耳に障害が残った時って、後遺障害慰謝料をもらう事はできるのかな?
今回の記事では、交通事故により耳が不自由になってしまった場合の後遺障害等級や、慰謝料について、詳しく見ていこう。
交通事故に遭うと「聴力障害」が残ってしまうケースが少なくありません。
- 事故後、耳が聞こえにくくなった
- 片側から話しかけられると気づきにくくなった
こういった症状を感じているなら、交通事故との因果関係を疑いましょう。
今回は聴力障害が残ってしまった場合の後遺障害について解説します。
交通事故で頭を打って耳の調子がおかしくなってしまった方はぜひ、参考にしてみてください。
目次
交通事故後の聴力障害でよくある症状
交通事故で聴覚障害が発生すると、以下のような症状を自覚するケースが多数です。
- 片側から話しかけられると聞き取りにくい
- これまで聞こえていたテレビなどの音が聞き取りにくくなった
- 音がゆがんでいるように聴こえる
- 声がこもったようになり、クリアに聞き取れなくなった
- 雑音があると人の言葉を聞き取りにくい
- 音がまったく聴こえない
特に片耳だけに難聴が発生すると、本人も自覚しにくいケースが多いので注意が必要です。
たとえば右側の耳が聞こえにくくなった場合、右側から車や障害物が接近しても気づかないので再度交通事故に遭ってしまったり障害物にぶつかってしまったりする危険もあります。
会話が満足にできないのでコミュニケーションに支障をきたし、仕事や日常生活がスムーズに進まずストレスを受ける方も少なくありません。
事故後、耳の調子に不調を感じたらすぐに病院を受診しましょう。
聴力障害の治療方法
交通事故で耳や頭蓋にケガをして聴力障害が発生した場合の治療方法は、症状の程度によって異なります。
保存療法によって回復を目指せるケースもありますが、重症の場合には手術が必要になる可能性も。
たとえば鼓膜に穴が空いてしまったり頭蓋骨、耳小骨などの骨折がみられたりする場合、手術が必要になるでしょう。
補聴器や人工内耳の装着を要するケースもあります。
交通事故により聴力を失ってしまう原因
頭部の強打による鼓膜穿孔
鼓膜穿孔とは、鼓膜に穴が空いてしまうことです。
事故で頭部を強くぶつけてしまうと鼓膜が破れてしまう可能性があり、難聴や耳鳴りなどの症状が起こるケースが少なくありません。
内耳震盪症
頭部を打撲して外部から衝撃が加わると、内耳のリンパ液にも振動が伝わって器官障害が発生します。
このことで難聴やめまいが起こる可能性があります。
頭部の骨折
耳の周囲の骨である側頭骨を骨折すると、当然聴力機能にも障害が発生します。
骨折が中耳に至っている場合には耳の聞こえが悪くなりますし、骨折が内耳に及んでいると耳鳴りやめまいが発生する可能性も。
頭蓋底骨折した場合にも難聴や耳鳴り、めまいや平衡機能障害等が生じるケースがあります。
外リンパ瘻
内耳と中耳の間には「前庭窓」と「蝸牛窓」という2種類の窓があります。
外部的な圧力によってここに穴が空いてしまうと内耳のリンパ液が外へ漏れ出し、めまいや難聴の原因となります。
以上のように、交通事故で頭部を打撲・骨折すると聴力障害が生じるケースは決して珍しくありません。
異常を感じたら耳鼻科や脳神経外科へ行って状態を確認してもらいましょう。
聴力障害で認定される後遺障害の等級は?
症状によって異なる等級をチェックしてみよう。
交通事故で聴力障害が発生した場合、後遺障害として認定される可能性があります。
認定される等級は、以下の2つの要素によって決まります。
- どの程度聴力が低下したか
聴力低下の度合いが著しいほど認定等級は上がります。 - 聴力低下は両耳か片耳か
両耳に障害が発生すると、片耳のケースより認定等級が上がります。
以下で具体的な症状と後遺障害の等級をみていきましょう。
- 4級3号
両耳が完全に聞こえなくなった場合には4級3号が認定されます。 - 6級3号
両耳について、耳に接する状態でないと大声を認識できない程度に聴力が低下すると6級3号となります。 - 6級4号
片耳が完全に聞こえなくなり、もう片方については40センチメートルほど離れると普通の話し声を認識できない程度になったら6級4号が認定されます。 - 7級2号
両耳について、40センチメートルほど離れると普通の話声を認識できなくなった場合には7級2号が認定されます。 - 7級3号
片耳の聴力が完全に失われ、もう片方については1mほど離れると通常の話声を認識できなくなった場合に7級3号が認定されます。 - 9級7号
両耳について、1メートルほど離れると普通の話声を認識できない状態になったら9級7号が認定されます。 - 9級8号
片耳について、耳に接する状態でないと大声を認識できない状態になり、もう片方については1メートルほど離れると普通の話声を認識できない状態になったら9級8号が認定されます。 - 10級5号
両耳について、1メートルほど離れると通常の話声を認識できなくなったら10級5号となります。 - 10級6号
片耳について、耳に接しないと大声を聞き取れなくなった場合には10級6号が認定されます。 - 11級5号
両耳について、1メートル程度離れると小声を認識できなくなったら11級5号が認定されます。 - 11級6号
片耳について、40センチメートル程度離れると通常の話声を認識できなくなったら11級6号が認定されます。 - 14級3号
片耳について、1メートル程度離れると小声を認識できない状態になったら14級3号が認定されます。
耳鳴りで12級や14級に該当するケース
