だけど、遅延損害金を受け取るためには、裁判を起こすしかないんだ。
今回の記事では、交通事故の遅延損害金や、その受け取り方法などを詳しく説明するね!
交通事故に遭ったら、加害者に賠償金の支払を求めることができますが、そのとき「遅延損害金」を足して被害者請求をすることができます。
遅延損害金のことは忘れてしまいがちではありますが、賠償額が多額になるケースや、保険会社ともめてしまって支払いが遅くなったときなどには、遅延損害金の金額がかなり大きくなることがあるので、軽く考えられるものではありません。
交通事故の遅延損害金はどのくらいの金額になるもので、いつから発生するのかなど、正しく理解しておきましょう。
今回は、遅延損害金の計算方法や請求方法について、解説します。
目次
交通事故における遅延損害金とは
遅延損害金とは、金銭債務の支払いをしないときに発生する損害賠償金のことです。
金銭債務について発生する
遅延損害金は、「金銭債務」について発生するものですから、物の引き渡しの債務などのケースでは、遅延損害金は発生しません。
遅延損害金が発生するのは、たとえばお金を貸し付けたのに約束通り支払いをしない場合や、売掛金が発生しているのに期日を過ぎても支払いをしない場合、家賃の支払いが必要なのに支払っていない場合などです。
法律上、当然に発生する
遅延損害金については、法律上当然に発生するものと考えられます
債権者の方が、支払いが行われなかったことによって、実際に何らかの損害が発生したことを証明する必要はありません。
交通事故の損害賠償金にも遅延損害金が発生する
交通事故が発生すると、加害者は被害者に対し、損害賠償金の支払をしなければなりません。
加害者には、運行供用者責任や不法行為責任にもとづいて、法律上の損害賠償義務が発生するからです。
損害賠償債務は、金銭にて支払いをすべきものですから、金銭債務です。
そこで、本来支払いをしなければならない時点を経過しても支払いをしていなければ、遅延損害金が発生します。
被害者において、賠償金の支払を受けられなかったことにより、実際に何らかの損害が発生していなくても、当然に遅延損害金を請求することができます。
遅延損害金は、もともとの賠償金に加算して請求する
遅延損害金の請求をするときには、本来の賠償金に足して支払いを求めることになります。
遅延損害金のみを、独立して支払ってもらうということはほとんどありません。
そこで、交通事故で遅延損害金の支払を求めるときにも、賠償金にプラスして遅延損害金の支払いを求め、遅延損害金が足されて増額されたお金をまとめて受けとることになります。
遅延損害金はいつから発生するのか(起算日について)
賠償金の支払日が決まった時が起算日となるの?
後遺障害が残った場合でも、起算日は、事故当日となるよ。
次に、遅延損害金は、いつから発生するのか、確認しましょう。
「起算点」とは
「いつから発生するか」という時点のことを、「起算点」と言います。
遅延損害金の起算点は、「支払いが必要となったとき」からです。
本来なら支払いをしなければならないにもかかわらず、必要な支払いをしないからこそ「遅延」となるのです。
たとえば、貸金返還請求権の遅延損害金の場合には、弁済期日が起算点となります。
ただし、一般的な遅延損害金の計算の際には「初日不算入の原則」というルールがあります。
初日不算入の原則とは、法律上、日数を計算するときに、初日を計算に入れない、とうルールです。
初日は24時間に足りず中途半端になるので、基本的に算入しないことになっているのです(民法140条)。
たとえば貸金返還請求権の場合には、弁済日の翌日から遅延損害金が発生します。
また、交通事故の損害賠償金についても、時効については初日を算入せず、事故発生日の翌日や症状固定日の翌日から3年の時効期間を計算することになっています。
初日不算入が適用されない
それでは、損害賠償金の支払い義務が発生するのは、いつからなのでしょうか?
これについては、「交通事故日」と考えられています。
交通事故が発生したら、加害者側は、すぐに全額の支払いをしなければならないということです。
そこで、交通事故日を過ぎると、その日数分の遅延損害金が発生します。
また、このとき、民法上のルールである初日不算入の原則が適用されません。
裁判所は、損害賠償債務の遅延損害金の計算の際には、初日不算入とせずに不法行為時から即刻遅延状態になると考えているからです。
そこで、交通事故の損害賠償債務についても、交通事故が発生した日(翌日ではありません)を起算点として、遅延損害金を計算します。
後遺障害についても、事故発生日から計算する
交通事故の損害賠償金には、いくつもの種類があります。
その中には、事故発生日には明らかになっていないものもたくさんあります。
たとえば、後遺障害に関する賠償金である後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益は、症状固定するまで明らかになりません。
また、死亡事故で発生する死亡慰謝料や死亡逸失利益、葬儀費用などは、死亡したり葬儀を執り行ったりするまでは、確定しないものです。
そうだとすると、こういった後遺障害や死亡に関する賠償金については、それぞれ症状固定した時期や死亡した時期が遅延損害金の起算点となるのでしょうか?
