だけど、場合によっては歩行者に過失割合が割り当てられてしまうこともあるんだ。
今回の記事では、歩行者と自転車の接触事故における、過失割合をシーンごとにチェックしていこう。
自転車と歩行者が接触すると、お互いの過失割合はどのくらいになるのでしょうか?
基本的には歩行者の立場が弱いので、自転車の過失割合が高くなる傾向にあります。
ただし一定のケースでは歩行者の責任が重くなる可能性もあるので、正しい知識をもっておきましょう。
今回は自転車と歩行者の交通事故における過失割合や慰謝料について解説します。
自転車と歩行者の接触事故における過失割合
自転車と歩行者が接触すると、基本的に自転車の過失割合が高くなると考えましょう。
自転車は歩行者よりもスピードが速く、事故に遭ったときのダメージも小さいため、自転車側に高い注意義務が課されます。
以下で典型的な交通事故における過失割合をみてみましょう。
歩行者の過失割合が0になるケース
以下のような場合、歩行者には一切過失が認められず過失割合が0%になります。
歩行者が青信号で横断歩道を渡っていた
信号機のある場所で、歩行者が青信号で横断歩道を渡っていれば、歩行者には何の過失もありません。
自転車側の過失割合が100%となります。
信号機のない場所で歩行者が横断歩道を渡っていた
信号のない場所であっても、横断歩道をわたっている歩行者は絶対的な保護を受けます。
横断歩道上の事故の場合、自転車の過失割合が100%となります。
歩行者が歩道や路側帯を通行している
歩行者が歩道や路側帯を通行していて自転車と接触した場合にも、自転車側の過失割合が100%となります。
歩行者に過失が認められるケース
以下のような場合には、歩行者側にも過失が認められます。
横断歩道上で、歩行者が信号無視をした
横断歩道上の事故であっても、歩行者が信号無視をしていると過失割合が上がります。
- 歩行者が黄信号、自転車が赤信号なら歩行者:自転車=15%:85%
- 歩行者が赤信号、自転車も赤信号なら歩行者:自転車=25%:75%
- 歩行者が赤信号、自転車が黄信号なら歩行者:自転車=60%:40%
- 歩行者が赤信号、自転車が青信号なら歩行者:自転車=80%:20%
歩行者が自転車横断帯を通行していた
歩行者が自転車横断帯を通行していて自転車と接触すると、歩行者:自転車=5%:95%となります。
歩行者が横断歩道ではない場所を通行していた
歩行者が横断歩道ではない場所を通行している場合には、歩行者にも一定の過失が認められます。
たとえば信号機のない場所で横断歩道の付近を通行していた場合、歩行者:自転車=35%:65%となります。
近くに横断歩道のない場所で歩行者が車道を横断しようとして自転車と接触した場合、過失割合は歩行者:自転車=20%:80%です。
歩行者が車道を直進していた
歩行者が車道を直進していた場合にも、歩行者に一定の過失割合が認められます。
- 歩行者に車道通行が認められている場所なら歩行者:自転車=10%:90%
- 歩行者に車道通行が認められていない場所なら歩行者:自転車=20%:80%
となります。
歩行者の過失割合が高くなる場合
以下のような場合、特に歩行者の過失割合が高くなります。
赤信号で道路を渡ろうとした
事故場所が横断歩道であっても赤信号で道路を渡ろうとすると、歩行者の過失割合が80%となります。
車道への急な飛び出し
歩行者が車道へ急に飛び出すと、自転車には事故を避けるのが難しくなるので歩行者の過失割合が上がります。
幹線道路、ふらふら歩き
事故現場が幹線道路の場合、自転車にとっては歩行者の存在を予測しにくくなります。
歩行者がふらふら歩きをしていた場合にも、危険が増大するでしょう。
こういったケースでも歩行者の過失割合が高めに修正される可能性があります。
以上のように、歩行者にも一定の責任が認められるケースはありますが、その過失割合が100%になることはほとんどありません。
高くても80%くらいが限度となります。
自転車と歩行者の交通事故で発生する慰謝料
歩行者の過失割合が高くなればなるほど、受け取れる慰謝料が減額されるんだよ。
自転車と歩行者が接触すると、歩行者が大けがをするケースが少なくありません。
そのようなとき、どのくらいの慰謝料を請求できるのでしょうか?
