業務に支障がでそうなんだけれど、休業損害って請求できるの??
今回の事故では、事業用車両との交通事故における、休業損害について、詳しく見ていこう。
タクシーやトラックなどの事業用車両が交通事故に遭うと「休車損害」が発生するケースがよくあります。
休車損害とは、事業用の車両を使えなくなることによって発生する営業上の損害です。
運送業やタクシー業を営んでいる場合、休車損害が発生すると相手に賠償金を請求できます。
この記事では、そもそも休車損害とはなにか、どのような場合にどの程度の金額を請求できるのか、わかりやすく解説します。
目次
休車損害とは
休車損害とは、交通事故によってバスやトラック、タクシーなどが稼働できなくなって生じる損害です。
車が事故で破損すると、修理に出さなければなりません。
その間はその車両を使った営業ができなくなります。
すると「本来ならその車両を使って得られたはずの利益」を得られなくなり、損害が発生すると考えられます。
これが休車損害です。
休車損害を請求できるのは、車両を営業用に使っている事業者です。
タクシー会社やバス会社、トラック運送業者であれば、自社の車が事故に遭ったときに休車損害を請求できる可能性があります。
個人営業のタクシー運転手や運送業者にも休車損害が認められるケースはあります。
休業損害が認められる2つの条件
タクシー会社などの事業者であっても、必ず休車損害を請求できるわけではありません。
以下の2つの要件を満たす必要があります。
事故後もその車を業務で利用する
1つ目の要件は、事故後も事故車を業務上利用する予定があることです。
そもそもその車を使用する予定がないなら、事故で利用できなくなっても損害が発生しません。
他に遊休車が存在しない
2つ目の要件は「他に遊休車がない」ことです。
遊休車とは、今使っていないけれども代わりに使える車をいいます。
遊休車がある場合、事故車を使えなくても代わりに遊休車を使えるので休車損害が発生しません。
休車損害の計算方法
1日あたりの利益は事故前3ヶ月分を基にして算出する事になるんだ。
休車損害の基本的な計算式は以下のとおりです。
休車損害額=事故前の1日あたりの利益×休車日数
1日あたりの利益は、以下の計算式で算定します。
1日あたりの利益=(事故前3か月間の売上金額-経費)÷事故前3か月に対応する日数
平均的な売上額の計算方法
休車損害を計算するには「事故車の平均的な売上額」を明らかにしなければなりません。
基本的には、事故直近3か月間の売り上げ合計額を日数で割り算して1日あたりの平均的な売上額を求めます。
1日あたり売上額=事故前3か月間の売上合計額÷3か月に対応する日数
3か月間に対応する日数とは実際の3か月分の日数です。
たとえば3月と4月と5月の3か月間であれば92日、9月と10月と11月の3か月間であれば91日となります。
経費とは
事故で修理に出すと経費がかからなくなるので、売上額から差し引かねばなりません。
具体的には以下のような項目です。
- 燃料費(ガソリン代)
- 道路使用料(高速代など)
- 人件費
これらの経費についても、事故前3か月間の平均値をとって計算します。
休車日数の数え方
休車損害が発生するのは「休車した日数」分です。
修理に出す場合「修理工場への入庫日から出庫日」までとするケースが多数です。
全損して修理が不可能な場合、「買い替えに必要な相当期間」を休車日数とします。
買い替えに必要な相当期間は、車両の種類によって異なり個別的に検討して定める必要があります。
休車損害計算の具体例
事例
事故前3か月の売上額がそれぞれ120万円、150万円、130万円のタクシーが事故に遭った場合
車両にかかる事故前3か月分の経費は以下のとおりとします。
- ガソリン代…30万
- 高速道路代…20万
- 人件費…100万円
事故前の3か月は4月~6月で、修理のために50日かかったとしましょう。
計算
この車両の3か月分の売上額は「120万円+150万円+130万円=400万円」となります。
経費の合計額は150万円です。
そこで3か月分の利益合計額は250万円となります。
事故前3か月の日数は91日なので、1日あたりの利益は2万7472円となります。
休車日数が50日なので、休車損害額は27472円×50日=137万3600円と計算できます。
被害者(事業主)は加害者に対し、137万3600円の休車損害を請求できます。
休車による慰謝料請求はできる?
物損事故だけの場合には、慰謝料は発生しないよ。
休車損害が発生すると、加害者へ慰謝料も請求できるのでしょうか?
