交通事故に遭ってしまったんだけれど、後遺症が残ってしまいそうなんだ。
後遺障害が残ってしまった場合には手続きはいつまでに済ませれば良いの?
後遺障害認定の事だね。
後遺障害認定の手続きは、症状固定となってから行う事ができるんだけれど、いつまでに申請しなければいけないという決まりはないんだよ。
期限がないって事はいつまででも申請可能って事?
後遺障害認定の請求には期限はないんだけれど、賠償金を受け取ることが出来る期間には時効があるから注意が必要なんだよ。
今回の記事では、後遺障害認定の請求について、詳しく見ていこう。
交通事故に遭ったら、身体のさまざまな部分に後遺障害が残ることがあります。
その場合、加害者の自賠責保険において「後遺障害等級認定」を受けなければなりません。
後遺障害等級認定は、いつのタイミングで、どのような方法で申請をするのが良いのでしょうか?
また「いつまでにしなければならない」という期限があるのか、問題となります。
今回は、後遺障害等級認定の申請期限について、解説します。
目次
後遺障害等級認定申請とは
後遺障害等級認定の期限をご説明する前提として、まずは後遺障害等級認定とはどういった制度なのか、確認しましょう。
後遺障害等級認定とは、交通事故で残った身体のさまざまな後遺症について、正式に「後遺障害」として認めてもらい、「等級」をつけてもらう手続きです。
交通事故の後遺症には、さまざまなものがあります。
目や耳、口、脳、手足や指、内臓や神経障害など、発症部位もさまざまですし、障害の内容や程度もケースによって異なります。
こうしたいろいろな後遺障害を分類して、症状の程度に応じて「ランク付け」するのが、後遺障害等級認定の制度です。
後遺障害に等級をつけて認定することにより、異なる交通事故の被害者であっても、同じような後遺障害が残ったケースでは同じように扱われるようになり、被害者間で平等性を保つことが可能となります。
後遺障害の等級を認定しているのは、加害者の自賠責保険です。
そこで、後遺障害等級認定申請をするときには、基本的に、自賠責保険に対し、申請をする必要があります。
後遺障害認定を受ける意味
後遺障害認定を受けるとどんなメリットがあるの?
賠償金額の大幅な増額が期待できるね。
慰謝料が増えるだけではなく、逸失利益なども受け取ることが出来るんだよ。
それでは、交通事故患者にとって、後遺障害等級認定申請をすることにどういった意味があるのでしょうか?
被害者が後遺障害等級認定を受ける目的は、後遺障害についてのさまざまな賠償金を受け取るためです。
交通事故で後遺障害が残ると、身体のさまざまな部位が不自由になり、日常生活にも仕事上でも大きな支障が発生します。
労働能力が下がるので仕事を続けられなくなるケースもありますし、精神的苦痛も強いので、慰謝料も発生します。
ただ、こうした後遺障害に関連する賠償金を請求するためには、後遺障害等級認定を受ける必要があります。
交通事故後、何らかの不具合(後遺症)が発生しても、正式に後遺障害として認定されていなければ、後遺障害慰謝料や逸失利益の請求をすることができないのです。
後遺障害認定を受けるか受けないかで、数千万円以上の賠償金の差額が発生することもありますから、交通事故被害者にとって、後遺障害等級認定を受けることは極めて重要です。
後遺障害申請を行うベストなタイミングとは
後遺障害認定の手続きは、いつ進めるのがお勧めなの?
賠償金請求の時効にかかってしまう可能性があるから、出来るだけ早く行う事がお勧めだよ。
症状固定となれば、後遺障害認定の手続きができるから、症状固定となったらすぐに後遺障害認定の手続きを開始しよう。
それでは、交通事故後、後遺障害等級認定の申請を行うのにもっとも適したタイミングは、いつなのでしょうか?
