過失割合が高くなると、その分受け取れる慰謝料が減額されてしまうんだよ。
今回の記事では、交通事故とシートベルトの関係について、詳しく見ていこう。
2008年に道路交通法が改正され、運転手や助手席だけではなく後部座席に乗車する人にもシートベルト着用義務が課されるようになりました。
シートベルトを着用しないと危険性が高まるので、過失割合が加算されて慰謝料が減額される可能性が高まります。
今回はシートベルトを着用しているかどうかでどのくらい過失割合や慰謝料額に影響するのか、解説します。
目次
シートベルトの着用は法的義務
車に乗るときには、基本的に全員がシートベルトを着用しなければなりません。
2008年の道路交通法改正により、助手席だけではなく後部座席に乗車する人にもシートベルト着用義務が課されるようになりました(道路交通法71条の3)。
高速道路だけではなく、一般道路でもシートベルトを着用しなければならないので、乗車の際には違反しないように注意しましょう。
シートベルト着用義務が免除される場合
以下のような状況であれば、無理にシートベルトを着用する必要はありません。
- ケガや病気、障害により、シートベルト着用が難しい
- 妊娠中でシートベルトをつけると気分が悪くなる
- 郵便やごみ収集などの作業中
- 消防車や救急車などの緊急車両
- 倒れた人を病院へ送るなど、人命に関わる場合
- 選挙カーに乗車する候補者と運転者
シートベルト着用義務違反に対するペナルティ
シートベルトを着用しないで乗車していたら、どのような罰則や反則金などのペナルティがあるのでしょうか?
不着用に罰則はない
シートベルト装着義務違反に「罰則」はありません。
罰金や懲役刑が科される可能性はありません。
反則金もない
反則金とは、お金を払うことによって刑罰の適用を免除してもらう制度です。
シートベルト着用義務違反には反則金制度も適用されないので、発覚してもお金を支払う必要はありません。
運転者に1点加算
シートベルト着用義務違反が発覚すると、運転者の免許の点数が1点加算されます。
ただし運転席、助手席、後部座席で取り扱いが異なるので、確認しましょう。
- 運転席や助手席の場合
運転者や助手席に乗車している人がシートベルトを着用しなかった場合、一般道路であっても高速道路であっても運転者に1点が加算されます。 - 後部座席の場合
後部座席に乗車していた人がシートベルトを着用しなかった場合、高速道路上の場合のみ点数加算が適用されます。
一般道でシートベルトを着用していなくても実質的なペナルティはありません。
警察によって「口頭注意」されるだけです。 - 高速道路の場合
シートベルト不着用が高速道路上の場合、後部座席の人であっても「1点加算」の対象になります。
シートベルト不装着で過失割合が加算される!
シートベルト着用義務に違反して交通事故を起こすと、通常より高い過失割合を割り当てられるケースが多数です。
そもそもシートベルト着用は法律上の義務です。
またシートベルトをつけなかったことによってケガの程度が大きくなってしまったり、治療期間が長くなったりして損害を拡大させてしまう責任が及ぶからです。
どの程度過失割合が上がるのか、みてみましょう。
運転席や助手席でシートベルトをつけていなかった場合
運転席や助手席でシートベルトを装着していなかった場合、通常のケースと比べて過失割合が5%から20%程度、過失割合が加算される可能性があります。
後部座席でシートベルトをつけていなかった場合
後部座席に乗車する人がシートベルトを装着していなかった場合、通常のケースと比べて5%から10%程度、過失割合が加算されるケースが多数です。
高速道路の場合
高速道路でシートベルトを着用せず交通事故を起こした場合には、助手席でも後部座席でも20%まで過失割合が加算される可能性があります。
過失割合が高くなると慰謝料が減額される
被害者側の過失割合が高くなると、請求できる慰謝料額は減額されてしまいます。
たとえば被害者が大怪我をして慰謝料が1,000万発生したとしても、シートベルト不着用で過失割合が20%になると、請求できる金額は800万円となってしまいます。
事故で十分な慰謝料や賠償金を受け取るためにも、車に乗るときにはきちんとシートベルトを着用しなければなりません。
シートベルト不使用が過失に加算されないケースとは
以下のような状況であれば、シートベルトを着用していなくても過失割合が加算されません。
損害とシートベルト着用義務違反の因果関係がない
交通事故によって発生した損害とシートベルト不着用との間に因果関係が認められない場合、シートベルトを装着していなくても過失割合は加算されません。
シートベルト不着用とは無関係に損害が発生したにもかかわらず、過失相殺によって慰謝料や賠償金を減額するのは不合理だからです。
たとえば物損事故で車が損傷した場合などには、シートベルト不着用との関係性は認められないでしょう。
その場合、運転者や助手席、後部座席に乗車していた人がシートベルトをしていなくても損害賠償額に影響はありません。
シートベルトの着用が免除されている
妊婦やけが人、障害者などでシートベルト着用義務が法律上免除されている人については、シートベルトを着用しなかったことが「過失」といえません。
