交通事故の加害者が保険に加入していない場合って、慰謝料や治療費などの賠償金を受け取ることはできないの?
そんな事はないよ!
任意保険に加入していなくても、自賠責保険に加入していれば、最低限の補償金は受けることが出来るんだ。
今回の記事では、交通事故の相手が無保険だった場合の対策について、詳しく説明するよ!
交通事故に遭ったとき、事故の相手が「無保険車」だったらどのように対応すると良いのでしょうか?
この場合、運転者である加害者本人と示談交渉を進めなければなりませんし、相手に支払い能力がなかったら賠償金を受け取れなくなってしまう可能性もあるので、そのような結果を避けるために適切に対応する必要性が高いです。
今回は、無保険車との間で交通事故に遭ってしまった場合の対処方法をご紹介します。
目次
2種類の「無保険」の意味
交通事故で相手が「無保険」という場合、実は2種類の意味があります。
交通事故の自動車保険には「任意保険」と「自賠責保険」の2種類があるからです。
自賠責保険は強制加入の保険です。
自賠責保険に加入せずに自動車やバイクを運転すると違法であり、罰則も適用されます。
これに対して任意保険は強制加入ではありません。
任意保険に加入せずに自動車やバイクを運転しても、違法ではありません。
一般的に「無保険」という場合には「任意保険に加入していない」状態を意味します。
そこで「無保険車」には、以下の2種類があることになります。
- 任意保険には加入していないが自賠責保険には加入している
- 任意保険にも自賠責保険にも加入していない
上記のどちらに該当するかによって対応方法が変わってくるので、まずはこの2つの違いを正しく押さえておきましょう。
無保険車の割合
実際に任意保険に加入していない人ってどの位いるの?
自動車の場合には9割の人が任意保険に加入しているんだけれど、二輪車の任意保険の加入率はとても低いんだよ。
それでは、全国に無保険車はどのくらい存在するものなのでしょうか?
任意保険に未加入の車の割合を把握しておきましょう。
任意保険への加入率は、四輪車のケースとバイク・原付のケースで大きく異なります。
四輪車の場合には、任意保険加入率が約7割ですが、自動車共済などの契約を足すと、9割近くの人が対人対物買収責任保険に加入しています。
これに対しバイクや原付の場合、任意保険や共済金への加入率が約4割にとどまります。
つまり、バイクや原付相手に交通事故になった場合には、相手が無保険である可能性が約6割となり、高くなっているのです。
また、自賠責保険への加入状況も、四輪車とバイクとで異なります。
四輪車の場合には、車検の際に自賠責保険に加入していることが必要となりますので、ほとんどすべての人が自賠責保険に加入しています。
これに対し、バイクにはこうした制度がないため、自賠責保険にすら加入していない方がおられます。
バイクや原付であっても自賠責保険に加入しないで車両を運転することは違法ですが、それでも自賠責保険への加入率は7割程度にとどまっているのです。
以上より、交通事故に遭ったときには、特に相手がバイクや原付のケースで注意が必要となります。
加害者が無保険車のケースでは、相手の保険会社から賠償金を支払ってもらえない可能性が高くなってしまうからです。
保険会社の役割とは?
そもそも、自賠責保険と任意保険って何が違うの?
どちらも加入しなければいけないの?
自賠責保険は、強制加入となるんだけれど、任意保険への加入義務はないんだ。
自賠責保険で足りなかった分の賠償金を任意保険で補てんすると考えよう。
それでは相手が無保険車の場合、どのような問題があるのでしょうか?