実は、そうではありません。
交通事故の損害賠償金については、後遺障害に関するものも死亡に関するものも、すべて交通事故時、即時に遅延状態に陥ると考えられています。
このことは、加害者にとっては不合理に感じられるかもしれません。
交通事故が起こった段階では、後遺障害が残るかどうかわかりませんし、即死事案でなければ死亡に関する賠償金など支払いようがないからです。
しかし、遅延損害金の計算に際しては、交通事故が発生したときに抽象的に損害賠償義務が発生していると言えるので、後遺障害や死亡に関するものも、全部含めて交通事故時に遅滞に陥るものと考えられているのです。
この考え方は、被害者にとっては非常に有利なものとなります。
交通事故後、長時間治療を続けてようやく症状固定した場合でも、後遺障害慰謝料や逸失利益の遅延損害金については、交通事故時から計算することができるからです。
どの位の遅延損害金が発生するのか
自賠責保険額の分だけ先に賠償金を受領してしまうと、支払済み部分の遅延損害金が少なくなってしまうから注意しよう。
それでは、実際に遅延損害金が発生するとき、どのくらいの金額になるのでしょうか?
先にもご説明した通り、遅延損害金は、実際に発生した損害ではありません。
ある意味フィクションの損害金ですから、画一的に「年率」によって計算をします。
法律は、遅延損害金の割合を定めています。
民法が定める一般的な金銭債務の遅延損害金の割合は、利率年5%となり、支払限度額はありません。
交通事故の損害賠償金にもこの年率が適用されるので、遅延損害金を計算するときには、過失割合を差し引き、請求元本額に年率5%をかけ算することによって計算します。
遅延損害金の計算方法と具体例
遅延損害金の計算方法
遅延損害金の計算方法は、以下のとおりです。
遅延損害金=賠償金の総額×0.05×交通事故からの経過日数÷365日
具体的に、どのくらいの金額になるのか、具体例を使って計算してみましょう。
ケース1
交通事故後1年半後に症状固定して後遺障害が残った事案。
治療費などを含む損害賠償金の総額は3,000万円で、事故発生から2年後に賠償金の支払いを受けるケース。
この場合、遅延損害金は以下の通りです。
3,000万円×0.05×730日÷365日=300万円
相手の任意保険会社から受けとることができる賠償金の合計額は、3,000万円+300万円=3,300万円となります。
ケース2
交通事故後1年後に症状固定して後遺障害が残った事案。
賠償金の総額は1,000万円で、事故発生後600日後に賠償金の支払を受けるケース。
この場合、遅延損害金は以下の通りです。
1,000万円×0.05×600日÷365日=82万1,917円
相手の保険会社から受けとることができる賠償金の総額は、1,000万円+82万円=1,082万円となります。
ケース3
交通事故後1ヶ月後に死亡して、49日の法要が済んだ後示談交渉を開始し、事故発生の400後に賠償金の支払いを受けるケース。
賠償金の総額は6,000万円
この場合、遅延損害金の金額は以下の通りです。
6,000万円×0.05×400日÷365日=328万7,671円
相手の保険会社から受けとることができる賠償金の総額は、6,000万円+328万7,671円=6,328万7,671円となります。
このように、遅延損害金を足すと、それだけで数十万円~数百万円程度も賠償金が増額されるので、被害者の手元に入ってくる金額が大きくアップします。
遅延損害金が高額になりやすいケース
遅延損害金が高額になりやすいケースは、どのような場合なのでしょうか?
損害賠償金の総額が大きい場合
遅延損害金は、元本に対して年率(5%)をかけ算することによって計算をします。
そこで、元本が大きいほど遅延損害金は高額になります。
たとえば、損害賠償金の金額が1,000万円なら1年に発生する遅延損害金は50万円ですが、損害賠償金の金額が5,000万円なら、1年に発生する遅延損害金の金額が250万円となります。
そこで、大きな事故で重大な後遺障害が残った場合や死亡事故のケースなどでは、遅延損害金を請求することによるメリットが大きくなってきます。
支払いが遅くなった場合
遅延損害金は、遅延日数分が支払われます。
そこで、遅延日数が長くなればなるほど高額になります。
たとえば、損害賠償金の総額が1,000万円の事案でも、1年で支払いを受けたら50万円しか遅延損害金は発生しません。
これに対し、治療や後遺障害認定に時間がかかった上に保険会社との示談交渉ももめてしまい、最終的に賠償金を受けとるまでに4年がかかったケースでは、遅延損害金は200万円となります。
そこで、保険会社とトラブルになるなどして、支払いが延びてしまった事案では、遅延損害金を請求する意義が大きくなってきます。
遅延損害金の請求方法
だから、遅延損害金を請求するためには、裁判を起こさなければいけないんだよ!
