関節に後遺症が残ってしまった時って慰謝料はどのくらいもらえるの?
今回の記事では、交通事故後に肘関節や膝関節が曲がらなくなってしまった場合に受け取れる慰謝料について、詳しく見ていこう。
交通事故に遭って骨折すると、後遺症が残って腕や脚の関節が曲がらなくなってしまう方が少なくありません。
完全に曲がらないケースもあれば、曲げられる範囲が小さくなってしまうケースもあります。
事故で肘や膝などの関節が曲がらなくなったら、後遺障害認定されて高額な慰謝料を請求できる可能性が相当高くなります。
今回は交通事故の後遺症で肘や膝の関節が曲がらなくなったときの後遺障害等級や慰謝料について、解説します。
目次
交通事故で関節が曲がらないのは上肢機能障害、下肢機能障害
交通事故で腕や脚を骨折すると、治療しても関節が元通りにならないケースが多々あります。
関節を自由に曲げられなくなる後遺症を「可動域制限」といいます。
肘関節や肩関節、手首の関節が曲がらない後遺症を「上肢機能障害」、膝関節や股関節、足首の関節が曲がらない後遺症を「下肢機能障害」と呼びます。
可動域制限の原因
事故後、関節を曲げられない可動域制限が起こる原因は、以下の2つです。
関節そのものの損傷
1つ目は、関節そのものの損傷です。
骨折や脱臼をすると、骨や関節が変形したり、筋肉や腱、靱帯が断裂したりして、関節の機能が失われてしまうのです。
神経損傷
2つ目は神経の損傷です。
骨や関節組織は完治しても、関節を動かす神経が損傷を受けて自由に動かせない状態になります。
関節組織の損傷と神経損傷は、両方同時に発生するケースもあります。
関節が曲がらない「上肢機能障害」「下肢機能障害」で認定される後遺障害の等級
関節の動かせる範囲や可動域によって後遺障害等級が変わってくるんだ。
等級によって異なる症状について、チェックしてみよう。
事故の後遺症で腕や脚の関節を曲げられない「上肢機能障害」や「下肢機能障害」になったら、以下の等級の後遺障害が認定される可能性があります。
上肢機能障害
1級4号 |
両腕の肩とひじ、手首のすべての関節をまったく動かせない |
5級6号 |
片腕の肩とひじ、手首のすべての関節をまったく動かせない |
6級6号 |
片腕の肩、ひじ、手首の関節のうち、2つをまったく動かせない |
8級6号 |
片腕の肩、ひじ、手首の関節のうち、どれか1つをまったく動かせない |
10級10号 |
片腕の肩、ひじ、手首の関節のうち、どれか1つの可動域が2分の1以下になった |
12級6号 |
片腕の肩、ひじ、手首の関節のうち、どれか1つの可動域が4分の3以下になった |
下肢機能障害
1級6号 |
両脚の股関節、ひざ、足首のすべての関節をまったく動かせない |
5級7号 |
片脚の股関節、ひざ、足首のすべての関節をまったく動かせない |
6級7号 |
片脚の股関節、ひざ、足首の関節のうち、2つをまったく動かせない |
8級7号 |
片脚の股関節、ひざ、足首の関節のうち、どれか1つをまったく動かせない |
10級11号 |
片脚の股関節、ひざ、足首の関節のうち、どれか1つの可動域が2分の1以下になった |
12級7号 |
片脚の股関節、ひざ、足首の関節のうち、どれか1つの可動域が4分の3以下になった |
なお上記の「まったく動かせない」には、完全に曲げられない状態だけではなく、可動域が10%以下に制限される状態も含みます。
また手指や足指の関節を曲げられなくなった場合にも、後遺障害認定される可能性があります。
関節の可動域制限を測る方法
関節の可動域制限は、日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会が定める「関節可動域表示ならびに測定法」によって測定します。
医師や理学療法士に動かしてもらい、検査値を記録していきます。
主要運動と参考運動
検査の際には「主要運動」と「参考運動」についての調査を行います。
主要運動とは、その関節の主要な動きであり日常生活でも重要な動作です。
参考運動とは主要運動ほどは重要でないと考えられている動作です。
適正に後遺障害認定を受けるには、主要運動だけではなく参考運動についてもしっかり記録しなければなりません。
医師によっては後遺障害診断書に主要運動しか記載してくれず、後遺障害認定を受けにくくなってしまうケースもあります。
後遺障害診断書の作成を依頼するとき、主要運動についての記載しかなければ、参考運動についての記載が不要なのか、医師に確かめてみるとよいでしょう。
関節の動きの種類
関節の可動域を測るときには、以下のような動きが適切にできるか調べます。
- 屈曲
関節を曲げる動きです。 - 伸展
関節を伸ばす動きです。 - 外転
関節を内側から外側へ向かって動かすことです。
たとえば肩関節の場合、腕をおろした状態から外側へ回して頭の上まで持ち上げます。 - 内転
関節を外側から内側へ向けて動かすことです。
たとえば肩関節の場合、腕をおろした状態から内側へ回して頭の上まで持ち上げます。 - 外旋
関節を内側から外側へ回す動きです。
たとえば肘を曲げた状態で、肘から先だけを身体の外側へ回すのは外旋です。 - 内旋
関節を外側から内側へ向けて回す動きです。
たとえば肘を曲げた状態で、肘から先だけを身体の内側へ向けて回すのは内旋です。 - 橈屈
手首を親指側へ向けて曲げる動きです。 - 尺屈
手首を小指側へ向けて曲げる動きです。
可動域の測定方法
肘関節の可動域を測定する際には「屈曲」と「伸展」の主要運動を確認します。
つまり肘関節を曲げたり伸ばしたりできるかどうかを測定して可動域を記録します。