ここで、自動車保険会社の役割について、みてみましょう。
自賠責保険会社の役割
まずは、法律で加入を強制されている自賠責保険の役割を理解しましょう。
自賠責保険の目的は、交通事故被害者に対する最低限の救済です。
交通事故に遭ったら、被害者は重大な怪我をしたり死亡したりして、大きな損害が発生する可能性があります。
そうした損害については加害者が支払いをしなければなりませんが、加害者に支払い能力がない場合には、被害者は必要な損害賠償を受けられないこととなってしまいます。
そのような結果は非常に不合理なので、交通事故に遭った被害者は全員、自賠責保険からの最低限の給付金を受け取れるようにしているのです。
そのために、自動車を運転するドライバーは全員自賠責保険に入らなければならないこととされています。
このように、自賠責保険は被害者の最低限度の救済を目的とする保険なので、支払われる保険金の金額は、高くありません。
「自賠責基準」という基準で計算される低額な給付となりますし、物損事故についての保障もありません。
任意保険会社の役割
次に、任意保険の役割を把握しましょう。
上記のように、交通事故が起こったとき、加害者が自賠責保険に加入していたら自賠責保険からの支払いは受けられますが、自賠責保険の支払い基準は低いので、発生した損害全額についての賠償金を受け取れないケースも多いです。
また、自賠責保険には物損に対する保障がないので、車の修理費や代車費用などは一切支払われません。
自賠責保険によって保障されない分は、加害者が自腹で支払いをしなければなりませんが、多額の損害賠償ができない人も多いでしょう。
そこで、ドライバーは任意保険に加入して、交通事故を起こしたときに備えているのです。
任意保険に加入していたら、任意保険が、損害賠償責任者となり、被害者に対して必要な賠償金が支払われるので、加害者本人が負担せずに済みます。
また、加害者の任意保険会社が被害者に賠償金を支払うケースでは、任意保険会社が示談交渉を代行します。
このサービスのことを「示談代行サービス」と言います。
示談代行サービスがついているのは、任意保険の中でも対人賠償責任保険と対物賠償責任保険です。
そこで、交通事故に遭ったときに加害者が任意保険の対人賠償責任保険や対物賠償責任保険に加入している場合には、被害者は加害者本人ではなく加害者の任意保険会社と示談交渉を進めていくこととなります。
一般的な交通事故のケースにおいて、被害者が加害者の保険会社と示談交渉をしているイメージがあるのは、多くの加害者が任意保険に加入しているからなのです。
加害者が無保険の場合の示談交渉
相手が無保険だった場合には、誰と示談交渉を進めれば良いのかな?
相手の連絡先を聞いて、加害者と直接示談交渉を進める事になるんだよ。
それでは、加害者が無保険の場合には、被害者は誰とどのようにして示談交渉を進めていけば良いのでしょうか?
任意保険に加入していない「無保険車」の場合、任意保険が示談交渉を代行しないので、被害者は加害者と直接賠償金の支払いについての話し合いをしなければなりません。
このことは、加害者が自賠責保険に加入していても同じです。
自賠責保険には示談代行サービスがついていないので、加害者が自賠責保険に加入していたとしても、自賠責保険は加害者の代理人として示談交渉を代行しないからです。
加害者が任意保険に加入していない無保険車の場合、自賠責保険に加入しているかどうかにかかわらず、加害者本人と直接連絡をとって、示談交渉をしなければならない結果になります。
相手と直接示談交渉するときの問題点
加害者との示談交渉ってスムーズに進むの?
加害者との直接示談交渉を行うと、トラブルになってしまう事が非常に多いんだよ。
トラブルになってしまう事例を紹介するね。
それでは、交通事故の加害者と直接示談交渉をすると、どのような問題があるのでしょうか?