以下では、具体的に遅延損害金を請求する方法をご説明します。
示談の場合、遅延損害金は支払われない
交通事故の損害賠償金の支払いを求める方法として、もっとも一般的なものは保険会社との示談交渉です。
ただ、示談交渉では、遅延損害金の支払いを受けることができません。
確かに、遅延損害金は法律上当然に発生するものですから、示談交渉だからといって支払わなくて良い、というものではありません。
しかし、実務上、示談で解決するときには遅延損害金は支払わないものとして定着しています。
話し合いで解決するのだから、被害者としても、損害賠償金までは求めない、ということです。
交通事故後、非常に長い日数が経過していたり、重大な後遺障害が残っていたりしても、示談で解決する限りは、遅延損害金は諦める必要があります。
このことは、弁護士に対応を依頼した場合も同じです。
弁護士に示談交渉を依頼すると、弁護士基準が適用されて賠償金が大きくアップするなどのメリットがありますが、遅延損害金の請求については、本人が示談交渉しても弁護士が示談交渉しても不可能です。
ADRの場合
次に、ADRを利用した場合を考えてみましょう。
ADRの場合には、弁護士基準に近い基準が使われるので、被害者本人が示談交渉をするときよりも賠償金の金額が上がることが多いです。
ただ、ADRで解決するときにも、遅延損害金を請求することはできません。
交通事故相談センターや日弁連交通事故相談センターなどでは、遅延損害金は含めずに解決する運用となっているからです。
裁判の場合
結局、交通事故で遅延損害金の請求をするためには、訴訟を利用するしかありません。
損害賠償請求訴訟を起こすと、裁判所が判決確定を下します。
判決では、必ず遅延損害金を加算した賠償金の支払い命令が出ます。
また、判決が下される場合、弁護士費用の支払い命令も出ます。
交通事故で認められる弁護士費用は、認容額(損害元金)の1割です。
そこで、たとえば3,000万円の損害が認められて、遅延損害金が300万円加算される場合、300万円の弁護士費用の支払命令が出ます。
すると、全体としては、3,000万円+300万円(遅延損害金)+300万円(弁護士費用)=3,600万円の支払い命令が出ることとなります。
この事例では、裁判をすることにより、賠償金が120%にまでアップしており、弁護士に依頼するメリットが非常に大きいことがわかります。
和解の場合
交通事故で訴訟を起こしても、途中で和解することが多いです。
その場合、遅延損害金はどうなるのでしょうか?
和解の場合、遅延損害金が全額認められることはありません。
ただし、金額の調整のため、遅延損害金が利用されることはあります。
たとえば、被害者が2,000万円の賠償金を求めていて、保険会社は1,200万円しか支払わないと言っているとします。そのとき、2,000万円をベースにすると、遅延損害金が300万円発生しているとします。
そのようなとき、遅延損害金を考慮して、総額2,000万円で和解するなどの方法です。
被害者にしてみると、判決をしてもらったらそこに遅延損害金や弁護士費用がプラスされるのですが、和解するので2,000万円まで減額します。
ただ、請求金額である2,000万円は確保できます。
保険会社にしてみても、判決をしてもらったら2,500万円程度の支払いが必要になるところ、和解によって2,000万円で済むメリットがあります。
有利に訴訟を進める方法
交通事故で、遅延損害金を請求するためには、訴訟を起こして判決を得る必要があります。
ただ、判決を出してもらった場合、敗訴リスクに注意が必要です。
敗訴リスクとは、訴訟に負けてしまう危険性のことです。
訴訟では、法律上の主張や証拠の提出を適切にすすめていかないと、被害者の主張を認めてもらうことができません。
裁判に負けてしまったら、元本自身が非常に安くなってしまうので、遅延損害金が加算されても賠償金が大きく下がってしまう可能性があります。
そこで、訴訟をするならば、有利に展開する方法を考えなければなりません。
訴訟は、書面審理を中心とした非常に専門的な手続きです。
素人が1人で進めると、極めて不利になってしまいます。
相手が保険会社の場合、弁護士を付けてくることがほとんど確実なので、圧倒的な力の差が発生してしまいます。
訴訟を有利に進めるためには、弁護士に対応を依頼する必要性が高いです。
交通事故に遭って高額な遅延損害金の請求をしたいなら、交通事故トラブルに注力している弁護士に対応を依頼しましょう。
示談すべきか判決を得るべきか
だけど、ケースによって裁判を起こした方が良いのか、示談とした方が良いのかは変わってくるから、弁護士に相談しながら進める事が大切だよ。
最後に、交通事故被害者が、示談をすべきか判決をもらって遅延損害金を獲得すべきかの判断基準をお知らせします。
確かに、判決を得ると、遅延損害金や弁護士費用が加算されるので、高額な賠償金を獲得することができます。
しかし、そのためには訴訟のために大きな労力をつぎ込まなければなりませんし、時間もかかります。
早く交通事故トラブルを解決して先に進みたいと考えておられる被害者の方にとってはデメリットもあるのです。
そこで、示談をするか損害賠償請求訴訟をするのかについては、ケースごとの対応が必要です。
後遺障害の有無や内容、損害の内容、相手の保険会社の態度や提示されている条件、被害者の方のケガの状態や精神状態などに鑑みて、最適な方法を選択しましょう。
交通事故トラブルに注力している弁護士なら、多くの事案を解決しているので、こうしたときに適切な判断をすることができるものです。
悩んでしまった場合には、できるだけお早めに弁護士に相談に行くことをお勧めします。
できれば数人の弁護士に相談をして、もっともしっくり来るアドバイスをくれた弁護士に対応を依頼すると良いでしょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。