膝関節の場合も同様に、屈曲と伸展の主要運動を測定します。
肩関節や股関節の場合、屈曲と伸展だけではなく外転や内転も主要運動として測定しなければなりません。
外旋や内旋も参考運動として記録します。
手首の関節の場合は主要運動である屈曲と伸展にプラスして、橈屈や尺屈も参考運動として測定します。
足首の関節の場合、屈曲と伸展の主要運動を測定します。
関節可動域検査は後遺障害認定のために極めて重要なので、専門知識をもった医療機関で適切な方法で実施してもらいましょう。
関節が曲がらない場合に受け取れる慰謝料
弁護士に依頼すると、弁護士基準で計算することができるから、慰謝料は高額になるのだけれど、弁護士に依頼しない場合には、自賠責基準や任意保険基準で計算する事になるから、慰謝料は低額になってしまうんだ。
関節が曲がらなくなったときに請求できる慰謝料の種類は以下の通りです。
入通院慰謝料
事故で骨折し、入通院治療を受けると、治療期間に応じて「入通院慰謝料」を請求できます。
入通院慰謝料は入通院した期間が長くなるほど金額が増額されるので、治療やリハビリの期間が長くなると高額になります。
ただし交通事故の慰謝料計算基準には自賠責基準と任意保険会社の基準、弁護士基準の3種類があり、それぞれ算定される金額が異なります。
中でも弁護士基準がもっとも高額です。
たとえば1ヶ月入院、10ヶ月通院した場合、弁護士基準なら175万円の慰謝料を請求できますが、自賠責基準の場合、最大でも120万円までしか請求できません。
限度額が120万円だからです。
任意保険基準の場合でも、110~120万円程度にしかならない保険会社が多いでしょう。
適正な金額の入通院慰謝料を請求するには弁護士へ示談交渉を依頼して弁護士基準を適用する必要があるといえます。
後遺障害慰謝料
関節を曲げられなくなって後遺障害等級認定を受けられたら、後遺障害慰謝料を請求できます。
金額は認定された等級により、異なります。
弁護士基準による後遺障害慰謝料
認定された等級 |
後遺障害慰謝料の金額 |
1級4号、6号 |
2800万円 |
5級6号、7号 |
1400万円 |
6級6号、7号 |
1180万円 |
8級6号、7号 |
830万円 |
10級10号、11号 |
550万円 |
12級6号、7号 |
290万円 |
自賠責基準や任意保険基準の場合、上記の2分の1~3分の1程度に減額されるケースが多数です。
事故後に関節を曲げられない後遺症が残ったとき、適切な慰謝料を受け取るには弁護士基準をあてはめる必要があるといえるでしょう。
被害者が自分で示談交渉すると低額な任意保険基準を適用されて慰謝料額を下げられてしまいます。
適正な慰謝料を獲得するために、弁護士へ示談交渉を依頼しましょう。
事故の後遺症で関節を曲げられなくなったときの賠償金
治療費の他にも、付き添い費用や介護費用、器具装具代、休業損害や改築費用なども請求可能だよ。
交通事故で関節を曲げられなくなった場合、慰謝料以外にも以下のような賠償金を請求できます。
治療関係費
病院に払う診察費、検査費、手術費、処方箋代などの費用、薬局で購入した薬代は必要かつ相当な範囲で相手に請求できます。
通院にかかった交通費や親族が付き添ってくれた場合の付添看護費用、入院した場合にかかる雑費も請求可能です。
器具装具の費用
骨折すると、松葉杖や車椅子などの器具が必要になるものです。
義足や義手をつける場合もあるでしょう。
こういった器具や装具などの費用も事故によって発生した損害といえるので、相手に請求できます。
介護費用、付き添い費用
後遺症によって自力で動くのが困難になったら、介護が必要です。
その場合、介護士にかかる費用や、親族が介護する場合の介護費用を請求できます。
専門の介護士を雇う場合には、実費を請求できて、親族が介護する場合には、基本的に1日8,000円として計算します。
休業損害
事故の治療のために仕事を休まなければならない場合、休業日数分の休業損害を請求できます。
逸失利益
関節の機能障害によって後遺障害認定を受けた場合、後遺障害逸失利益を請求できます。
逸失利益とは、本来得られるはずだったのに後遺障害によって得られなくなってしまった将来の収入です。
関節を自由に動かせないと、仕事内容が限られるので生涯収入が低下すると考えられるので、逸失利益として相手に損害賠償できます。
逸失利益の金額は、認定された等級や被害者の事故前の収入によって異なります。
自宅や車の改築、改造費用
事故の後遺症で膝関節だけではなく股関節や足首の関節も動かせなくなって車椅子生活になった場合、それまでと同じ家で暮らすのは難しくなるでしょう。
介護するにもバリアフリーにしなければ生活が困難になるケースもあります。
自宅を改装する必要がある場合、バリアフリー工事などの改装費用も相手に請求できます。
また腕や脚の関節を曲げにくくなって自動車を障害者用に改造する必要がある場合、自動車の改造費用も損害として請求可能です。
まとめ
交通事故に遭うと、肘や膝などの関節を自由に動かせなくなる方が少なくありません。
可動域制限が生じたら、病院で適切な検査を受けて、後遺障害認定を受けましょう。
自分で示談交渉を進めるとどうしても慰謝料額を下げられて、損をしてしまいます。
関節を動かせない可動域制限の後遺障害が残ったら、まずは交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士へ相談してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。