慰謝料はどの位もらえるのかな?
今回の記事では、脊髄損傷と診断された場合の慰謝料について、詳しく見ていこう。
交通事故に遭うと「脊髄損傷」になってしまう方が少なくありません。
脊髄は人間にとって極めて重要な「中枢神経」です。
損傷を受けると腕や脚を始めとした全身の麻痺症状などの重篤な障害が発生し、日常生活にも仕事にも多大な支障が及ぶ可能性が高まります。
その後の人生のためにも、正当な賠償金を受け取る必要があるでしょう。
今回は交通事故で脊髄損傷となったときの後遺障害認定や慰謝料、むちうちとの違いなどを解説します。
事故で重傷を負った方はぜひ参考にしてみてください。
脊髄損傷とは
脊髄損傷とは、事故により「脊髄」にダメージを受けることです。
脊髄は背骨の中を通っている「中枢神経」で、脳からの司令を全身に伝える大切な働きをしています。
脊髄が障害されると全身に影響が及び、運動機能や感覚機能が失われる可能性があります。
重症になると自分では手足をまったく動かせなくなって全面的な介護が必要となってしまうケースも少なくありません。
またいったん脊髄が損傷を受けると回復は困難といわれており、リハビリなどを行っても元の状態に戻らないケースが多数です。
脊髄損傷になると、何らかの後遺症が残る可能性が高いと考えましょう。
脊髄損傷とむち打ちの違い
交通事故に遭うと「むち打ち」になるケースが非常に多いのですが、むち打ちと脊髄損傷は何が違うのでしょうか?
ダメージの及ぶ場所
むち打ちと脊髄損傷は、ダメージの及ぶ場所が違います。
脊髄損傷の場合、背骨の中を通っている脊髄(中枢神経)が損傷を受けます。
むち打ちの場合には頚椎に強い衝撃を受けることにより、主に首周りの筋肉や靭帯にダメージが生じます。
頚椎の中を通っている頸髄にも衝撃が及ぶため末梢神経のはたらきが鈍くなり、腕や手などにしびれが生じるケースもあります。
重症度
脊髄損傷とむち打ちでは、重症度が大きく異なります。
脊髄損傷は中枢神経が直接障害されるので、非常に重篤な症状が発生します。
腕や脚に麻痺が生じたり、排尿排便障害が起こったり感覚が失われたりして、日常生活や仕事ができなくなる方も少なくありません。
むち打ちの場合には「頚椎捻挫(首の捻挫)」程度であるケースが多く、症状もさほど重篤にならないのが一般的です。
肩こり、首を動かしにくいなどの症状が出ても日常生活や仕事はできますし、一定期間治療をすれば完治する方も多数となっています。
脊髄損傷でもらえる慰謝料とは
脊髄損傷になったら、被害者は大きな精神的苦痛を受けるので慰謝料を請求できます。
具体的にどのような慰謝料が発生するのかみていきましょう。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、脊髄損傷という重大な怪我をしてしまったことに対する慰謝料です。
金額は入通院した期間に応じて計算され、治療日数が長くなるほど高額な慰謝料が認められます。
同じ治療期間であれば、通院期間より入院期間の慰謝料が高額になります。
【入通院慰謝料の例(弁護士基準で計算した場合)】
- 入院1ヶ月、通院6ヶ月の場合…149万円
- 入院2ヶ月、通院10ヶ月の場合…203万円
リハビリに長期間を要した場合や何度も手術を繰り返して入院期間が長くなった場合などでは300万円を超えるケースも少なくありません。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、被害者に後遺障害が残ったことによって受ける苦痛に対し、支払われる慰謝料です。
自賠責で後遺障害等級認定を受けたときに請求できます。
後遺障害には1~14段階の「等級」があり、認定等級によって受け取れる慰謝料額が変わります。
1級がもっとも高い等級で慰謝料額も高額になり、14級の慰謝料がもっとも低額です。
脊髄損傷の場合には1~3級、5級、7級、9級、12級のいずれかに認定される可能性があります。
なお交通事故でよくあるむち打ちの場合、12級または14級が認定されるケースが多数です。
脊髄損傷で受け取れる後遺障害慰謝料の相場(弁護士基準)
認定された等級 |
後遺障害慰謝料の相場 |
1級 |
2800万円 |
2級 |
2370万円 |
3級 |
1990万円 |
5級 |
1400万円 |
7級 |
1000万円 |
9級 |
690万円 |
12級 |
290万円 |
ただし上記はあくまで相場であり、事故の状況や加害者の対応、症状の経過や被害者の個別事情によって金額が増減する可能性があります。
また上記は「弁護士基準」で計算した金額で比較的高額になっています。
自賠責基準や任意保険会社の基準によると、上記の2分の1~3分の1程度の金額になる可能性があるので注意しましょう。
弁護士基準で慰謝料を計算するには、弁護士に示談交渉を依頼するか訴訟を起こして裁判所に賠償金を認定してもらう必要があります。
被害者が自分で示談交渉をすると低額な任意保険会社の基準を適用されるので、上記よりも慰謝料が大きく減額されるでしょう。
脊髄損傷で後遺障害等級認定を受ける方法
脊髄損傷で後遺障害認定を受けるには、以下の資料が必要です。
- 後遺障害診断書
医師に依頼して「後遺障害診断書」を作成してもらわねばなりません。
後遺障害診断書とは、後遺障害についての検査結果や具体的な症状について記載する専門書式による診断書です。 - MRIやレントゲンなどの画像診断結果
脊髄損傷における後遺障害認定では、MRIやCT、レントゲンなどの画像診断結果が極めて重視されます。