よってシートベルトを着用していなかったとしても過失割合の加算は行われません。
加害者の過失が高いケース
加害者側の過失があまりに大きい場合、被害者側のシートベルト不着用があっても過失割合が加算されないケースがあります。
加害者の行為が極めて悪質であるにもかかわらず被害者側のシートベルト不着用によって慰謝料や賠償金を減額すると、かえって不公平になってしまうためです。
シートベルト不着用による過失割合の調整はケースバイケース
上記で説明した過失割合が必ず割り当てられるわけではないという事を頭に入れておこう。
被害者がシートベルトを着用していないと過失割合が加算されるケースが多数ですが、必ずではありません。
加算される割合もケースバイケースです。
また道路交通法の改正により、過去と比べてシートベルト着用義務が強化されています。
助手席の場合に5~20%、後部座席の場合に5~10%というのはあくまで「今までの裁判例でそういった判断が多かった」という意味であり、今後も必ず同じとは限りません。
将来、後部座席のシートベルト着用義務が強化されるにつれて、後部座席についても運転席や助手席と同様に高い過失相殺をされるようになる可能性は十分にあります。
シートベルト着用義務違反によって具体的にどのくらい過失割合が加算されるべきか判断がつきにくい場合、専門知識をもった弁護士へ相談してみてください。
シートベルト不着用で死亡率が14倍に!データで検証
命を守るためにも、シートベルトは必ず着用することが大切だという事が良く分かるね。
実際にシートベルトを着用していない場合、着用した場合と比べてどのくらい損害が拡大するのでしょうか?
死亡率
国土交通省の発表しているデータによると、シートベルト非着用者の死亡率は着用者の14.3倍であると明らかにされています。
具体的には着用者の死亡率は0.16%であるところ、シートベルト非着用者の場合には2.30%にもなります。
運転席の場合には56.5倍、助手席の場合には15.2倍、後部座席の場合には4.8倍という結果が出ています。
なおこのデータでいう「シートベルト」には「チャイルドシート」も含んでいます。
被害者が車外に放出される割合
交通事故に遭うと、ぶつかった衝撃で乗車している人の身体が車外へ放り出されて死亡するケースが多々あります。
実際、車外へ身体が放り出された場合の致死率は42.14%にも及び、放り出されなかった場合の0.29%と比べて145倍となっています。
シートベルトをしていない場合、シートベルトをしているケースと比べて身体が車外へ放出される可能性が非常に高くなります。
上記の国土交通省のデータによると、交通事故で死亡した人のうちシートベルトをしていなくて車外放出された人の割合は18.5%であり、着用していた人の1.3%比べて14倍です。
高速道路の場合
高速道路上でもシートベルト不着用による危険拡大は顕著です。
シートベルトを着用していた場合の致死率は0.50%ですが、非着用者の場合には4.70%となり、9倍に達します。
事故の衝撃で身体が車外へ放出された場合の致死率は、シートベルトを着用していない場合に37倍の29.49%に及びます。
高速道路上の事故でシートベルト非着用者が車外放出された割合は32.1%となっており、着用者の6.0%に対して5倍になります。
つまり高速道路でも、シートベルトを装着していないと身体が車外へ放出されるなどの原因で死に至る危険性が極めて高くなるといえます。
命を守るためにも、車に乗るときには運転席や助手席はもちろんのこと、後部座席であっても一般道であっても必ずシートベルトをつけましょう。
シートベルト不着用の交通事故事例やパターン
シートベルトをつけていなかったら、どういった交通事故が増えるのでしょうか?
よくある事例やパターンをお知らせします。
顔や頭、体を強打
シートベルトをしていないと、急ブレーキによって顔面や頭をフロントガラスにぶつけてしまったり、天井やドア、ダッシュボードや窓に体を叩きつけられてしまったりして大怪我につながります。
車外に放り出される
国土交通省のデータでも明らかにされていましたが、シートベルトをつけていないと身体が車外へ放出される可能性が極めて高くなります。
車外へ放り出されると体や頭を強打したり、後続車にひかれてしまったりして一気に致死率が上がります。
運転者がエアバックに挟まれる
後部座席に乗車していた人がシートベルトをしていなかった場合、事故の衝撃で前方へ身体が投げ出され、運転者がエアバックとシートや後部座席の人の身体に挟まれ、死亡してしまうケースもあります。
まとめ
シートベルトの大切さが良くわかったよ。
車に乗るとき、シートベルトを着用するのは道路交通法上の義務です。
着用していなかったら事故に遭ったときの過失割合が加算され、慰謝料やその他の賠償金も減額されてしまいます。
大怪我をしたり死亡したりするリスクも高まるので、乗車の際には必ずシートベルトをつけましょう。
交通事故の過失割合や慰謝料の計算方法についてわからないことがあったら、交通事故に詳しい弁護士に相談してアドバイスを受けてみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。