今回の記事では、追い越しによる交通事故の過失割合について、詳しく見ていこう!
追い越し時には、通常時以上に車同士の接触事故が発生しやすいので注意が必要です。
事故が起こったら、追い越した側にも追い越された側にも「過失割合」が認められケースが多数です。
追い越しによる事故の場合、お互いの過失割合はどのくらいになるのでしょうか?
今回は追い越し事故の基本の過失割合や修正要素について、解説します。
目次
過去の事例から読み解く追い越し事故の過失割合
交通事故の過失割合とは、交通事故の当事者それぞれの事故発生に対する責任割合です。
過失割合が高くなると、その分相手に請求できる賠償金の金額を割合的に減額されます。
過失割合については、これまでの判例を基準にして交通事故態様ごとの「基本的な割合」の数値が定められています。
以下で追い越し事故の基本的な過失割合をみていきましょう。
追い越された車にも過失割合が認められる
一般的な追突事故では、追突された車には過失割合が認められないのが通常です。
追突事故の原因は、後ろの車が充分な車間距離を取っていなかったことにあり、道路交通法を守って走行していた前方車両には何らの責任が認められないからです。
しかし追い越し事故の場合にはこれとは事情が異なります。
後ろから追い越されそうになった場合、前の車にも後ろの車両との接触を避けるべく注意義務が課されます。
たとえば追い越ししやすくするように減速したり横によって接触を避けたりすべきです。
そこで追い越し時に事故が発生すると、追い越された車にも基本的に過失割合が認められます。
追い越し禁止場所でないケース
追い越し禁止である場所で追い越して事故になってしまった場合には、追い越しをした車の過失割合が高くなるんだよ。
追い越し時の事故の過失割合は、事故現場が「追い越し禁止場所」か「追い越し禁止場所以外の通常の場所」かで異なります。
追い越し禁止場所でない場合、追い越し車の責任が比較的軽くなります。
基本の過失割合は、追い越した車が80%、追い越された車が20%です。
追い越し禁止場所のケース
事故現場が追い越し禁止場所の場合、追い越した車両の過失割合が高くなります。
そもそも追い越し禁止場所で追い越しをすること自体が道路交通法違反ですし、前方車両にしてみたら「まさかこんなところで追い越されることはないだろう」と考えるのが通常だからです。
ただし前方車両が走行中だった場合、追い越された車にも追い越される際に横によけて接触を避けるなどの注意義務が課せられます。
追突事故と違って過失割合が完全に0になるわけではなく、追い越された方にも一定の過失割合が認められます。
追い越し禁止場所で追い越しが行われて事故が発生したケースでの基本の過失割合は、追い越した車が90%、追い越された車が10%です。
停車中の車を追い越す際の事故
その他にも、二台の車を一気に追い越す二重追い越しの場合にも、追い越しをした車が100%の過失になるんだ。
では前方車両が停車していたときに後方車両が追い越そうとして接触したらどうなるのでしょうか?
この場合、停車場所にもよりますが、前方車両が停車を許されている位置で停車していた場合には後方車両の過失割合が100%となります。
前方車両には事故を避ける手段がなく何らの注意義務も課することができないためです。
ただし、以下のようなケースでは前方車両にも過失割合が認められます。
- 駐停車禁止場所で停車していた
- 非常灯を点滅させていなかった
- 駐停車の方法が極めて不適切だった
上記のような場合、追い越された車両に10~20%程度の過失割合が発生します。
二重追い越し
二重追い越しという言葉をご存知でしょうか?
これは、前方車両がその前の車両を追い越そうとしているときに、後方車両がさらに前方へ出て2車分の追い越しをしようとする行為です。
二重追い越しの場合、前方車両はそもそも加速して追い越しをしようとしているので、減速して後方車両に道を譲ることはできませんし、道路脇によって追い越ししやすくすることも不可能です。
また二重追い越しは言うまでもなく非常に危険な行為ですから、後方車両には重い責任が認められます。
二重追い越しの場合、追い越しをしようとした後方車両の過失割合が100%となります。
追い越されようとした車両が減速したり道路脇に寄ったりしなくても、過失割合は認められません。
追い越し事故の過失割合の「修正要素」
加速をして追い越しを妨げたり、追い越し禁止の場所で追い越しをしたり、スピード違反であったりすると、過失割合が変わってくるよ。
修正要素とは
交通事故の過失割合には「修正要素」があります。
修正要素とは、事故の個別的な事情に応じて基本の過失割合を修正するものです。
たとえばどちらかのドライバーに著しいスピード違反、飲酒運転などがあればそのドライバーの過失割合が上がります。
過失割合を正確に算定するには、基本の過失割合だけではなく修正要素についても理解し、的確に適用しなければなりません。
以下で追い越し事故の過失割合の修正要素としてどのようなものがあるのか、みていきましょう。
避譲義務違反
自動車同士の追い越しが起こったとき、追い越される車両には道路交通法上一定の義務が課されます。
まず、追い越しが終了するまでスピードを上げてはなりません。
追い越し中に前方車両が加速すると事故の危険が高まるからです(道路交通法27条1項)。
また追い越し場所において、2台の車が並んで安全に追い越しをするだけの充分な余裕がない場合には、前方車両は道路脇に寄るなどして後方車両が追い越しやすいよう場所を譲らねばなりません。
これを「避譲義務」と言います(道路交通法27条2項)。
ところが道路幅が狭いにもかかわらず前方車両が道路脇に寄らず避譲義務を果たさなかった場合には、前方車両の過失割合が10%程度、加算されます。
追い越し禁止場所でない場所なら、追い越された車両と追い越した車両の過失割合が30%:70%、追い越し禁止場所なら追い越された車両と追い越した車両の過失割合が20%:80%程度となります。
