後遺障害10級って慰謝料はどのくらいもらえるの?
今回の記事では、後遺障害10級と認定された場合に受け取れる慰謝料について、チェックしていこう。
交通事故で後遺障害10級が認定されるのは、どういった症状が残ったケースなのでしょうか?
10級でどのくらいの慰謝料を支払ってもらえるのか、相場も押さえておきましょう。
今回は交通事故で「後遺障害10級」となる11種類の症状と支払われる慰謝料や賠償金について、解説します。
事故後に辛い症状が残って賠償金請求を進めようとしている方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
後遺障害10級の症状とは
その他の10級の症状について見てみよう。
交通事故の後遺障害は1~14級まであり、数字の小さい方から大きい方へ症状が重くなっていきます。
後遺障害10級は、軽い方から数えて5番目の等級であり、後遺障害全体の中では中くらいより少し軽い方という位置づけです。
後遺障害10級の症状は11種類
後遺障害10級と認定されるのは、以下の11種類の症状のいずれかが残った場合です。
1号 | 片目の視力が0.1以下になった |
2号 | 正面を見たときに複視の症状が残った |
3号 | 咀嚼または言語の機能に障害が残った |
4号 | 14本以上の歯に歯科補綴(歯科治療)を行った |
5号 | 両耳の聴力について、1メートル以上の距離では普通の話し声を理解できない程度になった |
6号 | 片耳の聴力について、耳に接しないと大声を聞き取ることができない程度になった |
7号 | 片手のおや指またはおや指以外の2本の手指の用を廃した |
8号 | 片脚が3センチメートル以上短縮した |
9号 | 片足の第一の足指または他の4つの足指を失った |
10号 | 片腕の3大関節中の1つの機能に著しい障害が残った |
11号 | 片脚の3大関節中の1つの機能に著しい障害が残った |
後遺障害10級で支払われる2種類の慰謝料
交通事故で後遺障害10級が認定されると、慰謝料が支払われます。
慰謝料とは被害者が受けた「精神的苦痛」に対する賠償金です。
後遺障害が残ると被害者は大きな精神的苦痛を受けるので、後遺障害の残らないケースよりも多額の慰謝料を受け取れます。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、交通事故でけがをした場合に支払われる慰謝料です。
交通事故でけがをすると、被害者は大きな恐怖や痛みを感じます。
入通院治療を強いられて時間も無駄になりますし将来に不安も感じるでしょう。
「けがをしたことについての精神的苦痛」に対する慰謝料が入通院慰謝料です。
入通院慰謝料は人身事故の被害者に支払われるので、後遺障害が残らないケースでも発生します。
計算方法としては「入通院期間が長いほど高額」になります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、交通事故後に自賠責保険で「後遺障害等級認定」されたときに支払われる慰謝料です。
後遺障害が残ると、被害者は不便な生活を強いられたり仕事を続けられなくなったりして大きな精神的苦痛を受けるものです。
そこで後遺障害が残らないケースには支払われない高額な後遺障害慰謝料を受け取れます。
後遺障害慰謝料の金額は、認定された等級によって大きく異なります。
当然ですが、認定等級が高くなると症状が重くなるので金額が上がります。
後遺障害10級の慰謝料はいくらが相場になる?
