玉突き事故って、どの車の過失割合が高くなるの?
追突事故の過失割合は、基本的に後続車が100%となっているんだ。
だから玉突き事故の場合にも、最後尾の車の過失割合が一番高くなるんだよ。
じゃあ、真ん中や玉突き事故の先頭にいた場合には、治療費などの慰謝料の支払いはなくなるんだよね?
基本的には、最後尾の車が一番過失割合が高くなるんだけれど、事故の状況によっては、過失割合が変わってくるんだ。
今回の記事では、玉突き事故の過失割について、詳しく見ていこう。
交通事故が起こったとき、事故車両が3台以上の「玉突き事故」となるケースがあります。
玉突き事故では、誰がどのくらいの過失割合になるのでしょうか?
単純な2台間の交通事故とは異なり、加害者、被害者と簡単に割り振ることが出来ず、事故の状況によっても過失割合の考え方がかなり異なってくるので正しい知識を持っておきましょう。
今回は、玉突き事故の過失割合の考え方についてご説明します。
目次
玉突き事故とは
玉突き事故とは、同一方向に進行している3台以上の車が、次々に後ろから衝突してしまう交通事故です。
一番後ろを走行していた車が直前の車に衝突し、その車が前に押し出されてさらに前の車に衝突することにより、玉突き事故が起こります。
玉突き事故の当事者となる車両は3台とは限らず、4台、5台になるケースもあります。
玉突き事故が起こりやすいのは、信号待ちや渋滞中で、車が密集しているときです。
このようなとき、車はあまり車間距離をとっておらず、停車していることも多いので、後ろから強い勢いで衝突されたらすぐに前の車に衝突して、その前の車へとどんどん影響が波及してしまいます。
玉突き事故の基本的な過失割合
玉突き事故の場合って、過失割合はどうやって考えるの?
2台ずつ過失割合を割り振っていくの?
玉突き事故の場合には、100%の過失割合を事故に遭った車全部で分ける事になるんだよ。
玉突き事故の場合、それぞれの事故当事者の過失割合はどのくらいになるのでしょうか?
玉突き事故の過失割合の基本的な考え方
過失割合とは、交通事故で発生した損害に対する事故当事者それぞれの責任割合です。
割合の合計は100%であり、それぞれの当事者の責任の程度に応じてパーセンテージを割り振ります。
たとえば2車の交通事故の場合、双方に同じくらいの責任があれば、過失割合は50%:50%となります。
このように、一般の交通事故の場合には、事故当事者が2名なので、2者の合計が100%となるように算定しますが、玉突き事故の場合には、この前提が変わってきます。
事故当事者が複数の交通事故の場合には、全員の過失割合の合計が100%となるように数字を割り振ります。
たとえばA車とB車とC車の3台の玉突き事故の場合には、A車が70%、B車が20%、C車が10%などとします。
このときA車とB車のみの過失割合を算定し、B車とC車のみの過失割合を算定するわけではないので、注意が必要です。
たとえば「A車とB車との関係ではA車が70%、B車が30%」としながら、「B車とC車との関係ではB車が90%、C車が10%」などとはしないということです。
あくまで「3車の交通事故」という考え方です。
玉突き事故は、3車以上がかかわる1つの交通事故なので、過失割合についても100%を事故当事者全員で配分する、まずはこの基本的な考え方を押さえておきましょう。
玉突き事故の基本の過失割合
以上を前提に、玉突き事故の基本の過失割合をご紹介します。
玉突き事故は、1つ1つの事故状況を分析すると、後方車が前方車に後方から追突したという「追突事故」です。
そこで、基本的には追突事故の過失割合を使って計算します。
追突事故の場合、追突車が100%の過失割合となり、被追突車は0%となるのが基本です。
それでは玉突き事故の場合、誰がどれだけの過失割合となるのでしょうか?
このとき、一番後方の車の過失割合が高くなることは誰でも簡単にわかります。
問題なのは、真ん中の車です。
真ん中の車は後ろから追突されて被追突車の立場ですが、前方車との関係では追突車の立場です。
それでは、真ん中の車も前方車に対して過失割合が課されるのでしょうか?
