今回の記事では、ひき逃げによる慰謝料や賠償金の相場や、相手が特定できない場合に利用できる保険や保障制度などを見ていこう。
ひき逃げ事故に遭ってしまったら、加害者を特定する必要があります。
自分の加入している自動車保険に保険金を請求したり「政府保障事業」を利用したりできる可能性もあるので、状況に応じて対応を進めていきましょう。
今回はひき逃げ事故で加害者を特定する方法や請求できる賠償金の種類と相場、自分の自動車保険会社から受け取れる保険金などの知識をご紹介していきます。
目次
ひき逃げ事故に遭ってしまった時に加害者を特定するには
その他にも、目撃者がいれば、証言してもらえるように、連絡先を聞いておくことも大切だね。
ひき逃げに遭ったら、相手を特定する必要があります。
相手がわからないままでは賠償金の請求もできないからです。
そのためには事故当初から以下のような対応をしておきましょう。
車種やナンバーを記録する
まずは相手の車の特徴をできるだけ正確に記録しましょう。
たとえば車種や車の色、ナンバーを確認しておくと特定が容易になります。
スマホなどで写真撮影しましょう。
ナンバーについては写真撮影するだけではぼんやりして読み取れなくなる可能性があるので、同時にメモを取るようお勧めします。
目撃者を確保する
近くに人がいて事故を目撃していたら、目撃証言をしてもらえる可能性があります。
すぐに話しかけて「後に何かあったときに証言してほしい」とお願いし、連絡先を聞いておきましょう。
現場の状況を保存
相手が走り去った後の現場の状況も保存しておくようお勧めします。
周囲を写真撮影したり当時の様子をメモしたりすると良いでしょう。
警察へ通報する
ひき逃げ犯人を逮捕するのは警察の仕事です。
また警察に通報しないと「事故証明書」が発行されないので保険金の請求が困難になる可能性もあります。
ひき逃げされたら必ず警察に通報し、事故の状況を伝えましょう。
ひき逃げ犯の車両ナンバーや車種、どちらの方向へ走り去ったかなどの情報も可能な限り詳細に伝え、逮捕につながるよう協力してください。
ひき逃げされたときに受け取れる賠償金とは
慰謝料は計算方法によって大幅に金額が変わってくるんだ。
慰謝料を計算する時の基準の違いや、相場について、詳しく説明するね。
捜査によりひき逃げの犯人が特定されたら、相手や相手の加入する保険会社へ賠償金の請求が可能です。
以下でどのような請求が認められるのか、説明します。
治療関係費
- 治療費
入通院にかかった治療費を請求できます。
入院代、診察費、手術費、投薬料、検査費用など、必要かつ相当な費用を支払ってもらえます。 - 付添看護費用
入院中に親族に看護してもらったら1日あたり6,500円程度の付添看護費用を請求できます。 - 入院雑費
入院中は雑費として1日あたり1,500円を請求できます。 - 通院交通費
通院のために公共交通機関に乗車したらその実費、自家用車で通院した場合には1キロメートルあたり15円のガソリン代と駐車場代、高速代、さらに必要に応じてタクシー代も請求できます。
入院中に家族が病院に通うための交通費も請求可能です。
器具や装具の費用
松葉杖や車いす、コンタクトレンズ、義手や義眼などの器具や装具が必要となった場合、そういった費用も請求できます。
介護費用
ひき逃げで重傷を負い介護が必要となった場合、介護にかかった費用を請求できます。
後遺障害が残り将来にわたって介護が必要になれば、将来分の介護費用も請求可能です。
休業損害
事故前に仕事をしていた人がひき逃げでけがをすると、仕事を休まざる得なくなるでしょう。
その場合、休業日数に応じて休業損害を請求できます。
主婦や主夫などの家事労働者の方は現実の収入がありませんが、家事労働できなくなると経済的な損失があるので、休業損害が認められます。
ひき逃げで受け取れる慰謝料の種類と相場
ひき逃げの加害者に対しては「慰謝料」も請求可能です。
慰謝料には以下の3種類があります。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