結論として、休車損害が発生したからといって慰謝料請求できるわけではありません。
慰謝料は「強い精神的苦痛を受けたことに対する賠償金」です。
休車損害という経済的な損害が発生しても、事業主に慰謝料が発生するほどの精神的苦痛は発生しないと考えられています。
よって、物損事故で車が破損してしばらくの間車を使えなくなっても、それだけでは慰謝料請求できません。
交通事故で慰謝料請求できる場合
交通事故で慰謝料請求できるのは、人身事故が発生した場合です。
人がケガをしたり死亡したりすると、痛みや恐怖などの大きな精神的苦痛を受けるので、慰謝料請求できると考えられています。
たとえば自営でタクシー業を営んでいる人がタクシー運転中に事故に遭い、車が壊れてケガをしたら、運転手は相手に休車損害と慰謝料の両方を請求できます。
運送会社の従業員がトラック運転中に事故に遭ってケガをした場合には、運転手は相手に慰謝料を請求できて、運送業者(経営者)が相手に休車損害を請求できる可能性があります。
誰も死傷せず物損事故扱いとなった場合、休車損害は発生しても慰謝料請求はできません。
慰謝料の種類
交通事故の慰謝料には以下の3種類があります。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は被害者がケガをしたことによって受ける精神的苦痛への慰謝料です。
入通院した日数に応じて計算されるので、入通院慰謝料といいます。
ケガをしたら発生するので「傷害慰謝料」とよばれるケースもよくあります。
弁護士基準の場合、入院すると通院期間よりも高額な慰謝料が支払われます。
一方、自賠責基準では入院期間も通院期間も同じだけの慰謝料額となります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、被害者に後遺障害が残った場合に払われる慰謝料です。
後遺障害が残ると被害者は強い精神的苦痛を受けるので、入通院慰謝料に加えて高額な後遺障害慰謝料を請求できます。
金額は、認定された後遺障害の等級によって異なり、認定等級が高いほど高額になります。
死亡慰謝料
死亡慰謝料は、被害者が死亡したときに遺族へ払われる慰謝料で、被害者に扶養家族がいたかどうかで金額が変わります。
弁護士基準の場合、一家の大黒柱の方が死亡したら2800万円程度の死亡慰謝料が認められます。
慰謝料の金額は計算基準によって変わる
交通事故の慰謝料の金額は、賠償金の計算基準によって変わります。
- 自賠責基準…自賠責保険の計算基準
- 任意保険基準…任意保険会社の計算基準
- 弁護士基準…弁護士や裁判所が利用する法的な計算基準
弁護士基準を適用すると、3つの基準の中でもっとも高額になります。
自賠責基準や任意保険基準で計算すると、弁護士基準の2分の1や3分の1程度に減らされるケースも少なくありません。
適正かつ高額な慰謝料を受け取るには、弁護士基準をあてはめる必要があります。
休車損害の他に受け取れる賠償金
人身事故の場合には、治療費や付添費、交通費なども請求できるよ。
タクシーやトラック、バスなどの事業用車両が事故に遭った場合、休車損害以外に以下のような賠償金を請求できる可能性があります。
物損
物損事故でも人身事故でも、発生した物損(物的損害)については賠償請求が可能です。
修理費用
車の修理費については、基本的にかかった金額を請求できます。
ただし修理費用が事故車の時価を上回る場合、事故車の時価額が限度額となります。
買い替え費用
事故車が全損した場合などには、買い替え費用を請求できます。
ただし金額的には事故車の時価額が限度となります。
買い替え諸費用
買い替えの際にかかる諸費用も請求できます。
たとえば登録費用、納車費用、リサイクル料金、ディーラーの手数料、車庫証明の費用などです。
代車使用料
事故車を使えない期間に代車を利用する場合、レンタカー代を基準として代車使用料金を請求できます。
格落ち損
事故車となって車の評価額が下がってしまった場合、格落ち損として評価額の減少分の損害賠償が可能です。
ただし実際の事故前と事故後の評価額を比べるのではなく、修理費用の10%程度となるケースが多くなっています。
人身損害
運転者がケガをしたり死亡したりして人身事故が発生すると、以下のような人身損害も請求できます。
治療費
病院に払う診療費、投薬料、検査料、手術費などの治療費については、必要かつ相当であれば全額請求できます。
交通費
通院交通費についても実費を請求できますし、自家用車で通院したらガソリン代を請求できます。
付添看護費用
入院して親族に付き添ってもらったら、1日6,500円程度の付添看護費用を請求できます。
入院雑費
入院すると、1日1,500円程度の入院雑費を請求できます。
休業損害
仕事をしている方が事故に遭って仕事ができなくなったら、休業日数分の休業損害を請求できます。
運送会社やタクシー会社に雇われている方だけではなく、自営でタクシーや運送業を営んでいる方も休業損害の支払いを受けられます。
逸失利益
後遺障害が残ったり死亡したりして、事故後に得られるはずだった収入を得られなくなったら、減収分を逸失利益として請求できます。
休車損害を確実に受け取るには
正確に休業損害の計算をしてくれるだけではなく、その他に請求できる賠償金も漏れなく請求してもらうことが可能だし、弁護士基準で慰謝料を請求できるから、大幅に賠償金をアップすることができるんだよ。
休車損害を計算するには、過去の帳簿を確認して売上金や経費の金額など正確に把握しなければなりません。
車の買い換えが必要な場合、保険会社との間で休車日数についての争いが生じるケースも多々あります。
適正な金額の休車損害を確実に受け取るには、弁護士に依頼するのが得策です。
弁護士であれば正確に休車損害額を計算してくれて、保険会社からの不当な減額要求にも応じず適正な賠償金を獲得してくれるでしょう。
人身事故の慰謝料が大幅に増額されるメリットも大きいといえます。
タクシーやバス、トラックなどの車両が事故に遭ったら、まずは一度交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士へ相談してみましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。