今回の記事では、飛び出し事故による一般的な過失割合や、飛び出し事故における修正要素、受け取れる賠償金について、詳しく見ていこう。
自動車と歩行者が接触して交通事故が発生すると、通常は自動車側の過失割合が極めて高くなります。
しかし歩行者が信号無視をしたり、横断歩道でもない場所で飛び出してきたりする場合には、歩行者にも高い過失割合が認められる可能性があります。
今回は歩行者が飛び出して自動車と接触した交通事故の基本の過失割合について、解説します。
飛び出し事故の当事者になってしまった方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
道路へ歩行者が飛び出してきた場合の過失割合
交通事故の過失割合は、状況によって大きく異なります。
以下で歩行者が飛び出してきた場合の過失割合をパターンごとにみてみましょう。
信号無視による飛び出し事故
まずは信号機のある交差点で歩行者と直進車が接触した交通事故の過失割合です。
歩行者が赤信号で飛び出したら、当然歩行者の過失割合が上がります。
ただし自動車側の信号機の色によってお互いの過失割合が変わるので、パターン別にみてみましょう。
- 歩行者が赤、自動車が青…歩行者:自動車=70%:30%
- 歩行者が赤、自動車が黄…歩行者:自動車=50%:50%
- 歩行者が赤、自動車も赤…歩行者:自動車=20%:80%
- 歩行者が黄、自動車は赤…歩行者:自動車=10%:90%
黄信号の場合の注意点
一般的に「黄信号なら直進してもかまわない」と思われていることがありますが、誤解です。
道路交通法上、黄信号の場合、基本的には停止しなければならないと規定されています。
黄信号で進行してよいのは「急に停止すると危険を避けられない場合」だけです。
それにもかかわらず黄信号で直進して事故を起こしてしまった場合、1種の信号無視になり、過失割合が上がります。
歩行者であっても黄信号であれば横断を開始すべきではないので、注意しましょう。
歩行者の信号機の色が途中で変わった場合
歩行者の横断途中で信号機の色が変わってしまった場合の過失割合は、以下の通りです。
- 自動車は赤信号、歩行者が赤信号で横断開始、途中で青信号に変わったケース 歩行者:自動車=10%:90%
- 自動車は青信号、歩行者は青信号で横断開始、途中で赤信号に変わったケース 歩行者:自動車=20%:80%
- 自動車は青信号、歩行者は黄信号で横断開始、その後赤信号に変わったケース 歩行者:自動車=30%:70%
信号機がない交差点での飛び出し事故
信号機のない交差点では、歩行者が「横断歩道」を歩いていたかどうかによって過失割合が大きく変わります。
道路交通法上、横断歩道を通行している歩行者は絶対的な保護を受けられます。
横断歩道を渡っている限り、歩行者には基本的に過失が認められません。
歩行者が急に横断歩道上に出てきても「飛び出し」にはならないので注意しましょう。
- 横断歩道を歩いていたケース…歩行者:自動車=0%:100%
横断歩道以外での飛び出しでは、歩行者にも過失割合が認められる可能性があります。
幹線道路や広い道路での交差点
- 自動車が直進していたケースでは、歩行者:自動車=20%:80%
- 自動車が右左折しようとしたケースでは、歩行者:自動車=10:90%
自動車側が狭い道路の交差点
- 歩行者の道路が優先道路で自動車の走行する道路が狭路の場合、歩行者:自動車=10%:90%
優先関係がない場合の交差点
- 交差する道路で特に優先関係がない場合の過失割合は、歩行者:自動車=10%:90%
信号も交差点もない道路への飛び出し
信号機もなく交差点でもない場所で歩行者が道路に飛び出してきた場合には、歩行者にも過失が認められます。
- 基本の過失割合は、歩行者:自動車=20%:80%
子どもや高齢者、障害者が飛び出してきたら過失割合が修正される
その他にも、障害者が飛び出してきた場合にも、自動車の過失割合が高くなることが多いよ。
飛び出してきた歩行者が子どもや高齢者、障害者などの弱者の場合、一般のケースよりも車両側の過失割合が上がります。
子どもや高齢者などには事故を避けるための適切な行動を期待しにくいためです。
相手が子どもなどの場合、急に飛び出してきた場合でもこちらの過失割合が高くなる可能性があるので、注意しましょう。
6歳未満の「幼児」の場合
6歳未満の子どもは道路交通法上「幼児」とされます。
幼児には適切な行動をまったく期待できないので、接触すると車側の過失割合が高くなります。
状況にもよりますが、通常のケースより10%程度加算されるケースが多いでしょう。
13歳未満の「児童」の場合
6歳以上13歳未満の子どもは道路交通法「児童」とされます。
このくらいの年齢の子どもにも、まだまだ事故を避けるための適切な行動は期待しにくいでしょう。
児童を相手に接触事故を起こしたら、車両の過失割合が5%程度加算されます。
高齢者の場合
高齢者は素早く動けないので、交通事故を避ける能力が低いといえます。
また子どもよりも柔軟性が低く、事故に遭ったときのダメージも大きくなりがちです。
歩行者がおおむね65歳以上の高齢者だった場合、車両の過失割合が5%程度上がると考えてください。
障害者の場合
身体障害者は素早く動きにくいので、健常者より交通事故を避けにくい状況にあります。
相手が障害者であれば、車は通常よりも注意を払って事故を避けるべきといえるでしょう。
障害者と自動車が接触した場合、自動車側の過失割合が10%程度加算されます。
車を運転するときには、近くに子どもや高齢者がいないかしっかり注意を払いましょう。
飛び出し事故で発生する慰謝料や賠償金
受け取れる賠償金にはどんなものがあるのか、詳しくチェックしてみよう。
飛び出し事故が発生すると、どのくらいの慰謝料やその他の賠償金が払われるのでしょうか?
