今回の記事では、交通事故で骨折してしまった場合の慰謝料の相場や完治までの期間について、詳しく見ていこう!
交通事故に遭うと、衝撃で身体のさまざまな部分を骨折してしまうケースが多々あります。
骨折した「部位」によって慰謝料の金額が変わるのでしょうか?
今回は交通事故で骨折した場合の慰謝料相場を症状別に解説します。
目次
骨折部位によって慰謝料は変わるのか?
ひとことで「骨折」といっても、いろいろなケースがあります。
- 手指、足指の骨折
- 手首、足首の骨折
- 膝や肘の骨折
- 大腿骨の骨折
- 肋骨の骨折
- 頭蓋骨骨折
重傷で何度も手術しなければならない場合もあれば、軽傷で1ヶ月もかからず退院できるケースもあるでしょう。
後遺障害が残る場合も残らない場合もあります。
交通事故の慰謝料は、被害者の受けた「ケガの程度」によって大きく異なります。
骨折が「重傷」であれば慰謝料は高額になりますし、軽傷であれば少額です。
つまり慰謝料の金額は、骨折の「部位」ではなく「程度」によって変わると考えましょう。
たとえば同じ「肘の骨折」であっても、程度が軽くすぐ完治したら慰謝料は低くなりますが、後遺障害が残って肘を動かせなくなったら高額になります。
まずは「ケガの程度」によって慰謝料が異なるという基本を押さえておいてください。
慰謝料の金額は「治療期間」によって変わる
それではどうやって「ケガの程度」を測るのでしょうか?
実は交通事故の慰謝料の金額は、基本的に「治療期間」に応じて計算されます。
治療期間が長くかかれば、その分重傷と考えられるためです。
入通院慰謝料の具体例(通院日数別)
- 通院3ヶ月…73万円程度
- 通院6ヶ月…116万円程度
- 通院10ヶ月…145万円程度
このように、治療日数が増えれば増えるほど慰謝料額が上がる計算です。
慰謝料の金額は「入院」か「通院か」で変わる
慰謝料の金額は、「入院」したか「通院だけで済んだか」で大きく変わります。
入院すると、通院のみのケースより重傷と考えられるためです。
入通院慰謝料の具体例(入院と通院を比較)
- 通院3ヶ月…73万円程度
- 入院1ヶ月、通院2ヶ月…98万円程度
- 通院6ヶ月…116万円程度
- 入院2ヶ月、通院4ヶ月…165万円程度
- 通院10ヶ月…145万円程度
- 入院2ヶ月、通院8ヶ月…194万円程度
このように、同じ治療期間でも入院すると慰謝料が大きく上がります。
慰謝料の金額は「後遺障害」の有無で変わる
交通事故の慰謝料は「後遺障害」が残ると大幅に上がります。
後遺障害とは、治療を受けても完治せずに残ってしまった障害。
自賠責保険で後遺障害等級認定を受けると、通常の入通院慰謝料にプラスして高額な後遺障害慰謝料が支払われるのです。
骨折によって後遺障害が残ってしまうケースは少なくありません。
重傷の場合、最も重い1級に認定されることもあります。
骨折による後遺障害の具体例
- 両腕を完全に使えなくなった…1級
- 両腕を手首の関節以上の部分で失った…2級
- 片手を手首の関節以上の部分で失った…5級
- 頭蓋骨骨折で高次脳機能障害となり、日常生活を営めなくなった…1、2、3、5、7、9級のいずれか
- 手指や足指を失った…失った本数により3~14級
認定等級ごとの後遺障害慰謝料の金額相場は、以下の通りです。
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
慰謝料の金額は「計算基準」で変わる
実は慰謝料には複数の計算基準があり、どの基準を適用するかで金額が大きく変わります。
- 弁護士基準
弁護士基準は、弁護士が示談交渉するときや裁判所が賠償金を計算するときに使う法的な基準。
金額的に、3つの基準の中でもっとも高額になります。
なお、ここまで例としてあげた金額は、すべて弁護士基準で計算しています。
他の基準で計算すると、かなり減額されると考えましょう。 - 自賠責基準
自賠責基準は自賠責保険が保険金を計算するときの基準です。
金額的には3つの基準の中でもっとも低額になるケースが多数です。 - 任意保険基準
任意保険基準は、任意保険各社が独自に定めている保険金計算基準です。
金額的には自賠責基準より多少上乗せされている程度になるのが一般的です。
各基準による骨折の慰謝料計算方法
入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、どちらも弁護士基準で計算した方が、慰謝料は高額になるよ。
骨折した場合の慰謝料について、それぞれの基準で計算するとどうなるのか比較しましょう。
入通院慰謝料の場合
交通事故で骨折すると、治療期間に応じて「入通院慰謝料」が支払われます。