基本的に、症状固定したら後遺障害等級認定申請をする
この問題については、後遺障害とはどのようなものかを考えてみると、わかります。
後遺障害は、交通事故後、治療を続けても完治せずに残ってしまった障害です。
そこで、治療をしても、それ以上良くならなくなったときの症状が「後遺障害」として認められます。
このように「治療をしても、それ以上状態が改善しなくなった状態」のことを「症状固定」と言います。
そこで、後遺障害等級認定申請をするタイミングは、基本的に「症状固定」したときとなります。
症状固定は誰がどのように判断するのか
そうだとすると、次に問題になるのは「いつ症状固定するのか」ということです。
症状固定は「治療してもこれ以上良くならない状態」ということですから、「医学的な判断」です。
そこで、判断できるのは、治療を担当している医師ということになります。
通院治療を継続していて、そろそろ治療効果が顕れなくなったと思われたら医師の方から「そろそろ症状固定ですね」と言われることがあります。
もしくは、患者の方から「いつ頃症状固定ですか?」と聞くと、見込みのタイミングを教えてもらうことができます。
ただし、見込みの時期はあくまでも見込みですので、延びることも珍しくありません。
正しい症状固定の時期については、患者の感じている自覚症状や、患者自身が治療効果を感じられているかどうかなども総合的に検討して、医師と相談して決める必要があります。
症状固定時期がずれるケースもある
症状固定時期については、基本的に医師が判断して後遺障害診断書に記入しますが、その日付がずれるケースもあります。
たとえば、保険会社が「実際の症状固定時期は、診断書記載日より前である」と言って裁判で争ってくることもありますし、「症状固定後も症状が改善している」と言われて、症状固定日が争われる場合もあります。
こういったケースでは、裁判所の判断により、症状固定時期がずらされることがあります。
医師が決めた症状固定時期であっても、絶対的なものではないので、知識として押さえておくと良いでしょう。
症状固定時期を検討すべきケースがある
一般的なケガで、保存療法によって治療を進めている場合には、症状固定時期について迷うことは少ないです。
しかし、外科手術か保存療法かを選べるケースでは、症状固定時期をいつにすべきかの判断に、慎重な検討を要することがあります。
交通事故後のケガの治療方法には、大きく分けて「保存療法」と「外科手術」があります。
保存療法とは、手術をせずに、ギプス固定や投薬、シップなどの処置やリハビリをして、時間の経過による症状の改善を待つ治療方法です。
これに対し、手術は、身体にメスを入れて、より劇的な改善を目指す治療方法です。
交通事故のケガの内容によっては、保存療法も外科手術も、どちらも選択できるケースがあります。
その場合、外科手術をした後に症状固定とするのか、外科手術をしないで保存療法のみを行って症状固定してしまうのかにより、症状固定時期が大きく異なってきます。
また、どちらを選択するかにより、認定される後遺障害の等級も異なってくるケースあります。
そこで、交通事故後、外科手術を行うかどうかについては、医師や弁護士と相談しながら慎重に検討し、決定する必要があるのです。
相手の保険会社が症状固定を急いでくるケースについて
症状固定時期については、もう1つ押さえておくべきポイントがあります。
それは、加害者の任意保険会社や、損害保険会社が、症状固定時期を急いでくるケースがあることです。
先ほどもご説明したように、症状固定時期は、基本的には医師が判断する事項ですから、加害者の保険会社が関与すべき問題ではありません。
しかし、保険者が保険料を支払って任意保険と契約をしているわけですから、実際には、加害者の保険会社が負担する事になります。
治療日数が増えると、治療費もかさみますし、その分入通院慰謝料もかさんでいきますから、加害者の保険会社の負担額が増大するのです。
そこで、加害者の保険会社は、治療期間が一定以上になると、被害者に対し「そろそろ症状固定にしましょう」などと言って、治療をやめて症状固定するように急かしてくるのです。
被害者が治療を辞めないと、治療費支払いを強制的に打ち切ってしまうこともあります。
しかし、このようなとき、被害者としては治療を辞めるべきではありません。
治療を辞めると、本当に必要な治療を受けられずに治るものも治らなくなりますし、入通院慰謝料も減額されて、被害者にとって良いことは1つもないからです。
被害者が立て替えた治療費は、後から加害者に請求できるので、相手の保険会社が「症状固定です」と言ってきても、鵜呑みにせずに治療を継続し、医師と相談して適切な症状固定のタイミングを計りましょう。
症状固定したら、まずすべきこと
後遺障害認定の手続きはまず何から始めれば良いの?