慰謝料の計算基準3種類について、詳しく説明するね。
後遺障害10級が認定されたとき、どのくらいの慰謝料が支払われるのか、相場をみてみましょう。
入通院慰謝料の計算方法
入通院慰謝料は「入通院治療を受けた期間が長くなると高額」になります。
ただし交通事故の慰謝料計算基準には3種類があり、どれを採用するかで計算結果が大きく変わります。
以下で基準ごとの計算方法を説明します。
自賠責基準
自賠責基準は、自賠責保険や共済が保険金を計算する際の基準です。
自賠責は被害者に「最低限度の救済」をもたらすための保険なので、自賠責基準は他の基準より低めになっています。
計算方法は以下のとおりです。
「入通院慰謝料=治療日数×4,200円」
治療期間は以下の2つのうち「少ない方の数字」を採用します。
- 治療期間に対応する日数
たとえば2か月間通院したなら60日として計算します。 - 実治療日数×2
たとえば2か月に20日しか通院しなかった場合「20日×2=40日」として治療日数を計算します。
自賠責基準の場合、通院日数が少ないと「実通院日数×2」が採用されて入通院慰謝料を大きく減額される可能性があります。
任意保険基準
任意保険基準は各任意保険会社が独自に定めている基準です。
任意保険会社が被害者と次段交渉をして保険金を支払うときに利用します。
各保険会社によって詳細が異なるので、一律の計算はできません。
金額的には自賠責基準より多少高額になる、という程度です。
ただし入院すると通院期間より高額な慰謝料が認められるので、自賠責基準を大きく上回る可能性があります(自賠責基準では入院期間と通院期間を区別しません)。
弁護士基準
弁護士基準は、弁護士や裁判所が利用する法的な基準です。
弁護士が示談交渉を代行する場合や裁判所で損害賠償金を計算するときに利用され「裁判基準」ともいわれます。
弁護士基準は3つの基準の中でもっとも高額です。
また「通常のけが」と「軽傷、自覚症状しかないむち打ち」の2パターンに分かれていて「軽傷、自覚症状しかないむち打ち」の場合には入通院慰謝料が3分の2程度まで減額されます(それでも自賠責基準や任意保険基準よりは高額です)。
後遺障害10級が認定される場合、通常のけがの基準が適用されると考えて良いでしょう。
【通常のけがの場合の入通院慰謝料】
入院 |
|
1ヶ月 |
2ヶ月 |
3ヶ月 |
4ヶ月 |
5ヶ月 |
6ヶ月 |
7ヶ月 |
8ヶ月 |
9ヶ月 |
10ヶ月 |
|
通院 |
53 |
101 |
145 |
184 |
217 |
244 |
266 |
284 |
297 |
306 |
||
1ヶ月 |
28 |
77 |
122 |
162 |
199 |
228 |
252 |
274 |
291 |
303 |
311 |
|
2ヶ月 |
52 |
98 |
139 |
177 |
210 |
236 |
260 |
281 |
297 |
308 |
315 |
|
3ヶ月 |
73 |
115 |
154 |
188 |
218 |
244 |
267 |
287 |
302 |
312 |
319 |
|
4ヶ月 |
90 |
130 |
165 |
196 |
226 |
251 |
273 |
292 |
306 |
326 |
323 |
|
5ヶ月 |
105 |
141 |
173 |
204 |
233 |
257 |
278 |
296 |
310 |
320 |
325 |
|
6ヶ月 |
116 |
149 |
181 |
211 |
239 |
262 |
282 |
300 |
314 |
322 |
327 |
|
7ヶ月 |
124 |
157 |
188 |
217 |
244 |
266 |
286 |
301 |
316 |
324 |
329 |
|
8ヶ月 |
132 |
164 |
194 |
222 |
248 |
270 |
290 |
306 |
318 |
326 |
331 |
|
9ヶ月 |
139 |
170 |
199 |
226 |
252 |
274 |
292 |
308 |
320 |
328 |
333 |
|
10ヶ月 |
145 |
175 |
203 |
230 |
256 |
276 |
294 |
310 |
322 |
330 |
335 |
入院期間は通院期間より慰謝料の金額が上がります。
ただし実通院日数があまりに少ないと、通院期間を「実通院日数×3.5」とされるケースがあります。
弁護士基準で入通院慰謝料を計算するときにも通院日数があまりに少ないと不利になるので、治療中は面倒でもきちんと時間をとって通院を継続しましょう。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料の金額も、自賠責基準と任意保険基準、弁護士基準で大きく異なります。
計算基準 |
10級の後遺障害慰謝料の金額 |
自賠責基準 |
187万円 |
任意保険基準 |
200万円程度 |
弁護士基準 |
550万円 |
後遺障害10級の場合、弁護士基準を適用すると、他の基準と比べて2.5倍以上になります。
以上のように、同じ後遺障害10級でも弁護士基準と他の基準とで慰謝料の金額に大きな差額が発生します。
