人によっては、示談金が減額となってしまう事もあるんだよ。
今回の記事では、交通事故の賠償金の減額理由について、詳しく見ていこう。
交通事故に遭ったとき、誰でも「なるべく多額の保険金を獲得したい」と考えるものですが、適切に対応しておかないと、賠償金が減額されてしまうケースがあります。
また、ある程度の減額は避けがたいケースもあるものです。
今回は、交通事故の慰謝料や賠償金が減額される理由について、解説します。
目次
交通事故の慰謝料が減額となってしまう理由
交通事故に遭ったとき、加害者に対しては慰謝料やその他の損害賠償請求をすることができます。
ここで、慰謝料と治療費、休業損害、逸失利益などの損害をすべて合計した費用が「示談金」であり「賠償金」です。
何度か述べてきたことでもありますが、世間には「交通事故に遭ったときには慰謝料を請求できる」という思い込みがあるものです。
ただ、「慰謝料」は賠償金の一部であり、相手から受け取れる金額の一部に過ぎません。
実際には、上記のようなものを含めたもっと大きな金額の支払いを受けられるので、まずは押さえておきましょう。
ところで、交通事故の賠償金は、さまざまな要素によって減額される可能性があります。
以下で、賠償金の減額要素を挙げますので、まずはざっと確認しましょう。
- 軽傷のケース
- 通院日数が少ない場合
- 過失相殺
- 素因減額
- 好意同乗
- 損益相殺
それぞれがどのようなことなのか、順番にご説明していきますね。
軽傷のケース
詳しく説明するね。
交通事故では、重傷を負うことも軽傷で済むこともありますが、軽傷の場合、慰謝料が減額されることがあります。
交通事故の賠償金の費目として、入通院慰謝料があります。
これは、交通事故を原因として病院への入通院が必要になったことについて発生する慰謝料です。
入通院慰謝料は、打撲の場合や自覚症状しかないむちうちなど、軽傷の場合には通常のケースの3分の2程度に減額されます。
自覚症状とは、痛みやしびれなどの症状です。
レントゲンやMRIなどの画像に写らず、患者が訴える症状しかない場合には、入通院慰謝料が減額される、ということです。
なお、これは裁判基準や弁護士基準で計算した場合の取扱いです。
任意保険基準や強制保険である自賠責基準によって入通院慰謝料を計算するときには、とくに重傷か軽傷かによる区別は行われていません。
ただし、任意保険基準や自賠責基準で計算すると、裁判基準の「軽傷のケース」より、さらに低い水準となります。
もともとの基準が低いので、たとえ軽傷のケースで減額されないとしても、得にはなりません。
慰謝料は、裁判基準で計算すべきです。
通院日数が少ない場合
裁判基準の場合
次に、通院日数が少ない場合の問題があります。
裁判基準によっても、通院日数が少ない場合、通院期間ではなく、実通院日数の3倍程度の日数を基準として入通院慰謝料が計算されることがあります。
すると、通院期間を基準にするより慰謝料が減ります。
特に軽傷の事案でそうした調整が行われることが多いです。
すなわち、1ヶ月が30日とすると、実通院日数が10日を切ると、30日ではなく「実通院日数×3」を基準とされるということです。
実通院日数が5日なら、15日分の入通院慰謝料しかもらうことができません。
そこで、交通事故後に通院をするならば、まじめに通院を続けるべきです。
単純に「通院期間が長ければ良い」、というものではありません。
できれば、週3~4度は通院しましょう。
自賠責基準の場合
なお、通院日数によって慰謝料が減額されるのは、裁判基準だけではなく自賠責基準でも同じです。
自賠責基準の場合、入通院慰謝料は1日4200円で、治療日数に応じた金額が支払われます。
治療日数については、治療期間と実通院日数の2倍を比較して、少ない方を基準としています。
そこで、実通院日数が少ないと、実通院日数の2倍を基準として入通院慰謝料が計算されるので、大きく減額されてしまう可能性があるのです。
たとえば、1ヶ月に5日しか通院しなかった場合には、10日(5日×2)×4200円=42000円しか入通院慰謝料を支払ってもらうことができません。
もし15日以上通院していたら、30日×4200円=126000円支払ってもらうことができます
自賠責保険からの支払い金が少ないと、任意保険会社からの治療費打ち切りにも遭いやすくなるので、通院治療はやはり頻繁に行い継続することが大切です。
過失相殺
これも賠償金の減額に関係あるの?
少しでも多くの賠償金を受け取るためには、過失相殺をできるだけ有利にすることが非常に大切となるんだよ。
過失相殺とは
次に、過失相殺について、見てみましょう。
過失相殺とは、被害者の過失割合に応じて、損害賠償額を減額することです。
過失割合とは、交通事故の損害発生に対する被害者の責任割合です。
どのようなことかというと…
交通事故が起こったとき、加害者のみならず、被害者にも一定の責任があることが多いです。
たとえば、前方不注視があったり、交差点で周囲に配慮していなかったり減速していなかったりすることなどがあります。
そこで、交通事故の示談をするときには、加害者と被害者それぞれの責任割合である過失割合を決定します。
そして、被害者に過失割合が認められる場合、その割合に応じて過失相殺が行われます。
たとえば、過失割合が20%の場合には、賠償金が2割減になってしまう(8割になる)ということです。
過失相殺をされない方法とは?