交通事故の後遺症で耳鳴りの症状が残った場合にも後遺障害認定される可能性があります。
検査によって「常時耳鳴りがある」と「医学的に証明」できる場合には12級、検査による証明はできなくても難聴に伴う耳鳴りが常時起こっていると「合理的に説明」できる場合には14級が認定されます。
聴力障害の後遺障害認定に必要な2種類の検査
交通事故で聴力障害による後遺障害認定を受けるには、以下の2種類の検査によって異常を証明する必要があります。
純音聴力検査
「オージオメーター」という専門の医療機器を用いる検査で、聴力検査としては最も一般的に実施されています。
防音室内で被験者がヘッドフォンをつけ、オージオメーターから発せられる音を聞き取れるかどうかを判定します。
オージオメーターからは「ピー」などの単純な音が発せられます。
125Hz(ヘルツ)から8000Hzまで、高さの異なる7種類の音を流し、音の大きさも変えながらどこまで聞こえるかを測定して「オージオグラム」という聴力図に記入していきます。
純音聴力検査を実施する際、日にちを変えて3回行います。
7日ほどの日数をあけ、通常は2回目の結果と3回目の結果の平均値をとって「平均純音聴力レベル」を採用します。
語音聴力検査
日常生活における話声をどこまで聞き取れるかを調べる検査です。
「スピーチオージオメーター」という医療機器を使い、「ア、ク、サ、ニ…」などの語音、「1、5、9」などの数字の発音を聞き取らせてどの位の音を正確に理解できるかを調べます。
結果は「明瞭度(%)」として表示され、もっとも高い値を「最高明瞭度」として記録します。
以上の2つが聴力検査として重要な検査です。
誘発反応測定装置
上記の他、保険会社から指示があると「誘発反応測定装置」を使って検査を実施するケースもあります。
人が音を聞くときには「蝸牛神経」から「脳幹部」に向けて電気的反応が発生するため、その電流を読み取り波形として記録するのが誘発反応測定装置です。
この方法であれば乳幼児や意識障害のある方など、通常の純音聴力検査や語音聴力検査が困難な方にも実施できます。
聴力障害の認定等級と後遺障害慰謝料の相場
聴力障害が後遺障害として認定されたら「後遺障害慰謝料」が支払われます。
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことによって被害者が受ける精神的苦痛に対する賠償金。
交通事故で耳が聞こえにくくなると、日常生活や仕事でも支障が発生して大きなストレスを抱えるので、多めに慰謝料を払ってもらえます。
後遺障害慰謝料の金額は、認定される等級によって異なるので以下でみてみましょう。
認定等級 |
後遺障害慰謝料の相場 |
4級 |
1670万円 |
5級 |
1400万円 |
6級 |
1180万円 |
7級 |
1000万円 |
8級 |
830万円 |
9級 |
690万円 |
10級 |
550万円 |
11級 |
420万円 |
12級 |
290万円 |
13級 |
180万円 |
14級 |
110万円 |
たとえば両耳が完全に聞こえなくなった場合には4級となるので1670万円程度が慰謝料の相場になります。
ただし上記は法的基準(弁護士基準、裁判基準)によって算定したものです。
保険会社の基準で計算すると2分の1~3分の1程度に減額される可能性が高くなるため、注意しましょう。
また法的基準による慰謝料を払ってもらうには、弁護士に示談交渉を依頼する必要があります。
被害者が「法的基準で慰謝料を計算してください」と主張しても、保険会社は通常聞き入れてくれないので注意しましょう。
後遺障害逸失利益とは?
交通事故で聴覚障害の後遺障害が認定されると「後遺障害逸失利益」の支払いも受けられます。
逸失利益とは、後遺障害によって得られなくなった将来の収入です。
たとえば耳が聞こえなくなったらこれまでの仕事を続けられなくなる方も多いでしょう。
その減収分を逸失利益として支払ってもらえます。
逸失利益の金額も認定された後遺障害の等級によって大きく異なります。
4級であれば労働能力喪失率(はたらけなくなった程度)が高くなるので逸失利益が5000万円以上になる可能性もありますが、13級や14級程度であれば数百万円程度となるでしょう。
また実際に減収が生じていない場合、保険会社から「逸失利益は発生していない」と主張されて支払を拒否されるケースも少なくありません。
そんなとき、弁護士に依頼すれば「本来なら減収が発生するはずだが特別な努力によって減収を防いでいる」などと反論して、逸失利益を請求できる可能性があります。
保険会社から慰謝料や逸失利益について納得しがたい主張をされたら、自己判断で簡単に示談してしまう前に弁護士に相談してみてください。
まとめ
等級によってこんなにも慰謝料が違うなんて知らなかったよ。
弁護士に依頼すれば、慰謝料の増額だけではなく、適正な後遺障害等級取得のためのサポートもしてもらう事が出来るから、より高い後遺障害等級の認定が可能になるよ。
交通事故に遭ったとき、耳の聞こえ方に違和感があったらすぐに耳鼻科や脳神経外科を受診しましょう。
後遺症が残ったら弁護士に依頼して、適切な等級の後遺障害認定を受ける必要があります。
示談交渉を弁護士に任せると、自分で対応するより高額な慰謝料や逸失利益を獲得できて大きなメリットを得られるものです。
事故後の対応で迷いや不安、ストレスを感じたら早めに交通事故にくわしい弁護士に相談してみましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。