交通事故で示談するときには「弁護士基準」をあてはめることが極めて重要といえるでしょう。
自分で示談交渉をするとどうしても低額な任意保険基準を適用されるので、示談交渉は弁護士に依頼するようお勧めします。
後遺障害10級で慰謝料以外に受け取れる賠償金
交通事故で後遺障害10級が認定された場合、支払われるのは「慰謝料」だけではありません。
治療費や休業損害など、いろいろな補償が行われます。
働けなくなった分の「逸失利益」も請求できるので、きちんと支払ってもらいましょう。
以下では後遺障害10級になったときに請求できる賠償金の種類を解説します。
積極損害
積極損害とは、「交通事故が原因で実際に出費が発生した損害」です。
- 治療費
病院に払う治療費です。
診察代、投薬料、手術費、検査料などすべて含まれます。
ただし入院したときに支払われる費用は、基本的に「大部屋」の金額を基準とします。
個室に入るために発生する「差額」については基本的に被害者の自己負担となります。 - 付添看護費用
入院中、親族に付き添ってもらった場合には1日あたり6,500円程度の付添看護費用を請求できます。 - 入院雑
入院したら、1日1,500円程度の入院雑費を請求できます。 - 交通
通院にかかる交通費を請求できます。
公共交通機関だけではなく自家用車で通院した場合にも支払の対象で、ガソリン代として1キロメートルあたり15円、駐車場代や高速道路代も請求可能です。 - 器具や装具の費用
コンタクトレンズや補聴器、義足や車いすなどの器具や装具の費用も請求できます。 - 診断書代、交通事故証明書の取得費用
医師に診断書を書いてもらうときの診断書代、交通事故証明書の取り寄せ費用など各種の文書代を請求できます。
逸失利益
逸失利益は、後遺障害が残ったケースで支払われる重要な賠償金です。
後遺障害が残ると、労働能力が低下して本来なら得られるはずだった収入を得られなくなります。
そこでその減収分を補てんするため「逸失利益」が支払われます。
逸失利益とは「失われた利益」という意味であり「得られなくなってしまった労働収入」のことです。
後遺障害10級の労働能力喪失率
逸失利益の金額は、後遺障害の等級によって定まる「労働能力喪失率」によって計算します。
労働能力喪失率とは、「どのくらい労働能力がなくなったか」という割合です。
後遺障害の程度により、労働能力喪失の程度が異なるので、等級が高くなればなるほど労働能力喪失率も上がる仕組みになっています。
後遺障害10級の労働能力喪失率は27%です。
逸失利益が高額になる場合と低額になる場合
逸失利益の金額は、被害者の事故前の収入や年齢によっても異なります。
事故前の年収が高いと減収分も大きくなるので逸失利益が高額になります。
事故前の年齢が低いとはたらける期間が長くなって減収分が大きくなるので、やはり逸失利益が高額になります。
後遺障害10級の逸失利益の相場
具体的な数字は人によって大きく異なりますが、後遺障害10級の場合2,000~5,000万円程度となる例が多いでしょう。
後遺障害10級の逸失利益計算式
参考までに逸失利益の計算式を示します。
「後遺障害10級の逸失利益=事故前の年収×0.27×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」
ライプニッツ係数とは、本来なら年数を重ねて受け取っていくはずの収入を先に一括して受け取る利益を調整するための特殊な係数です。
休業損害
休業損害は、交通事故で仕事を休んだときに支払われる賠償金です。
交通事故で入通院すると、その日ははたらけないので「減収による損害」が発生します。
その損害を「休業損害」として加害者側へと請求できるのです。
休業損害は、後遺障害が残らなくても発生します。
休業損害の金額も、自賠責基準と任意保険基準、弁護士基準によって異なります。
弁護士基準の場合「1日あたりの基礎収入×休業日数」です。
1日あたりの基礎収入は、事故前の実際の収入をもとに算定します。
自賠責基準の場合「4,200円×休業日数」とするのが基本です。
ただし1日の収入が4,200円を超えると証明できれば、1日19,000円までは増額可能です。
任意保険基準は各任意保険会社によって異なるので一律には定められませんが、自賠責基準に近くなるケースがよくあります。
自賠責基準を適用すると、被害者が主婦の場合には4,200円として計算されますし、収入額が高額でも19,000円を限度とされてしまいます。
弁護士基準なら主婦の場合1日1万円程度となりますし(女性の平均賃金)、収入額が19,000円を超えるならきちんと考慮してもらえるのでより高額な休業損害が支払われます。
休業損害計算時にも他の基準より弁護士基準が有利になるので、示談交渉は弁護士に依頼しましょう。
まとめ
その他にも受け取れる賠償金があるって事が良くわかったよ。
同じ後遺障害10級でも、弁護士に依頼して弁護士基準を適用するか被害者が自分で示談交渉をして任意保険基準が適用されるかで賠償金額が大きく変わってきます。
多くのケースで弁護士基準の方が得になるので、後遺障害が残りそうであれば早めに交通事故に詳しい弁護士に相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。