今回の記事では、休業損害とはどのような物なのか、休業損害の計算方法について、詳しくみていこう。
コロナウイルス感染症が流行する中、感染したり感染を疑われたりして休業する方も増えています。
休業中は会社から休業手当を受けられるケースもありますが、ときにはまったく手当を支給されない方もおられるでしょう。
失業してしまう方も少なくありません。
コロナ休業中に事故に遭ったら、事故の相手から「休業損害」を受け取れるのでしょうか?
今回はコロナ休業中に事故に遭った場合の休業損害の計算方法をお伝えします。
コロナで減収が発生している中で交通事故に遭ってしまった方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
休業損害とは
休業損害とは、交通事故でケガをしたために仕事を休まなければならなくなってしまった場合に受け取れる損害賠償金です。
事故でケガをすると、入通院して治療を受けなければなりません。
会社員や自営業者などの有職者の方が事故に遭うと、治療のために仕事を休む必要が生じます。
仕事ができないとその期間「減収」が発生するので、その減収分を損害として相手に請求できます。
それが「休業損害」です。
休業損害が認められるのは、基本的に「事故前に働いていた人」です。
たとえば正社員、契約社員、派遣社員、アルバイト、パート、自営業者、フリーランスなどの方は休業損害を請求できます。
また以下のような人にも休業損害が認められる可能性があります。
- 主婦や主夫などの家事労働者
- 事故前にたまたま失業中だった人
- 開業準備中だった人
休業損害の計算方法
それぞれどのように異なるのか、チェックしてみよう。
休業損害の計算方法には弁護士基準、任意保険基準、自賠責基準の3種類があります。
3つのうち、最も高額なのは弁護士基準です。
弁護士基準の場合
弁護士基準とは、弁護士や裁判所が採用する法的な基準です。
弁護士が示談交渉を代行する場合や裁判所が判決を下す場合などに適用されます。
弁護士基準の場合、休業損害は以下のように計算します。
休業損害額=1日あたりの休業損害額×休業日数
たとえば会社員などの給与所得者の場合、1日あたりの休業損害額は「事故前3か月の平均給与額」をもとに算定します。
自賠責基準の場合
自賠責基準は、自賠責保険や共済が保険金や共済金を計算するときに適用する基準です。
金額的には弁護士基準より低くなるケースが多数です。
具体的な計算式は以下のとおりとなります。
休業損害額=1日6,100円×休業日数
ただし1日あたりの休業損害額が6,100円を超えることを証明できる場合、19,000円までは増額してもらえます。
自賠責基準と弁護士基準の違い
弁護士基準との大きな違いは「1日6,100円」に固定されてしまうことです。
弁護士基準なら高額な所得を得ている人への補償が厚くなりますが、自賠責基準では十分な補償を受けられません。
給与明細書や源泉徴収票などによって1日6,100円より多くの収入を証明できれば1日19,000円まで増やしてもらえますが、それ以上は増額できません。
任意保険基準の場合
任意保険基準は、各任意保険会社がそれぞれ定めている保険金計算基準です。
被害者が弁護士を立てずに自分で保険会社と示談交渉する場合には任意保険基準が適用されます。
任意保険基準の休業損害額は各社によって異なるため、一律の方法をご紹介することはできません。
基本的には「実収入(給与所得者の場合には事故前3か月分の平均)」をもとに計算するケースが多数です。
ただし自賠責基準と同様に「1日19,000円」を上限とされる保険会社もあります。
また休業日数の認定を厳しくされて、被害者が不満を抱く事例も少なくありません。
主婦や主夫などの家事労働者の場合、自賠責基準と同様の「1日6,100円」を適用されるケースが多数です。
そうなると、弁護士基準とは大きな格差が生じてきます。
弁護士基準の場合、後述のように「平均賃金」を採用するため1日10,000円程度になるからです。
失業者や開業準備中の方の場合、休業損害を否定されるケースも多々あります。
任意保険会社と示談交渉をしていて休業損害額に疑問を感じたら、一度弁護士に適正額を確認してみてください。
任意保険基準が低すぎる場合、弁護士に示談交渉を依頼すると休業損害額が大幅にアップする可能性があります。
職種によって異なる休業損害の計算方法
自営業では、過去の売り上げを基に計算する事になるんだけれど、赤字経営の場合や、開業準備中の場合には主婦と同様に賃金サンセスを基準に計算する事になるよ。
休業損害額の計算方法は、被害者の職種によって異なります。
以下でそれぞれの計算方法をお伝えします。
会社員などの給与所得者の場合
会社員やパート、アルバイトなどの「給与所得者」の場合には、基本的に「事故前3か月の給与額」を基準に1日あたりの休業損害額を算定します。
具体的には事故前3か月分の給与合計額を日数で割り算します。
たとえば事故前3ヶ月の給与が35万円、32万円、33万円の合計100万円で、3か月の日数が91日の人が交通事故に遭った場合、1日あたりの休業損害額は10,989円です。
休業日数が20日なら、休業損害額は10989円×20日=219,780円となります。
主婦の場合
主婦や主夫などの家事労働者が交通事故に遭った場合、実収入がないので事故前3か月分の給料を基準にできません。
この場合には「賃金センサス」という賃金の統計資料を使って算定します。
具体的には「全年齢の女性の平均賃金」を用いて1日あたりの休業損害額を求めます。
令和元年の全年齢の女性の平均賃金額は388万100円で、365日で割り算すると、10,630円となります。
たとえば主婦が20日休んだ場合の休業損害額は212,608円と算定されます。
なおパートや契約社員などの仕事をしながら主婦をしている兼業主婦の場合、給料か平均賃金の「どちらか多い方」を採用します。
合算はできないので間違えないように注意しましょう。
自営業者の場合
自営業者の場合には、事故前年度の所得を365日(閏年の場合366日)で割り算して1日あたりの休業損害額を求めます。
ただし家賃や保険料などの固定費については加算できます。
たとえば前年度の所得額が600万円の方が事故に遭った場合の1日あたりの休業損害額は16,438円です。
20日休んだら328,767円の休業損害額を請求できます。
赤字の場合や開業準備中の場合などには、賃金センサスの平均賃金を参照したり前職の収入を参考にしたりして1日あたりの休業損害額を求めるケースが多数です。
コロナ休業中に受け取れる休業損害
コロナ禍によって減収が発生している場合、休業損害額はどのように計算されるのでしょうか?