これらの画像診断で所見がなければ脊髄損傷による後遺障害認定は難しいと考えましょう。 - 脊髄症状判定用
「脊髄症状判定用」とは脊髄損傷による症状を医師に明らかにしてもらうための専門的な資料です。 - 神経学的所見の推移について
「神経学的所見の推移について」も医師に作成してもらうべき資料の一つです。 - 症状の推移について
「症状の推移について」は受傷直後からの症状の経過や今後の見込みについて、医師に作成してもらう資料です。
特に脊髄損傷の判定ではMRIやCTなどの画像診断結果が重視される傾向があります。
治療中の段階から後遺障害認定を見据えてしっかり検査を受けておきましょう。
脊髄損傷で認定される後遺障害等級と認定基準
その他、仕事がどの位できるのか、麻痺の度合いによって、等級が変わってくるんだ。
脊髄損傷となったときに認定される可能性のある後遺障害等級は以下の通りです。
全面介護が必要なら1級
仕事は全くできず、日常生活に必要な行動についても常時介護を必要とする状態になったら後遺障害1級1号(別表1)が認定されます。
高度の四肢麻痺や対麻痺がある場合などが該当します。
随時介護が必要なら2級
仕事が全くできず、日常生活に必要な行動について随時介助が必要な状態になったら後遺障害2級1号(別表2)。が認定されます。
中程度の四肢麻痺、対麻痺などのケースで認定される可能性があります。
介護は必要ないが、仕事ができないなら3級
日常生活において生命維持に必要な身のまわりの動作は自分でできるけれども仕事がまったくできない状態になったら3級3号が認定されます。
軽度の四肢麻痺や中程度の対麻痺が残ったケースなどで3級3号となる可能性があります。
特に簡単な仕事しかできないなら5級
仕事ができないわけではないけれど、きわめて軽易な作業しかできない場合には5級2号が認定されます。
具体的には軽度の対麻痺や1本の脚に高度な単麻痺が残った場合が該当します。
簡単な仕事しかできないなら7級
簡単な仕事しかできない場合には7級4号が認定されます。
具体的には1本の脚に中等度の単麻痺が残った場合が該当します。
仕事が制限されるなら9級
通常の仕事ができるけれども、脊髄症状のために職種の範囲が制限される場合には9級10号が認定されます。
具体的には1本の脚に軽度な単麻痺が残った場合などが該当します。
生活に支障はないが軽く麻痺が残った場合には12級
特に仕事の制限はなく日常生活も自力で送れるけれど、運動や体を支える力、細かい動作や速い動きなどについて軽微な麻痺が残ると12級13号が認定されます。
運動障害がなくても、広範囲にわたって感覚障害があれば12級13号となります。
脊髄損傷で「成年後見人」が必要なケースと注意点
脊髄損傷で極めて重度な後遺障害が残った場合、示談交渉を進めるために「成年後見人」が必要になる可能性があります。
成年後見人は、判断能力が失われた人の代わりに財産を管理する人です。
一般には「認知症になった高齢者」に成年後見人をつけるケースが多くなっています。
ただ若い人や認知症以外の人であっても意識障害が起こったり自分では判断能力が亡くなったりすると、成年後見人が必要です。
脊髄損傷で重度な麻痺やその他の障害が発生し、物事の判断や自発的な意思表示ができなくなってしまったら、成年後見人をつけないと示談交渉や後遺障害認定、介護の契約などを進められません。
成年後見人の業務
成年後見人の業務は被後見人の財産管理や身上監護です。
交通事故で脊髄損傷となった人の成年後見人になったら、以下のような対応を行わねばなりません。
- 介護施設への入所契約
- 全般的な財産管理
- 後遺障害認定
- 示談交渉
- 賠償金の受け取りと管理
- 弁護士への依頼
- 本人が勝手に行った契約の取消
また成年後見人は家庭裁判所による監督を受けるため、定期的に財産状況や資産状況について報告する必要があります。
成年後見人の業務はいつまで続くのか?
成年後見人になると、本人が判断能力を回復するか死亡する時点まで業務を続けなければなりません。
示談交渉が終わって賠償金を受け取ったからといって業務が終了するわけではないので注意が必要です。
親族が成年後見人になると、予想外に大きな負担がかかってしまう可能性があるといえるでしょう。
成年後見人の候補を立てるときには慎重に検討するようお勧めします。
成年後見人になれる人
破産者や未成年者以外の人であれば成年後見人になれます。
そこで脊髄損傷の被害者の成年後見人には、配偶者や子どもなどの親族が就任するケースも多々あります。
ただし上記のように、親族が成年後見人になると、その後の人生においても貢献業務を継続しなければならず負担がかかるでしょう。
遠方の親族しかいない場合などには、弁護士に後見人になってもらう方が良いケースも考えられます。
弁護士が後見人になると毎月数万円の報酬が発生しますが、親族には負担がかからなくなりますし、弁護士基準によって高額な慰謝料を請求できるメリットもあります。
交通事故で脊髄損傷となったとき、被害者の心強い支えとなってくれるのは弁護士です。
脊髄損傷と診断され後遺症が残る見込みの方、既に示談交渉を開始している方、一度お早めに交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談してみましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。