだけで賠償金が大幅にアップするのは大きなメリットとなるでしょう。
被害者請求をスムーズに進められる
後遺障害等級認定の手続きには「事前認定」と「被害者請求」があります。
被害者請求は、被害者自身が積極的に手続きに関われるので認定を受けるのに有利です。
一方で、自分で多種多様な資料を揃えなければならないなど手間がかかりますし、素人には有効活用が難しい側面もみられます。
弁護士に依頼すると、医師との相談や資料集め、申請手続きなどをすべて任せられます。
被害者請求の手続きを有効活用できて認定を受けやすくなりますし、被害者の手間も大きく省けるメリットは大きくなるでしょう。
適正な等級を取得してもらえる
後遺障害等級認定の申請をするときには、「適正な等級」を獲得することが重要です。
立証が甘いと等級を下げられる可能性もあります。
後遺障害慰謝料や逸失利益の金額は認定等級によって決まるので、等級が下がったらその分賠償金を下げられてしまうのです。
弁護士に相談すると、適切な等級が何級か教えてもらえるでしょう。
その上で、綿密に立証資料を集めて効果的に後遺障害認定請求を進められます。
万一満足できる等級の認定を受けられなかった場合には「異議申立」によって争い、審査をやりなおしてもらうことも可能です。
それでも認定されなかったら、裁判を起こして判断を変更してもらえるケースも少なくありません。
また後遺障害の症状は1つとは限りません。
2つ以上の症状が出ている場合には「併合」によって9級より高い等級を取得できる可能性もあります。
そういった判断を適切に行い状況に合った対応をするには、専門知識を持った弁護士のサポートが必要となるでしょう。
弁護士に依頼すると、適正な等級を獲得しやすいメリットがあります。
保険会社の減額へ向けた主張へ反論できる
保険会社と示談交渉を進める際、賠償金を減額するため目的でいろいろな主張をされるものです。
被害者の過失割合を高くされたり、「労働能力を喪失していない」「減収が発生していない」といわれて後遺障害逸失利益を減額されたり。
そういった主張へ適切に反論し、不当な減額を防ぐには弁護士の専門知識と交渉ノウハウが必要です。
適正な等級を獲得し、より高額な賠償金を受け取るため、交通事故の後遺障害認定は必ず弁護士に依頼しましょう。
まとめ
弁護士費用を支払ってもおつりがくるくらい賠償金のアップが可能になるんだね!
弁護士特約を利用することができれば、弁護士費用をかけずに弁護士に依頼することができるよ。
後遺障害9級の症状は決して軽いものではありません。
被害者にしてみると、仕事や生活に重大な支障が出るものばかりです。
事故後に後遺障害が残りそうな場合、早めに交通事故に詳しい弁護士に相談して後遺障害認定や示談交渉を依頼しましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。