以下で、よくあるトラブルの例をご紹介します。
連絡が取れない
まずは、加害者と連絡がとれないケースがあります。
加害者に損害賠償請求をしようとしても、相手の電話番号がわからないケースもありますし、相手の住所を調べて手紙を送っても無視されるケースもあります。
特に物損事故の場合、加害者には刑事罰が適用されないので、相手が軽く考えて被害者からの請求に応じないことが多いです。
このようなことを防止するためには、交通事故に遭ったときに、現地で加害者の氏名と住所、電話番号やメールなどの連絡先を確認しておくことが重要です。
「保険会社が間に入ってくれるから大丈夫」などと考えていると、相手が無保険であることが判明したときに連絡方法がわからなくて重大な問題が発生してしまう可能性があります。
損害賠償金の計算方法がわからない
加害者が本人の場合、支払う側の加害者も請求する側の被害者もどちらも素人なので、損害賠償金の正しい計算方法がわからないことが多いです。
相手に保険会社がついていたら、保険会社の担当者が損害賠償金を計算して示談金額を提示してくれるものですが、相手が加害者本人の場合には、被害者自信が自分で計算して金額を提示する必要があります。
相手から支払いを提案してくれることはほぼありません。
しかし、被害者が自分なりにいろいろと調べて加害者側に損害賠償金請求をしても、加害者が「なぜそんな金額になるのか」「理解できない、納得できない」「そんなに高いはずがない」などと言われて納得してもらえない可能性があります。
被害者も素人なのであまりに細かい説明を求められても対応できず、示談が頓挫してしまうのです。
過失割合でもめる
被害者が加害者と直接交渉すると、過失割合でトラブルになることも多いです。
交通事故の当事者になると、被害者も加害者も、自分の過失割合が低いと感じるものだからです。
お互いが自分の過失割合を低く主張するために折り合いがつかず、示談が決裂してしまう可能性が高くなります。
示談しても支払ってもらえない
相手が加害者本人の場合、示談が成立しても約束通りに支払ってもらえない可能性があります。
相手が任意保険会社の場合、示談金を値切られることはあっても決まった賠償金額については全額きっちり支払われます。
金額がどれだけ高額でも、支払い方法は一括払いとなります。
ところが加害者本人が相手の場合、きちんと支払いをしてくれるとは限りません。
示談しても支払いをせずに逃げてしまう人もいますし、「もう少し待ってほしい」などと言って延々と支払わない人もいます。
また、「お金がない」と言われて長期分割払いになってしまうケースもありますし、最悪の場合には、損害賠償金を支払う前に自己破産されてしまうこともあります。
以上のように、加害者が無保険で相手と直接示談交渉を行うときには、そもそも示談が成立しない可能性が高くなる上、ようやく示談が成立したとしても、決まった通りに支払ってもらえないおそれがあり、被害者にとっては大きなリスクとなります。
相手が無保険の場合の対処方法
相手が無保険者と上手く示談を進めるにはどうしたら良いのかな?
相手が自賠責保険に加入しているかどうかで示談の方法は変わってくるんだ。
詳しく説明するね!
もしも交通事故の相手が無保険の場合、どのように対処するのが良いのでしょうか?
事故現場での対応
まずは交通事故現場での対応が重要です。
加害者が無保険の場合には、事故現場で加害者の連絡先を聞き出しておくことが非常に重要です。
そのとき聞いておかないと、後で連絡できなくなってしまう可能性があるためです。
そこで、事故現場で相手の氏名や住所、電話番号(携帯と自宅)、メールアドレスなどを聞き出しておきましょう。
できれば勤務先も知っておくと役に立つので、名刺をもらっておくことをお勧めします。
また、事故現場の写真を撮影してメモをとり、現場の状況を証拠に残しておきましょう。
これにより、将来加害者との間で過失割合についての争いが発生したときに、被害者の正当性を証明できる可能性があります。
近くに目撃者がいたら、声をかけて連絡先を聞き、将来何かあったときには協力してくれるように依頼しておきましょう。
自賠責保険のみ加入していた場合
次に、加害者が自賠責保険に加入している場合の対処方法をご紹介します。
自賠責保険に被害者請求する
加害者が無保険であっても、損害額の全額を加害者に求める必要はありません。
加害者が自賠責保険に加入しているならば、最低限自賠責保険基準までの保険金は、自賠責保険から受け取ることができます。
そこで「被害者請求」の方法を利用して、自賠責保険に保険金請求をしましょう。
被害者請求とは被害者自身で直接加害者の自賠責保険へと保険金請求する手続きです。
場合によっては、加害者請求により、加害者自信が自賠責保険へ手続きを進め、被害者へ賠償金を支払う場合もあります。