そこで、交通事故被害者が、なるべく高額な賠償金を獲得するためには、なるべく自分の過失割合を小さくすることが重要なポイントとなります。
加害者の保険会社が過大な過失割合を主張してくることも多いので、示談交渉の際に提示された過失割合に疑問があれば、弁護士に相談してみることをお勧めします。
納得できないまま大きく過失相殺された金額で示談をしてしまったら、後にやり直すことは基本的に認められません。
弁護士であれば、事故のパターン別の過失割合を把握しているので、事故の状況を説明したら、適切な過失割合を判定することができます。
自分で示談交渉を続けるのに疲れた場合には、弁護士に過失割合の問題を含めた示談の話合いを任せてしまうことも可能です。
素因減額とは
素因減額には身体的素因と、心因的素因の2種類があるんだ。
2つの違いを見ていこう。
交通事故の賠償金減額事由として「素因減額」があります。
これは、被害者に既往症(持病)や精神的な要因がある場合に、賠償金を減額することです。
素因減額の考え方も過失相殺の考え方に似ています。
被害者側において、損害拡大に対する責任があるのだから、損害賠償金額を減額することにより、損害を公平に分担しよう、という考え方です。
そこで、素因減額を行うとき、法律的には「過失相殺を類推」します。
素因減額には「身体的要因」によるものと「精神的要因」によるものに分けられるので、以下で、以下で順番に見ていきましょう。
身体的素因
身体的素因とは、被害者の身体的な特徴や既往症、体質的な要因などのことです。
たとえば、被害者に椎間板ヘルニアや変形性頸椎症、変形性腰椎症、脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症などがある場合に、身体的素因が問題になりやすいです。
このような身体的素因があると、被害者がむちうちになったり脊柱管を損傷したりした場合、必要以上に治療が長びいたり、本来なら残らないはずの後遺障害が残ったりすることがあるので、素因減額が行われる可能性があります。
素因減額が認められた例
素因減額が認められた例として、以下のようなケースがあります。
「一酸化炭素中毒」の既往症があった人が交通事故に遭い、頭部外傷となった事例。
被害者はさまざまな精神障害を発症しましたが、3年後に呼吸麻痺によって死亡しました。
この事案では、裁判所は、一酸化炭素中毒による身体的素因により、50%を減額すべきと判断しました(最高裁平成4年6月25日)。
もう1つは、頸椎後縦靭帯骨化症という既往症のあった被害者が、交通事故でむちうちになり、治療が長期化した事例です。
このケースでは、被害者の後縦靱帯骨化症が症状悪化につながったと判断されて最高裁が差し戻し、最終的に高裁にて素因減額が認められています(大阪高裁平成9年4月30日)。
素因減額を否定した例
身体的素因については、素因減額が否定されている例もたくさんあります。
たとえば、一般の人よりも首が長い特徴のある人が「胸郭出口症候群、バレリュー症候群」という傷病となった事案で、素因減額が問題なった事案が有名です。
このケースでは、裁判所は「被害者が平均的な体格や通常の体質と異なる身体的特徴をもっていたとしても、「疾患」に当たらない限り考慮すべきではない」として、素因減額を否定しています(最高裁平成8年10月29日)。
他にも、被害者が妊娠中であった事案や、年の割に骨密度が低かった場合などにおいて、素因減額が否定された事案もあります。
身体的素因が行われるかどうかの判断基準
身体的素因が行われるかどうかについては、その身体的要因が「疾患」や「通常の人とかけ離れた特徴」なのかによって、判断されています。
そういったケースでは素因減額が行われますが、「単なる身体的特徴」に過ぎない場合には、素因減額は行われません。
また、年齢による老化現象については、病気でない限り素因減額の対象にはなりにくいです。
たとえ疾患があったとしても、「疾患がなかったとしても同じだけの損害が発生したと言える場合」や、「疾患による影響が軽微な場合」には、素因減額されません。
心因的素因
次に、心因的素因とはどのようなものなのか、見ていきましょう。
心因的要因とは、被害者の精神的な傾向のことです。
たとえば、ネガティブな性格やストレスへの耐性が低いこと、うつ病の既往症などが問題になりやすいです。
このような人は、交通事故後、積極的に治療を受けなかったり、うつ病が悪化して治療に悪影響を及ぼしたりして、治療が長びきやすい傾向にあります。
そのような場合、被害者の心因的要因が損害拡大に影響しているとして、素因減額が行われることがあります。
心因的素因によって素因減額が認められた例
心因的素因により、素因減額が認められた例には、以下のようなものがあります。
たとえば、被害者の特異な性格により、治療への意欲が欠如していたためにむちうちによる通院が10年以上に及んだ事例において、損害額が4割程度に減額された事例などがあります(最高裁昭和63年4月21日)。
心因的素因による減額が否定された例
これに対し、被害者がむちうちになったケースにおいて、被害者が精神的にダメージを受けやすい性格であるとしても、「加害者は被害者のあるがままを受け入れるべき」として、素因減額を認めなかった事案などがあります(東京地裁平成元年9月7日)。