自賠責基準
入通院慰謝料額=日額4,200円×治療期間
「治療期間」としては、以下の2つの小さい方の数字を採用します。
- 治療期間に対応する日数
- 実通院日数×2
基本的には治療期間に対応する日数を採用します。
たとえば3ヶ月通院(90日)であれば、90日として計算、4200円×90日=378000円となります。
ただし実際に通院した日数が少なければ「実通院日数×2」を採用するので慰謝料が減額されます。
たとえば3ヶ月間に20日しか通院しなければ、20日×2×4200円=168000円に。
通院期間が長くなっても実際に週4度以上も通院し続けるのは難しいので、自賠責基準では慰謝料があまり高くならない傾向があります。
弁護士基準
弁護士基準の場合「軽傷」か「それ以外の通常程度のケガ」かで慰謝料額が異なります。
骨折した場合、多くは「通常程度のケガ」となるでしょう。
この場合、慰謝料額は以下の通りです。
入院 |
|
1ヶ月 |
2ヶ月 |
3ヶ月 |
4ヶ月 |
5ヶ月 |
6ヶ月 |
7ヶ月 |
8ヶ月 |
9ヶ月 |
10ヶ月 |
|
通院 |
53 |
101 |
145 |
184 |
217 |
244 |
266 |
284 |
297 |
306 |
||
1ヶ月 |
28 |
77 |
122 |
162 |
199 |
228 |
252 |
274 |
291 |
303 |
311 |
|
2ヶ月 |
52 |
98 |
139 |
177 |
210 |
236 |
260 |
281 |
297 |
308 |
315 |
|
3ヶ月 |
73 |
115 |
154 |
188 |
218 |
244 |
267 |
287 |
302 |
312 |
319 |
|
4ヶ月 |
90 |
130 |
165 |
196 |
226 |
251 |
273 |
292 |
306 |
326 |
323 |
|
5ヶ月 |
105 |
141 |
173 |
204 |
233 |
257 |
278 |
296 |
310 |
320 |
325 |
|
6ヶ月 |
116 |
149 |
181 |
211 |
239 |
262 |
282 |
300 |
314 |
322 |
327 |
|
7ヶ月 |
124 |
157 |
188 |
217 |
244 |
266 |
286 |
301 |
316 |
324 |
329 |
|
8ヶ月 |
132 |
164 |
194 |
222 |
248 |
270 |
290 |
306 |
318 |
326 |
331 |
|
9ヶ月 |
139 |
170 |
199 |
226 |
252 |
274 |
292 |
308 |
320 |
328 |
333 |
|
10ヶ月 |
145 |
175 |
203 |
230 |
256 |
276 |
294 |
310 |
322 |
330 |
335 |
自賠責基準では入院期間と通院期間で差がありませんが、弁護士基準の場合には入院期間の方が高額になります。
ただし骨折後、リハビリなどで長期にわたって通院した場合、慰謝料が上記より減額される可能性があります。
通院頻度が落ちると「実通院日数×3.5」を基準に治療期間を計算されるからです。
たとえば10ヶ月通院したけれど、実際に通院したのは70日だったとしましょう。
その場合、通院期間として採用されるのは245日(約8ヶ月)です。
すると、慰謝料は8ヶ月分の「132万円程度」と計算される可能性があります。
任意保険基準
任意保険基準は各任意保険会社が独自に定めているので、一律の数字は示せません。
通院のみであれば自賠責基準と似た数字になるケースが多いのですが、入院すると自賠責基準より高額になる傾向があります。
任意保険基準では自賠責基準と異なり、入院時と通院時に差をもうけているためです。
後遺障害慰謝料の場合
自賠責基準と弁護士基準を比べると、以下の通りです。
等級 |
弁護士・裁判基準 |
自賠責基準 |
1級 |
2800万円 |
1100万円(別表一の要介護の場合には1600万円) |
2級 |
2370万円 |
958万円(別表一の要介護の場合には1163万円) |
3級 |
1990万円 |
829万円 |
4級 |
1670万円 |
712万円 |
5級 |
1400万円 |
599万円 |
6級 |
1180万円 |
498万円 |
7級 |
1000万円 |
409万円 |
8級 |
830万円 |
324万円 |
9級 |
690万円 |
245万円 |
10級 |
550万円 |
187万円 |
11級 |
420万円 |