追い越されたときに加速した場合
追い越し時、追い越される車両はスピードを上げてはなりません。
それにもかかわらず加速して追い越しを妨害した場合には、追い越された車両の過失割合が20%程度加算されます。
事故現場が追い越し禁止場所でなかった場合、追い越された車両と追い越した車両の過失割合は40%:60%となり、追い越し禁止場所だったケースでも追い越された車両と追い越した車両の過失割合が30%:70%となります。
追い越し危険場所
事故現場が追い越し禁止場所の場合には、当然追い越し車の過失割合が上がります。
ただ追い越しが禁止されていなくても「追い越しをすると危険な場所」が存在します。
それを「追い越し危険場所」と言います。
たとえば以下のような道路が追い越し危険場所に該当します。
- 凹凸の多い道路
- 歩行者の多い道路
- 雨などの影響でスリップしやすい道路
- 対向車が頻繁に来る道路
追い越し危険場所で追い越しが行われて事故が発生した場合、追い越した車両の過失割合が5%加算されます(追い越された車両の過失割合が5%減算)。
事故現場が追い越し禁止場所でなくても追い越された車両と追い越した車両の過失割合が25%:75%となります。
スピード違反のケース
道路交通法では、各車両は制限速度を守って走行しなければならないとされています。
制限速度を超えて走行するのは危険なので、大幅に速度超過していると過失割合も加算されます。
時速15キロメートル~30キロメートルまでの超過であれば10%過失割合が加算され、時速30キロメートルを超える速度超過があれば20%程度、過失割合が加算されます。
著しい過失
スピード違反以外の要素によってもお互いの過失割合が加算される可能性があります。
たとえば以下のような場合、「著しい過失」があるとされて過失割合が10%程度上がります。
- 脇見運転などの著しい前方不注視
- 著しいハンドルブレーキ操作不適切
- 酒気帯び運転(道路交通法の定める一定量以上の飲酒をした状態で運転すること)
- 携帯やスマホ、カーナビを見ながらの運転
重過失
以下のような場合、故意にも匹敵するほど重大な過失があるとみなされるため、過失割合が20%程度加算されます。
- 無免許運転
- 酒酔い運転(酒に酔って酩酊状態となって運転すること)
- 居眠り運転
- 過労や薬物の影響で正常に運転できない状態で無理に運転をしていた
以上のように、ひと言で「追い越し際の事故」とはいってもさまざまなパターンや修正要素があるので、適切な過失割合をあてはめるには、法律の正確な知識が必要です。
追い越し事故による行政処分
行政処分になってしまう交通事故の一例をチェックしてみよう。
追い越し事故が起こった場合、どのくらいの行政処分が課されるのでしょうか?
以下のような場合、「追い越し違反」として2点が加算されます。
- 前方車両が追い越しをしているときに、まとめて追い越そうとする二重追い越し
- 前方車両が右折しようとしているときに追い越し
- 前方車両が右に進路変更しようとしているときに追い越し
- 追い越しによって対向車の進行を妨げた
- 右側で追い越して左側の車線に戻るとき、直前に割り込むなどして追い越した車両の走行を妨害した
- 追い越し禁止場所で追い越し
また人身事故を起こして相手にけがをさせたり死亡させたりすると、その結果に応じて点数が加算されます。
最低でも2点(相手が軽傷の場合)、最大で20点(加害者の過失割合が100%で相手が死亡した場合)加算されるので、一回の事故で免許取消になる可能性もあります。
追い越し事故による過失割合に納得いかない場合には
自分で過去の判例を調べたり、弁護士に相談したりして、対抗しよう。
追い越し事故に巻き込まれて相手の保険会社と示談交渉を進めていくと、保険会社側から「この事故の過失割合はこのくらいです」などと条件提示されます。
そのとき、「自分の過失割合がこんなに高いはずがない」と感じ納得できない方も多数おられます。
追い越し事故の過失割合に不満がある場合には、以下のように対処しましょう。
過去の判例、過失割合の基準を調べる
まずは法律の基本的な考え方を理解しましょう。
交通事故にはそれぞれ「基準となる過失割合」が決められているので、あなたが巻き込まれたのと同じような事故では通常どのくらいの過失割合になっているのか調べて知るべきです。
この記事で紹介している数値を参考にして頂いてもかまいませんし「判例タイムズ」という書籍を購入して調べて頂くことも可能です。
判例タイムズとは、これまでの判例の蓄積による過失割合の基準をまとめている法律の専門書です。
ネット通販などで購入可能です。
弁護士に相談する
自分で調べてもよくわからない場合や自信がない場合、自分で調べるのが面倒、あるいはより確実な数字を知りたい方は、弁護士に相談しましょう。
交通事故に詳しい弁護士であれば、あなたから具体的な事情を聞いて「そのケースであれば過失割合は〇:〇が妥当」とアドバイスをしてくれます。
適正な数字と保険会社が提示する数字がかけ離れている場合には、弁護士に示談交渉を依頼して相手に過失割合の修正を求めてもらうことも可能です。
弁護士が対応することによって保険会社の対応が変わり、あなたの側の過失割合を下げてもらえるケースも珍しくありません。
また相手の主張内容が不当であるにもかかわらず相手が譲ろうとしないときには、訴訟を起こして過失割合を変更させることも可能です。
お一人でできることは限られているので、できるだけ早い段階で一度弁護士に相談してみてください。
まとめ
交通事故では双方の過失割合によって最終的な賠償金受取金額が大きく変わります。
納得できないなら、そのまま示談に応じるべきではありません。
お悩みごとがあれば、お早めに交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。