以上からすると、裁判所は、「基本的に被害者のあるがままを受け入れるべき」と考えているので、被害者の個性のレベルであれば、素因減額は否定されると言えます。
ただし、以下のようなケースでは、心因的素因による素因減額が認められやすくなります。
- 事故が軽微であり、人に対して心理的な影響を与えるほどのものではない
- 痛みやしびれなどの自覚症状に見合う他覚的所見(画像による診断結果など)がない
- 一般的な治療に必要な相当期間を超えて、長期の治療が行われた
身体的素因であっても心因的素因であっても、実際に素因減額が行われるケースは限定されています。
また、素因減額が行われる割合も、ケースバイケースです。
少ないときには10%ということもありますし、多ければ50%以上になることもあります。
保険会社の言うままに素因減額を受け入れるべきではないことも、多々あるので、示談交渉の際に素因減額が問題になったら、示談に応じる前に、まずは弁護士に相談していることをお勧めします。
好意同乗
好意同乗とは
好意同乗とは、被害者が運転者の好意によって無償で同乗させてもらっていたときに事故に遭ったケースを言います。
たとえば、被害者が自宅に歩いて帰ろうとしていたところ、友人が発見して車で送ってくれていたようなケースです。
このような場合、被害者は加害者の好意によって車に乗せてもらっていたのですから、交通事故の結果についてもある程度被害者が負担すべきではないかとも考えられます。
そこで、好意同乗の場合には、過失相殺の類推や信義則などを理由として、賠償金の制限が行われる可能性があります。
好意同乗で減額される場合
ただし、好意同乗によって実際に賠償金の減額が行われるケースは少ないです。
昔は車が高級で、車に乗ることが特別なことだったので好意同乗を認めやすかったのですが、今では車が普及し、単に乗せてもらっていただけで賠償金を減額することは相当でないと考えられるためです。
現代において好意同乗による減額が認められるのは、被害者が損害発生に加担した場合や、損害発生を受諾していたようなケースに限られます。
たとえば、被害者が加害者を煽って危険な運転をさせた場合、加害者が飲酒していることを知りながら同乗したようなケースにおいては、賠償金が減額されます。
好意同乗でも減額されない場合
これに対し、被害者が単純に加害者の運転する車両に同乗していただけ、というケースでは減額は行われません。
たとえば、家族に車で送ってもらった場合、友人の車に乗せてもらって一緒に会場などの目的地に行った場合、送ってもらった場合などでは、被害者に損害の負担をすべきではないので、減額は行われません。
保険会社から「好意同乗」を主張されたときには、本当に減額すべきケースかどうか、しっかり見極めることが重要です。
迷ったときには、弁護士に相談しましょう。
損益相殺
損益相殺とは
交通事故の賠償金が減額される要因として「損益相殺」があります。
損益相殺とは、交通事故によって被害者が利益を受けた場合、その利益の分は賠償金から差し引くという考え方です。
利益というとおかしな感じも受けますが、どのようなことなのでしょうか?
被害者や遺族などの近親者、請求者は、交通事故を要因としてお金などを受けとることがあります。
たとえば健康保険からの支給金や労災の支給金などです。
そのような場合、交通事故の損害賠償金を全額認めると、二重取りになると考えられます。
そこで、もらった分は差し引いて、賠償金が支払われるのです。
それが損益相殺です。
以下で、具体的にどのようなお金が損益相殺の対象になるのか、見てみましょう。
損益相殺の対象となるもの
- 自賠責保険からの受取金
- 遺族厚生年金
- 障害厚生年金
- 労災給付金
- 健康保険の傷病手当金
- 所得保障保険の受取金
- 人身傷害保険の受取金
交通事故後、示談成立前に上記のようなお金を受けとっていたら、賠償金から減額されます。
損益相殺の対象にならないもの
一方、以下のようなものは、損益相殺の対象になりません。
そこで、示談成立前に受けとっていたとしても、賠償金が減額されることはありません。
- 自損事故の保険金
- 搭乗者傷害保険の受取金
- 生命保険金
- 傷害保険金
- 労災保険の特別支給金
- 香典やお見舞金
- 特別児童福祉扶養手当
- 身体障害者福祉法の給付
同じ自動車保険からの受取金であっても、損益相殺の対象になるものとならないものがあるので、注意が必要です。
正しい取扱いがわからない場合には、弁護士に相談すると良いでしょう。
まとめ
減額理由を詳しく知ることが出来て良かったよ!
今回は、交通事故の慰謝料や賠償金が減額されるケースについて、解説しました。
慰謝料や賠償金について、減額を避けられないこともありますが、避けられるケースも多々あります。
そのようなとき、損害保険会社の言うままに減額に応じてしまったら、大きな損失となってしまいます。
適切に賠償金を受けとるためには、一度弁護士のアドバイスを受けると良いでしょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。