被害者請求をしたいときには、加害者の自賠責保険に連絡をして、請求用の一式書類を取り寄せます。
そして必要書類を揃えて提出すると、保険金請求の手続きができます。
その後自賠責保険会社において調査が行われ、決定した金額が被害者へと支払われます。
無保険車傷害保険を利用する
相手が保険に加入していない場合、無保険車傷害保険を利用することも可能です。
無保険車傷害保険とは、加害者が任意保険に加入していないときや加入していても条件を満たしておらず適用されない場合において、自分の自動車保険から損害賠償金を受けられる保険です。
無保険車傷害保険によって支払われる損害は、後遺障害と死亡に関する損害に限られます。
限度額は2億円となっており、重傷を負ったケースでは非常に助かるので必ず利用しましょう。
人身傷害補償保険、搭乗者傷害保険を利用する
自動車保険の中でも「人身傷害補償保険」「搭乗者傷害保険」に加入していたら、人身事故にあったときにこれらの保険からも支払いを受けられます。
人身傷害補償保険も搭乗者傷害保険も、保険契約者やその家族などが交通事故に遭ったときに適用される保険です。
加害者に対する損害賠償金とは別に受け取れるものですので、交通事故で被害者が死傷したケースでは、忘れずに自分の保険会社に申請しましょう。
自賠責にも未加入の場合
加害者が自賠責保険にも入っていない場合には、次のような手順で損害賠償請求を進めましょう。
政府保障事業を利用する
加害者が自賠責保険に入っていない場合、自賠責保険に被害者請求することはできません。
しかしこのようなケースでも「政府保障事業」によって、自賠責保険と同等のてん補金というお金を受け取ることができます。
政府保障事業とは、自賠責保険が適用されない交通事故被害者のために政府が実施している補償事業です。
相手が自賠責保険に加入していないケースやひき逃げなどで相手の自賠責保険が不明なケースで利用できます。
政府保障事業によって支払われるお金のことを「てん補金」と言い、金額は自賠責基準と同じです。
申請したいときには、お近くの保険会社の窓口に行って申請をしましょう。
自分の自動車保険
加害者が自賠責保険に加入していないケースでも、自分の自動車保険で無保険車傷害保険や人身傷害補償保険、搭乗者傷害保険などに加入していたら、これらの保険から支払いを受けられます。
加害者へ直接請求する方法
自賠責保険で足りない分に賠償金は、直接加害者に請求する事になるんでしょ?
そうだね!
相手が応じてくれない場合には、弁護士に相談したり、損害賠償請求訴訟を起こすことを検討してみよう。
加害者が無保険の場合、自賠責保険や政府保障事業による支払いを超えて損害が発生していたら、加害者に対して支払い請求する必要があります。
加害者に対して支払い請求するときには、まずは内容証明郵便を使って請求書を送りましょう。
その後加害者と話し合いをして、賠償金額と支払い方法を決定する必要があります。
話し合っても解決できないケースでは、ADRや調停、訴訟などの手続きを利用して解決しなければなりません。
間に裁判所やADRが入ってくれたら相手が支払いに応じそうならば、調停やADRを利用すると良いですし、相手の態度が強硬なケースではいきなり訴訟をした方が良いこともあります。
また、加害者の態度が不誠実で許せないと感じる場合には、相手を刑事告訴するのも1つの方法です。
交通事故の中でも人身事故を起こすと、加害者には犯罪が成立して、刑事罰が適用されます。
被害者側が刑事告訴をすると、加害者に対する処分がより重くなる可能性が高くなるので、加害者としては、示談を成立させて刑事告訴を取り下げてもらいたいと考えるものです。
つまり、刑事告訴をすると、加害者に対する処罰を重くしてもらえるだけではなく、加害者の方から謝罪をしてきたり、賠償金の支払いを提示してきたりすることもあり、被害者にとっては重要な切り札となるのです。
加害者任意保険に加入していないことも、刑事手続き上不利になりやすいので、加害者の態度に誠意を感じられないならば、被害者として厳しく追及すると良いでしょう。
まとめ
交通事故の相手が無保険の場合の対応について、よくわかったよ。
対応に困ったら弁護士に相談だね!
弁護士に相談することで、トラブルを最小限に抑えることができるよ。
自分の任意保険に弁護士特約がついていれば、無料で弁護士に依頼できるから、任意保険のオプションをチェックしてみよう。
今回は、交通事故の加害者が無保険車であった場合の対処方法をご紹介しました。
相手が無保険車の場合、適切に損害賠償が行われない可能性が高くなるので、被害者はより慎重に対応しなければなりません。
自分だけでは自信を持って請求手続を進められない場合には、交通事故トラブルに注力している弁護士に相談すると良いでしょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。