まずは後遺障害診断書を医師に作成してもらおう。
その後には弁護士に依頼すると、スムーズに手続きを進める事が可能だよ。
以上のように、交通事故後、後遺障害の認定請求をするタイミングは、基本的には症状固定したときです。
症状固定と判断されたら、後遺障害等級認定申請を進めなければなりません。
このとき、まずは何をすれば良いのでしょうか?
一番にやるべきことは、後遺障害診断書を取り付けることです。
後遺障害診断書とは、診断書の中でも、後遺障害の内容に特化しているものです。
自賠責保険に書式があるので、自賠責保険に連絡をすると送ってもらうことができますし、交通事故トラブルに注力している弁護士に依頼しても、書式をもらうことができます。
書式を入手したら、治療を担当してくれている医師に渡し、記入作成してもらいましょう。
後遺障害診断書は、後遺障害等級認定の際に非常に重視される、極めて重要な資料です。
作成の際のさまざまなポイントなどもあるので、適切に後遺障害認定を受けるためには、交通事故に精通している弁護士などの専門家に相談すると良いでしょう。
また、できれば交通事故患者に理解のある病院にかかり、以前にも後遺障害診断書を作成した経験のある医師に作成を依頼することが望ましいです。
後遺障害の申請に期限はあるのか
後遺障害認定に関わってくる賠償金請求の時効ってどの位の期間となるの?
事故の種類によって時効が変わってくるから、後遺障害認定の申請手続きができる期間も変わってくるんだ。
まずは後遺障害認定の2つの申請方法とその違いについて、詳しく見ていこう。
次に、後遺障害等級認定申請に期限があるのか、見ていきましょう。
事前認定と被害者請求
後遺障害等級認定申請の方法には、事前認定(加害者請求)と被害者請求という2種類の方法があります。
事前認定とは、加害者の任意保険会社が、自賠責保険に対して後遺障害認定申請をする方法です。
この場合、必要な手続きは加害者の任意保険会社が行うため、被害者はほとんど何もしなくてかまいません。
先ほどご説明した「後遺障害診断書」を加害者の任意保険会社に送付すれば、基本的に手続きが終了します。
一方、被害者請求とは、被害者自身が加害者の任意保険会社に対し、後遺障害等級認定をする方法です。
被害者請求の場合には、後遺障害診断書以外にもたくさんの書類を用意して、自賠責保険に提出しなければなりませんから、非常に手間がかかります。
ただし、被害者請求をすると、被害者が自分の裁量で有利な資料などを提出できるので、より高い等級の認定を目指すことも可能となります。
事前認定の場合の期限
それでは、後遺障害認定申請の期限はいつまでなのでしょうか?
まずは、事前認定のケースから見てみましょう。
実は、事前認定には「期限がありません」。
ただし、任意保険に対する請求権に「時効」があるため、その時効が成立すると、事前認定も請求できなくなってしまいます。
任意保険への損害賠償請求権の期限(時効期間)は、以下の通りです。
- 物損事故の場合…交通事故後3年
- 人身事故(傷害)の場合…交通事故後3年
- 人身事故(後遺障害)の場合…症状固定後3年
- 死亡事故の場合…死亡後3年
ほとんどの場合、事故日が時効の起算日となるのですが、後遺障害が残ったケースでは、症状固定後3年間となります。
その間に任意保険と示談交渉を成立させないと、後遺障害どころか、賠償金そのものを受け取ることもできなくなってしまいます。
被害者請求の場合の期限
次に、被害者請求の場合の期限を見てみましょう。
被害者請求権とは、そもそも被害者が自賠責保険に対し、保険金の請求をする手続きですから、自賠責保険に対する保険金請求の期限が切れると、被害者請求ができなくなります。
自賠責保険に対する保険金請求権の時効も、基本的には任意保険に対する時効期間と同じです。
そこで、被害者請求をするのであれば、必ず症状固定後3年以内に加害者の自賠責保険にして手続きを行うことが必要です。
後遺障害の申請時効を引き延ばす方法
時効が近くなっている場合には、時効を中断させる方法はないの?
任意保険会社や自賠責保険会社に、債務承認をしてもらうか、裁判を起こす必要があるんだよ。
後遺障害等級認定をしようと思っても、予想外に時間が経過して時効が完成しそうになってしまうことがあります。
そのようなとき、後遺障害等級認定の申請期限を延ばすには、どうしたら良いのでしょうか?