ここで思い出してほしいのは、過失割合は全体で100%になることです。
「真ん中の車と最後方の車の過失割合」、「真ん中の車と前方の車の過失割合」、と個別に過失割合を考えるわけではなく、3台の車に過失割合を割り振ります。
そして、玉突き事故を起こしたのは、一番後ろの車です。
そこで過失割合は100%、最後方の車に割り振られまから、損害賠償請求も全て、最後方の車へ行います。
真ん中の車にも一番前の車にも過失割合はありません。
真ん中の車も、きちんと交通ルールを守って走行していたときに、後ろからいきなり追突された被害者なのですから、当然です。
玉突き事故が起こったとき、基本の過失割合は、以下の通りとなります。
一番後ろの車:真ん中の車:一番前の車=100%:0%:0%
つまり、一番後ろの車が全面的な責任を負わなければいけません。
最後方の車の運転手が任意保険に加入し、保険料を支払っている場合には、保険者が賠償金の支払いをする必要はなく、自賠責保険の補償金額からオーバーした金額を、任意保険会社が支払う事になります。
前方車両に過失割合が生じるケース
真ん中や一番前にいる車に過失割合があてられてしまうのは、どんな事故の時なの?
急ブレーキを踏んだ時や、スマホを使用していた時、お酒を飲んで運転していた時などがあるね。
詳しくチェックしてみよう。
それでは、追突された真ん中の車両や一番前の車両に責任が発生することはないのでしょうか?
以下のようなケースでは、これらの被追突車にも賠償責任が発生すると考えられています。
- 急ブレーキを踏んだとき
- 不確実な操作があったとき
急ブレーキを踏んだとき
真ん中の車や一番前の車が急ブレーキを踏んだ場合には、これらの被追突車にも過失割合が認められます。
道路交通法24条は「車両などの運転者は、危険を防止するためにやむを得ない場合をのぞいて急ブレーキを踏んではいけない」と定めています。
急ブレーキが事故を誘発する危険な行為だからです。
そこで、真ん中の車や一番前の車が急ブレーキを踏むと、これらの車両にも事故発生の責任があると考えられるので、過失割合が割り当てられるのです。
急ブレーキを踏んだときの前方車両の基本の過失割合は、30%ですから、追突車が70%、被追突車が30%になります。
不確実な操作があったとき
真ん中の車や一番前の車が、急ブレーキとまでは言えないまでも不確実な動作をすることがあります。
たとえばふらふら運転をしていたり、不必要にブレーキをかけたりした場合(急ブレーキに至っていない程度)です。
このような場合には、問題行為をしていた車両の過失割合が20%となると考えられているので、一番後ろの車の過失割合が80%、不確実な操作をした車両の過失割合が20%程度となります。
修正要素
追突事故の場合にも「修正要素」が適用されます。
修正要素とは、個々の事故の状況に応じてそれぞれの事故当事者の過失割合を加算したり減算したりするための事情です。
たとえば追突事故の場合、以下のような修正要素が適用されます。
- 追突車の過失割合が加算される要素
事故現場が住宅街や商店街などの場合には10%程度、過失割合が上がります。
時速15キロメートル以上の速度違反の場合には、追突車の過失割合が10%程度加算され、時速30キロメートル以上の速度違反の場合には、追突車の過失割合が20%程度加算されます。
追突車に著しい過失があれば、追突車の過失割合が10%程度加算されますし、追突車に重過失があれば追突車の過失割合が20%程度、加算されます。
- 追突車の過失割合が減算される要素
事故現場が幹線道路上であり、被追突車が停止した場合には被追突車の行為が危険なので、追突車の過失割合が10%程度下がります。
前方車両のブレーキランプが故障していた場合には、前方車両が危険を発生させたと言えるので、追突車の過失割合が10~20%程度、下がります。
真ん中の車両や一番前の車両に著しい過失があった場合には、追突車の過失割合が10%程度下がりますし、真ん中の車や一番前の車両に重過失があった場合には、追突車の過失割合が20%程度下がります。
著しい過失とは
著しい過失としては、酒気帯び運転や著しい前方不注視、スマホを見たり操作したりしながらの運転、ハンドル・ブレーキ操作不適切などがあります。
重過失とは
重過失の例としては、酩酊状態での酒酔い運転や無免許運転、居眠り運転などがあります。
一般道路上の玉突き事故の過失割合まとめ
玉突き事故は過失割合によって、賠償額が変わってくるんだね。
「玉突き事故は過失割合を追突した車全部で分ける!」
「基本的には最後尾の車に過失がある!」
玉突き事故の基本の考え方だよ。
以上のように、玉突き事故の場合、基本的には一番後ろの車両の過失割合が100%、真ん中と一番前の車両の過失割合は0%です。
ただし、真ん中の車や前方車両が急ブレーキをかけたり、その他の操作不適切があったりすると、20~30%程度過失割合が適用されます。
また、それ以外にも、著しい過失や重過失などがあると、それぞれの当事者に10~20%、過失割合が加算されます。
高速道路上の玉突き事故の場合
高速道路の場合でも、玉突き事故の過失割合は、一般道路と変わらないの?