135万円 |
12級 |
290万円 |
93万円 |
13級 |
180万円 |
57万円 |
14級 |
110万円 |
32万円 |
任意保険基準の場合にも、自賠責基準と似通った数字になると考えましょう。
弁護士基準で計算すると、各等級において他基準の2~3倍程度となるケースが多数です。
後遺障害が残ったとき、適正な慰謝料を受け取るには弁護士基準を適用する必要があるといえるでしょう。
骨折部位によって異なる完治までの期間
完治までの目安となる期間について、部位ごとにチェックしてみよう。
骨折したら、完治または症状固定するまで治療を継続しなければなりません。
治療日数に応じて入通院慰謝料が払われます。
途中で治療を打ち切ったらその分慰謝料が減額されてしまうので、注意しましょう。
- 「完治」…「症状が完全に治り、元通りになること」
- 「症状固定」…「治療を充分に行ったけれど後遺症が残ってしまい、それ以上改善しなくなった状態」
上記のどちらかになるまで治療を続けてください。
骨折部位による治療期間の目安
骨折した場合の治療期間の目安は以下のとおりです。
こちらは「グールトの骨癒合日数」という医学的な根拠のあるデータを参考にしたものです。
骨折の部位 |
治癒期間の目安 |
指の骨 |
2週間 |
中手骨、中足骨 |
2週間 |
肋骨 |
3週間 |
鎖骨 |
4週間 |
橈骨、尺骨(骨幹部、肘関節内、手関節内) |
5週間 |
上腕骨(骨幹部) |
6週間 |
上腕骨(上端部) |
7週間 |
脛骨・腓骨(骨幹部、膝関節内、足関節内) |
7~8週間 |
大腿骨(骨幹部) |
8週間 |
大腿骨(頚部) |
12週間 |
ただしこちらは古い実験データにもとづくものであり「保存療法のみ」を一律で実施したときの数字です。
現在では医学も進んでおり手術等も行うので、そのままあてはめることはできません。
あくまで参考程度としましょう。
骨折が治癒するまでの過程
- 骨折すると通常は必要に応じて手術を行い、ギプスなどで固定します。
- しばらくすると、骨折した部位の周辺から細胞が進入してきて「骨髄」の部分にあらたな組織が形成されていきます。
- さらに毛細血管も形成されて壊死組織が吸収されると、「軟骨」という柔らかい骨組織が作られ始めます。
- そして折れた骨同士が癒着します。
- こうしてできた「仮骨」がだんだんと固くなり、新たな骨も徐々に形成されて元の状態に戻っていきます。
またギプス固定などによって長期間動かしていないと関節を動かしにくくなるので、リハビリもしなければなりません。
こういった過程を経て元通りになったら治癒となります。
骨折したときになるべく高額な慰謝料を受け取る方法
その他にも、完治まで継続して通院するという事も忘れない様にしよう。
交通事故で骨折したら、なるべく高額な慰謝料を受け取りたい方も多いでしょう。
そのためには以下のような対応を心がけてください。
治療を継続する
まずは「治療の継続」が何より重要。
慰謝料は治療期間に応じて支払われるためです。
リハビリなどが面倒になって途中で通院を辞めてしまったり、保険会社から「治療を終わりましょう」といわれて打ち切ってしまったりしたら、慰謝料は減額されるでしょう。
医師が「完治」または「症状固定」と判断するまで通院を継続してください。
また通院頻度が落ちると慰謝料の減額事由となる可能性があります。
仕事などで忙しくても、可能な限り通院時間を確保しましょう。
後遺障害認定を受ける
骨折するとさまざまな後遺障害が残る可能性があります。
- 関節の機能障害
- 腕や脚の欠損
- 脳障害
- 手指、足指の欠損
- 脚の短縮障害
- 変形障害
きちんと後遺障害認定を受けないと、後遺障害に対する慰謝料は支払われません。
後遺障害診断書やCT、レントゲンなどの画像資料を集めて適正な等級の後遺障害認定を受けましょう。
弁護士に対応を相談する
交通事故の慰謝料は、弁護士基準で計算すると高額になります。
一方で被害者が自分で示談交渉すると低額な任意保険基準が適用されるので、どうしても慰謝料が減額されてしまうことに。
特に骨折で治療期間が長くなったり後遺障害が残ったりしたら、弁護士基準とその他の基準の差額が大きくなる傾向があります。
高額な慰謝料を獲得したいなら、弁護士に示談交渉を依頼すべきといえるでしょう。
骨折した被害者が適切な補償を受けるには専門家によるサポートが不可欠です。
弁護士には後遺障害認定の手続きも依頼できます。
高額な慰謝料を勝ち取るため、まずは一度交通事故に詳しい弁護士に相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。