被害者がけがをした場合
被害者がけがをした場合、自動車側は歩行者へと以下のような賠償金を払わねばなりません。
- 治療費
病院に払う診察費用や検査費用、手術代、入院代、薬局に払う薬代などです - 看護費
被害者が入院すると、1日について6,500円程度の看護費用を請求できます。
子どもがけがをした場合などには、親が通院に付き添うための通院付添費用も請求できるケースがあります。 - 入院雑費
被害者が入院すると、1日あたり1,500円程度の入院雑費を請求できます。 - 交通費
通院にかかった交通費や宿泊費なども請求できます。
自家用車で通院した場合、1キロメートルあたり15円のガソリン代や駐車場代、高速道路の費用なども請求できます。 - 休業損害
被害者が入通院のために仕事を休んだら、休業損害を請求できます。 - 介護費用
被害者に介護が必要になったら介護費用を請求できます。 - 器具や装具の費用
交通事故の受傷により松葉杖、コンタクトレンズ、メガネや義手義足などの器具や装具が必要になったら、そういったものにかかる費用も請求できます。 - 入通院慰謝料
被害者がけがをした場合、精神的苦痛が発生するので加害者へ入通院慰謝料を請求できます。
入通院慰謝料は、入通院の期間が長くなれば高額になります。
被害者に後遺障害が残った場合
- 後遺障害慰謝料
後遺障害が残ると被害者は大きな精神的苦痛を受けるので、入通院慰謝料とは別に「後遺障害慰謝料」を請求できます。 - 後遺障害逸失利益
後遺障害が残ったら、被害者は今まで通りに働くのが難しくなるでしょう。
将来にわたって減収が発生するので、「逸失利益」として減収分の補償を求めることができます。 - 自宅や車の改装費用
後遺障害が残って自宅介護するときには、自宅の改装が必要になるケースがあります。
身体障害者となれば、車を障害者仕様にしなければならないケースもあるでしょう。
そういった場合の自宅や車の改装費用についても、必要な範囲で加害者側へ請求できます。
被害者が死亡した場合
被害者が死亡すると、遺族は加害者へ以下の請求ができます。
- 葬儀費用
お通夜や葬儀などにかかった実費を請求できます。
金額は一応150万円程度を限度とされますが、必要性が認められれば200万円くらいまで支払われるケースもあります。 - 死亡慰謝料
被害者が死亡すると、本人や遺族は大きな精神的苦痛を受けるものです。
遺族は加害者へ死亡慰謝料を請求できます。 - 死亡逸失利益
死亡すると、被害者はその後一切働けなくなるので本来得られたはずの収入を得られなくなります。
そこで遺族が減収分の補償として、加害者へ死亡逸失利益の請求ができます。
慰謝料の金額は計算基準によって変わる
弁護士に依頼する事で、高額な弁護士基準で慰謝料を計算することができるし、適正な過失割合を当てはめてもらうことができるんだ。
交通事故で発生する慰謝料は以下の3種類です。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
実はこれらの慰謝料の金額は「計算基準」によって大きく変わってきます。
交通事故の慰謝料計算基準には自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3種類があり、弁護士基準がもっとも高額になるのです。
たとえば後遺障害慰謝料の場合、弁護士基準で計算すると他の基準の2~3倍程度に上がります。
ただし弁護士基準を適用するには、弁護士に示談交渉を依頼するか訴訟を起こさねばなりません。
自分で訴訟を起こすより弁護士に示談交渉を依頼する方が効率的なので、弁護士に示談交渉を依頼するのが得策といえるでしょう。
弁護士に依頼すると、それだけで賠償金額が3倍以上になるケースも少なくないので、飛びだし事故の被害に遭ったらできるだけ早く弁護士に相談するようお勧めします。
過失割合によって賠償金が変わる
交通事故の賠償金を算定するときには、お互いの過失割合が非常に重要です。
自分の側の過失割合が高くなると、相手に払う賠償金が高くなり、こちらが請求できる賠償金を減額されてしまうためです。
たとえば歩行者が赤信号で飛び出して70%の過失割合が認められると、自動車側へ請求できる賠償金が7割減になります。
重大な後遺障害が残って5,000万円の賠償金が発生しても、たった1,500万円しか請求できず、大きな不利益を受けるでしょう。
一方で加害者側からすると、相手の過失割合が高くなれば支払う賠償金額が低くなりますし、刑事事件においても有利になります。
交通事故に遭ったら、適正な過失割合をあてはめることが非常に重要といえるでしょう。
まとめ
横断歩道での飛び出しの場合には、自動車側の過失が高くなるけれど、信号無視の場合や、横断歩道のない道路での飛び出しの場合には、歩行者側の過失割合が高くなることもあるんだね。
歩行者が飛び出した事故の過失割合は、状況によって大きく異なります。
賠償金を正確に算定するには、お互いの過失割合を適切にあてはめなければなりません。
お1人では正しく過失割合の算定を行うのは難しいでしょう。
過失割合について疑問がある場合には、交通事故に詳しい弁護士に相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。