事前認定と被害者請求に分けて、見てみましょう。
事前認定の場合
事前認定の場合には、任意保険に対してアクションを起こす必要があります。
具体的には、任意保険会社に債務承認をさせるか、裁判を起こします。
債務承認とは、債務者に「債務があります」と認めさせることです。
そこで、任意保険会社から「債務を負担しています」という書面を差し入れてもらうか、示談金の一部を支払ってもらうことができれば、債務承認によって時効が中断します。
もう1つの方法が、裁判です。
裁判をすると、申し立て時に時効が中断して、判決が出ると、確定した日から10年間、時効期間が延長されます。
そこで、任意保険会社が債務承認に応じない場合には、早めに任意保険に対し、損害賠償請求訴訟を起こすことが有効です。
被害者請求の場合
次に、被害者請求の時効の止め方をご説明します。
被害者請求は、自賠責保険に対する保険金を請求する手続きなので、自賠責保険に対して時効中断措置をとる必要があります。
自賠責保険の場合には、自賠責保険に対し「時効中断申請書」という書類を差し入れると、自賠責保険が債務承認するので時効を中断させることができます。
時効中断申請書の書式は自賠責保険にあるので、申請すれば送ってもらえます。
また、万一自賠責保険とトラブルになっていて、自賠責保険が債務承認しない場合には、自賠責保険に対して裁判をすると、時効を中断させることが可能です。
自賠責保険への中断と任意保険への中断の関係
このように、後遺障害等級認定申請の時効には、「任意保険」に関するものと「自賠責保険」に関するものがありますが、この両者の関係にも注意が必要です。
任意保険会社の支払い義務と、自賠責保険会社の支払義務は、法律上別のものであると考えられています。
そこで、一方に対する時効中断措置は、他方に影響を及ぼしません。
任意保険会社に訴訟を起こしても自賠責保険への時効は中断しないので、被害者請求ができなくなってしまうおそれがありますし、自賠責保険に債務承認をさせても任意保険への時効は中断しないので、損害賠償請求ができなくなってしまうおそれがあるということです。
交通事故後の損害賠償金を請求をするときには、自賠責保険と任意保険の双方に対する請求権の時効を、それぞれ意識しておく必要があります。
紛争処理センターでは、自賠責保険の後遺障害等級認定に関する紛争は取り扱っていませんから注意しましょう。
後遺障害が認定されるまでの期間
後遺障害認定の手続きにはどのくらいの期間がかかるの?
だいたい1ヶ月から3か月程度となるよ。
任意保険会社の場合、手続きが込み合っている場合など、それ以上の期間がかかってしまう事もあるんだよ。
後遺障害等級認定申請をすると、どのくらいの期間がかかるのかについても、見ておきましょう。
これについては、ケースによっても幅がありますが、だいたい1~3か月程度です。
事前認定と被害者のどちらが早い、ということもありません。
ただ、事前認定の場合、任意保険会社の担当者によっては手続きが大幅に遅くなるケースもありますし、結果が出るまでの間、何もできずに待っているしかできないので、待ち時間を長く感じることもあります。
また、被害者請求の場合でも、要求された書類や資料をきちんと提出しないと、長びく可能性があります。
できるだけ早く後遺障害認定の手続を進めるためには、交通事故に積極的に取り組んでいて、後遺障害認定申請の手続きに慣れている弁護士に対応を依頼する方法が効果的です。
そのような弁護士であれば、テキパキと書類を集めて申請をして、自賠責からの照会にも適切に対応し、スムーズに手続を進めることができるからです。
まとめ
交通事故の後遺障害認定について、詳しく知ることが出来たよ!
時効が近づいている場合には、少しでも早く手続きを進める事が大切なんだね!
時効の中断を進める場合には、任意保険会社と自賠責保険会社の両方に手続きをしなければいけないという事を忘れないようにしよう。
今回は、交通事故の後遺障害等級認定の期限とかかる期間について、ご説明をしました。
後遺障害等級認定は、被害者にとって非常に重要です。
時効にかかると、必要な賠償金の支払いを受けることもできなくなるので、必ず期間内に、早めに請求しましょう。
請求権を失わず、適切に手続を進めるためには、交通事故トラブルに注力している弁護士に対応を依頼すると良いでしょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。