休業損害の計算方法は、コロナによる減収となっていても基本的に影響を受けません。
会社員の場合なら、過去3か月分の給与をもとに計算します。
自営業者の収入が減っている場合でも、前年度の所得額を基準とします。
「コロナで減収となってしまったので、その分を考慮して休業損害を増額してほしい」と主張しても、基本的には認められないと考えましょう。
コロナで失業した場合の休業損害
コロナの影響で会社が倒産したりリストラ、雇止めに遭ったりして失業してしまった場合、休業損害は受け取れないのでしょうか?
失業者でも休業損害を受け取れる可能性があります。
以下の要件を満たすかどうか、確認してみてください。
- 就業する意思と能力がある
実際に仕事をする意欲があり、仕事ができる能力を備えていたことが必要です。
どちらかが欠けていたら休業損害は受け取れません。 - 就業する蓋然性があった
実際に就職活動をしていて内定していた、あるいは内定する蓋然性が高かったことが必要です。
上記の両方の要件を満たす場合、失業中でも休業損害を請求できます。
金額は、前職の給与額や所得額を基準にしたり、学歴別の平均賃金を使ったりして求めます。
コロナ禍での交通事故による注意点
コロナ禍で交通事故に遭った場合には、賠償金額を減らさないように以下の点に注意しましょう。
治療回数を減らさない
コロナウイルス感染症が流行っていると、どうしても外出を控えたくなるものです。
できれば病院にも行きたくない方が多いでしょう。
しかし交通事故の賠償金は、通院日数が減ると減額される可能性が高まります。
通院日数が減ると次のようなリスクが発生します。
慰謝料が減額される
交通事故の慰謝料(入通院慰謝料)は入通院した期間に応じてカウントされ、基本的に入通院期間が長くなると慰謝料額が上がる計算方法です。
ただし通院日数が少ない場合には、減額対象となります。
自賠責基準でも弁護士基準でも通院日数が少ないと慰謝料を減額される可能性があるので、適正な金額を払ってもらいたい場合には最低でも週2~3回程度は通院するようおすすめします。
休業損害額が減額される
休業損害額も、通院日数が少ないと減額される可能性があります。
特に自営業者や主婦の方の場合、勤務先が休業日数を証明してくれません。
通院しないで「自宅療養していた」と主張しても「実際には仕事や家事をしていただろう」といわれて休業日数に含めてもられない可能性が高まります。
適正な金額の休業損害額を受け取るためにも、一定以上の頻度で通院を続けましょう。
治療費を打ち切られてしまう
あまりに通院頻度が少ないと、保険会社が治療費の支払いを打ち切ってしまう可能性が高まります。
「もう通院する必要がないのだろう」「治ったのだろう」と判断されてしまうからです。
治療費を打ち切られたら、自分で病院の窓口で治療費を負担しなければなりません。
後から請求するとしても、一時的に負担が重くなってしまいます。
治療費打ち切りに遭わないためにも通院頻度を下げ過ぎないようにしましょう。
完治まで時間がかかる
きちんと通院して治療を受けないと、完治までに時間がかかってしまいます。
早期に体の調子を戻すためにも通院治療は重要です。
後遺症が残りやすくなる
適正な時期に適切な治療を受けないと、事故による後遺症が残ってしまう可能性も高まります。
放っておくと治るものも治らなくなってしまうからです。
交通事故に遭った場合の休業損害や慰謝料計算方法は複雑で、自分では適正額がわからない方も多いでしょう。
コロナ禍において、オンラインで相談できる弁護士事務所も増えています。
迷ったときには一度、交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士へ相談してみましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。