また慰謝料の計算基準にも3種類があり、適用する基準によって金額が異なってくるのでそれぞれの相場の金額とともにみていきましょう。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、交通事故でけがをしたことに対する慰謝料です。
入通院期間に応じて支払われるので「入通院慰謝料」といわれます。
3種類の基準によって計算される金額はそれぞれ以下の通りです。
【自賠責基準】
自賠責保険が保険金を算定するときに利用する基準です。
1日あたり4,200円を基準として治療期間(日数)分が支払われます。
治療期間については「治療期間に対応する日数」と「実治療日数×2」のいずれか低い方が適用されます。
【 計算例】
通院3か月(90日)で通院日数が60日なら「4,200円×90日=378,000円」
通院3か月(90日)で通院日数が40日なら「4,200円×40日×2=336,000円」
【任意保険基準】
任意保険基準は任意保険会社が独自に作っている基準で、各任意保険会社で異なります。
金額的には自賠責基準より多少高い程度で、弁護士基準より大幅に低くなります。
【弁護士基準】
弁護士基準は弁護士や裁判所が採用する法的な基準です。
金額的には他の2つの基準より大幅に上がります。
また弁護士基準の場合、通院よりも入院の方が高額になります。
さらに打ち身や捻挫、軽微なむち打ちなどの場合、通常の場合と比べて3分の2程度にまで慰謝料が減額されます。
【計算例】
通院3か月の場合、通常程度のけがなら73万円が相場ですが軽傷なら53万円となります。
入院1か月通院2か月の場合、通常程度のけがなら98万円が相場ですが軽傷なら69万円程度となります。
弁護士基準をあてはめると、他の基準の1.5~1.8倍程度になるケースが多数です。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、交通事故で後遺障害が残ったときに支払われる特別な慰謝料です。
ひき逃げで重傷を負い、治療を受けても完治せずに後遺症が残ってしまったら、後遺障害慰謝料を受け取れます。
ただしそのためには、基本的に相手の自賠責保険または政府保障事業で「後遺障害等級認定」を受けなければなりません。
後遺障害には1~14までの等級があり、認定された等級が高いほど慰謝料額は高額になります。
後遺障害慰謝料についても計算基準によって支払われる金額が異なるので、表で示します。
等級 |
弁護士基準の相場 |
自賠責基準 |
1級 |
2800万円 |
1100万円(要介護1600万円) |
2級 |
2370万円 |
958万円(要介護1163万円) |
3級 |
1990万円 |
829万円 |
4級 |
1670万円 |
712万円 |
5級 |
1400万円 |
599万円 |
6級 |
1180万円 |
498万円 |
7級 |
1000万円 |
409万円 |
8級 |
830万円 |
324万円 |
9級 |
690万円 |
245万円 |
10級 |
550万円 |
187万円 |
11級 |
420万円 |
135万円 |
12級 |
290万円 |
93万円 |
13級 |
180万円 |
57万円 |
14級 |
110万円 |
32万円 |
任意保険基準は任意保険会社によって異なりますが、自賠責保険基準より多少高い程度となるケースが多数です。
弁護士基準と比べると大幅に下がります。
死亡慰謝料
死亡慰謝料は、ひき逃げで被害者が死亡してしまったケースで支払われる慰謝料です。
被害者の立場によって金額が変わり、被害者によって扶養されていた人がいると高額になります。
【自賠責基準の場合】
- 被害者本人の慰謝料…350万円
- 遺族の慰謝料(下記表参照)
|
被扶養者なし |
被扶養者あり |
遺族が1人 |
550万円 |
750万円 |
遺族が2人 |
650万円 |
850万円 |
遺族が3人以上 |
750万円 |
950万円 |
遺族として認められるのは配偶者や親、子どもです。
養子や養親、認知した子ども、胎児、内縁の配偶者も含まれます。
【弁護士基準の場合】
- 被害者が一家の大黒柱だった場合…2,800万円程度
- 被害者が母親や配偶者だった場合…2,500万円程度