高速道路での玉突き事故の場合には、急ブレーキを踏んだ時の他にも、停止表示なく車を停めていた場合には、一番前の車にも過失割合があてられることになるんだよ。
玉突き事故は、高速道路上で発生することも多いです。
高速道路では、車両がスピードを出して走っていますし、すべての車が同じ方向に向かっているので玉突き事故が起こりやすいのです。
高速道路上では道路交通のルールが一般道とは異なるので、過失割合についても異なる基準が適用されます。
以下で、高速道路上の玉突き事故の過失割合をみていきましょう。
高速道路上の玉突き事故の基本の過失割合
高速道路上で玉突き事故が起こったとき、適用されるのは2台間の追突事故の過失割合と同じです。
そこでまずは、高速道路上の2台間の追突事故の基本の過失割合をみてみましょう。
高速道路上であっても、後方車両は前方を注視して追突などを起こさないように運転すべきです。
そこで、後ろから一方的に衝突した後方車両には大きな責任が認められ、後方車両の過失割合が100%となります。
前方車両には過失割合が認められません。
一般道上の玉突き事故と同様、一番後ろの車両が真ん中と一番前の車両に対し、全額の賠償をしなければならないということです。
高速道路上で前方車両が急ブレーキを踏んだとき
高速道路上で、真ん中の車両や一番前の車両が急ブレーキを踏んだ場合、それぞれの過失割合はどうなるのでしょうか?
この場合、前方車両は大きな危険を発生させると考えられます。
高速道路では走行車両がスピードを出しているので、一般道よりも急ブレーキの危険性が大きく、大きな過失割合が割り当てられます。
高速道路上の場合、急ブレーキを踏むと前方車両の過失割合は50%となります。
つまり、追突車にも被追突車にも同じだけの責任が発生するということです。
このことは玉突き事故のケースでも同様で、真ん中の車両や一番前の車両が急ブレーキを踏むと、これらの車両の過失割合が50%程度となります。
たとえば一番前の車両が急ブレーキを踏んだ場合、その車両の過失割合が50%となり、一番後ろの車両の過失割合が50%となるということです。
一番後ろの車:真ん中の車:一番前の車=50%:0%:50%
高速道路上で停車していたとき
次に、真ん中の車両や最前方の車両が高速道路上で停車していたときの過失割合をみてみましょう。
高速道路上では、基本的に車両が時速80キロメートル以上の高速で走行している状況であり、停車車両があることは想定されていません。
高速道路上で停車することは危険なので、道路交通法によって原則的に禁止されます。
たとえばエンストを起こしたり、自損事故を起こしたりして特に理由もなく車を停止させた場合には、道路交通法75条の8違反となります。
そこで、前方車両の停車中に追突事故が発生した場合には、被追突車にも過失割合が認められます。
具体的には、後方車両:前方車両の過失割合が、60%:40%です。
玉突き事故の場合にも、最前方の車が過失によって停車していたときには、最前方の車に40%程度の過失割合が認められます。
一番後ろの車:真ん中の車:一番前の車=60%:0%:40%
高速道路上で過失無く停車していたとき
高速道路上では基本的に駐停車が禁止されますが、場合によっては許されるケースもあります。
それは、自分の過失ではない原因でやむなく停車したけれども、状況的に退避することもできずに道路上に残っていた場合で、なおかつきちんと停止表示の機材などを置いていたケースです。
「自分の過失ではない原因で停車した場合」というのは、他人の交通事故に巻き込まれた場合などを想定しています。
このような場合、停車車両は注意義務を尽くしているので、まったく落ち度がみられず、道路交通法違反になりません。
そこで、このようなケースで後ろから来た車両に追突されて交通事故が起こったときには、たとえ高速道路上で被追突車が停車していたとしても、被追突車には過失割合が認められません。
後ろから来た車は、停止表示などに注意して追突しないように配慮すべきだからです。
追突車の過失割合が100%、被追突車の過失割合が0%となります。
玉突き事故のケースでも同様で、被追突車が注意義務を尽くしていた場合には、真ん中の車や最前方の車両には過失が認められず、過失割合が0%となります。
この場合、
一番後ろの車:真ん中の車:一番前の車=100%:0%:0%
となります。
高速道路上で退避懈怠や機材表示懈怠があった場合
高速道路上で前方車両が停車していた場合、自分の過失ではない原因で停車したわけではなくても、過失が認められるケースがあります。
それは、退避できるのに安全な場所に退避しなかったり、停止表示をしなかったりした場合です。
このような場合にも、停車していた車両に一定の過失割合が認められます。
割り当てられる過失割合は、基本的に20%です。
そこで、たとえばある車両が他人の交通事故に巻き込まれてやむなく停車したけれども、適切に退避せず停止表示もしないで道路上にとどまっていたために玉突き事故が起こってしまったときには、その車の過失割合が20%となります。
最前方の車両がこのような対応をした場合、真ん中の車に特に過失が認められないのであれば、追突した一番後ろの車両に80%の過失割合があてはめられて、3車の過失割合は、以下の通りとなります。
一番後ろの車:真ん中の車:一番前の車=80%:0%:20%
真ん中の車が急ブレーキを踏んだ場合などには、真ん中の車にも過失割合が割り当てられる可能性があります。
玉突き事故の過失割合でトラブルを避けるには
過失割合に納得できない場合には、どうしたら良いの?
交通事故トラブルに注力している弁護士に相談するのがお勧めだよ。
玉突き事故に遭った場合、当事者の法律関係も複雑になりますし、誰がどのくらいの過失割合を負うのかについて、事故当事者の意見が合わずに大きなトラブルになるケースが多いです。
たとえば真ん中の車にしてみたら、前の車が停止したから急ブレーキを踏んで追突を避けたのに、後ろから追突されて結局玉突き事故となり、「あなたが急ブレーキを踏んだから事故になった」などと言われて過失割合を割り当てられるケースもあるのです。
そのようなとき「悪いのは前の車だ」と言いたくなるでしょう。
過失割合に納得できないときには、交通事故の専門家である弁護士に相談する方法がもっとも効果的です。
弁護士は、事故ごとの適正な過失割合を算定することができるので、「このケースでは〇〇%程度の過失割合が妥当でしょう」とアドバイスをしてくれます。
また、他の当事者の自動車保険会社や事故相手との示談交渉が難航する事もあるでしょう。
そのような場合には、弁護士に任意保険会社との示談交渉の代行を任せることが可能です。
弁護士に示談交渉を依頼すると、過失割合が適正になるだけではなく、「弁護士基準」を適用することによって保険金額も増額されるので、被害者にとって大きなメリットがあります。
保険屋は、自賠責基準や、任意保険基準での支払いとし、支払う保険金を少しでも少なくしようとしてくるのですが、弁護士に依頼すれば、限度額いっぱいまで賠償金を引き上げることができます。
玉突き事故に遭って対応に困ったら、弁護士に相談してみることをお勧めします。
まとめ
玉突き事故の過失割合について、しっかりと理解できたよ!
状況によっては、全て最後尾の車が悪くなってしまうわけではないんだね。
2台だけの追突事故と違って、台数が多い玉突き事故の場合には、主張がバラバラになることが多いんだ。
意見が食い違ってしまうと、示談が長引いてしまう事になるから、出来るだけ早く弁護士に相談するのがお勧めだよ。
玉突き事故に遭ったとき、法律関係が複雑になりすぎて自分ではどう考えたら良いのかわからなくなることが多いです。
納得できない場合や疑問がある場合などには、まずは交通事故トラブルに注力している弁護士を探して、相談の予約を入れてみると良いでしょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。