- その他のケース…2,000~2,500万円程度
任意保険基準は任意保険会社によって異なるので一概にはいえませんが、弁護士基準と比べると大幅に下がります。
慰謝料は増額される可能性が高い
ひき逃げに遭うと、通常の交通事故よりも被害者の受ける精神的苦痛が大きくなると考えられるので、上記で紹介した相場より慰謝料が増額される可能性があります。
たとえば一家の大黒柱が死亡した場合の死亡慰謝料の相場は2,800万円程度ですが、ひき逃げされたなら3,000万円以上になる可能性があります。
後遺障害慰謝料も等級に応じて10~20%程度、引き上げられるケースが多数です。
ひき逃げで強い精神的苦痛を受けたなら、慰謝料の増額を主張して適正な金額の賠償金を支払ってもらいましょう。
物損の補償について
被害者側も車に乗っていて相手から衝突され車が傷ついたら、車の修理費用も請求可能です。
バイクや自転車に乗っていた場合にはそれらの乗り物の修理費用を請求できますし、洋服が破れたりスマホが壊れたりしたら弁償金も支払ってもらえます。
車やバイクの修理費用は基本的に「修理にかかる実費」となりますが、全損して修理が不可能な場合や修理代が車の時価を超える場合には「時価」を限度とされます。
車やバイクがないため代車を利用する場合、レンタカー代を基準に代車費用も請求できます。
犯人を特定できない場合に利用できる保険や政府の保障
その他にも、政府保障事業制度を利用できる可能性もあるよ。
ひき逃げの場合、なかなか相手が見つからない可能性もあります。
相手を特定できなくても自分の保険や政府の補償事業を利用できるので、泣き寝入りする必要はありません。
人身傷害保障保険や無保険車傷害補償特約を利用する
交通事故に遭ったら、自分の加入している保険会社から支払を受けられる可能性があります。
- 人身傷害保障保険
被保険者や契約自動車に乗っていた人が人身事故に遭った場合に適用される保険です。
治療費や休業損害、慰謝料などの実際に発生した損害について、限度額まで保障されます。
車に乗っていた場合だけではなく、自転車乗車中や歩行中にひき逃げに遭った場合にも適用されるケースが多数です。 - 搭乗者傷害保険
人身傷害保障保険と同様、被保険者や契約自動車に乗っていた人が人身事故に遭った場合に適用されます。
ただし計算方法が異なり、「入院1日〇〇円」などの定額になります。
保険金計算が早くできて支払もスピーディに受けられますが、人身傷害保障保険より金額が小さくなる傾向があります。 - 無保険車傷害保険
相手が任意保険に入っていない場合やひき逃げ事案など、相手の対人賠償責任保険を利用できないケースで適用される保険です。
ただし支払が行われるのは後遺障害が残った場合や死亡したケースのみであり、けがが完治した場合には対象外となります。
また人身傷害保障保険が適用される場合、こちらの保険は適用されないのが通常です(重複する保障は受けられないため)。
政府保障事業制度
ひき逃げで相手が不明な場合、自賠責保険会社が不明なので被害者は自賠責保険からの最低限の補償も受けられません。
そこで被害者救済のために政府が保障を行っています。
それが「政府保障事業」です。
政府保障事業を利用すると、自賠責保険と同額の「てん補金」を受け取れます。
相手の自賠責保険が不明な状態でも後遺障害認定を受けられて、後遺障害慰謝料や逸失利益の支払も受けられます(ただし自賠責基準です)。
各損害保険会社が政府保障事業の窓口となっているので、利用したい場合にはお近くの損害保険会社や加入している任意保険会社に相談してみましょう。
まとめ
もし相手が特定出来たら、賠償金アップのためにも、弁護士に相談するのがお勧めだよ。
ひき逃げ被害に遭ったら、まずは相手のナンバーや車種等の特徴を把握して警察に伝えましょう。
相手が特定されなくても自分の保険を利用できるケースが多いので、保険会社に連絡して保険金請求手続を進めてください。
相手が特定されたら加害者本人や保険会社に賠償金を求めると良いでしょう。
1人で対応するのが難しい場合、弁護士に相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。