入通院慰謝料
歩行者がけがをして入通院すると「入通院慰謝料」を請求できます。
入通院の期間が長引けば、その分入通院慰謝料は高額になります。
たとえば歩行者が骨折して3ヶ月通院すれば入通院慰謝料は73万円程度、半年通院すれば116万円程度となります。
後遺障害慰謝料とは
後遺障害慰謝料は、被害者に後遺障害が残った場合に支払われる慰謝料です。
後遺障害の内容や程度により、金額が変わります。
具体的には、後遺障害の「等級」によって慰謝料が算定されます。
【後遺障害の等級別の慰謝料額】
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
たとえば歩行者が骨折して後遺障害7級になれば1000万円程度、被害者に脳障害が発生して5級の認定を受けられたら1400万円程度の慰謝料が払われます。
死亡慰謝料とは
死亡慰謝料は、被害者が死亡したときに遺族へ支払われる慰謝料で、被害者の立場により、慰謝料額が変動します。
- 被害者が一家の支柱:2800万円程度
- 被害者が母親や配偶者:2500万円程度
- その他のケース:2000万円~2500万円程度
なお上記の金額には、本人の慰謝料と遺族固有の慰謝料の両方が含まれます。
過失割合が高いと慰謝料は低額に
上記の慰謝料額は、「発生した慰謝料額」であり、実際に受け取れる金額とは異なる可能性があるので注意しましょう。
被害者に過失があると、その分過失相殺によって支払われる慰謝料額が減額されるためです。
たとえば被害者が骨折して後遺障害7級が認定されると、1000万円程度の後遺障害慰謝料が支払われるはずです。
しかし被害者に2割の過失があれば、慰謝料は2割減となって800万円しか受け取れません。
被害者が信号無視をしていたため過失割合が80%となれば、200万円の慰謝料しか請求できなくなってしまいます。
交通事故に遭ったときには、自分の過失割合がどのくらいになるかが非常に重要といえるでしょう。
自転車との交通事故による注意点
そのため、適切な慰謝料を受け取れなかったり、賠償金が支払われないといったトラブルが起きてしまうことが多いんだよ。
歩行者と自転車の交通事故では、以下のような問題があります。
示談交渉をスムーズに進めにくいリスク
自転車側が自転車保険に加入していなければ、歩行者と自転車のライダーは自分たちで直接示談交渉をしなければなりません。
お互いが素人では賠償金計算方法についての知識も不足するため、示談交渉をスムーズに進めにくくなりがちです。
加害者側が不誠実な態度をとり、被害者が賠償金を請求しても無視されてしまうケースも少なくありません。
賠償金が支払われないリスク
自転車と歩行者の事故の場合、自動車事故と違って「自賠責保険」が適用されません。
自転車のライダーが任意に自転車保険に加入していなければ、賠償金は「全額」本人に請求するしかないのです。
このとき、自転車のライダーに支払能力がなければ、まったく補償を受けられなくなる可能性があります。
訴訟を起こしても、相手が無資力であれば取り立てができません。
また小学生や中学生などの未成年が、自転車事故を起こす可能性もあります。
子どもには資力がないケースが多いため、親に請求できない限り泣き寝入りになってしまうリスクも高くなります。
後遺障害等級認定の制度がないリスク
自転車事故では、歩行者が大けがをして後遺障害が残ってしまうケースも少なくありません。
しかし自転車事故では、自動車事故と違って「後遺障害等級認定」の制度が適用されません。
後遺障害の内容や程度、慰謝料の金額については、自分たちで話合って決めるしかないのです。
お互いに専門知識がなければ、後遺障害についての補償をいくらにすべきか判断しにくいでしょう。
自転車と歩行者の接触事故は弁護士に相談しよう
弁護士に依頼すれば、適切な慰謝料を請求できるし、示談交渉もお任せできるんだ。
自転車と歩行者の交通事故に遭って対応に困ったときには、弁護士に相談しましょう。
適正な賠償金額を算定してもらえる
自転車と歩行者が交通事故に遭ったとき、自転車保険が適用されなければ自分たちで賠償金額を決めるしかありません。
しかし素人同士では、適切に賠償金額を計算するのが極めて困難となるでしょう。
弁護士に相談すると、事案に応じた適正な賠償金額を算定してもらえます。
入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、休業損害や逸失利益など、正しく計算してもらえて正当な補償を受けやすくなるメリットがあります。
示談交渉を任せられる
自転車事故で相手と直接話し合おうとしても、相手が誠実に対応しないケースが少なくありません。
相手と連絡を取り合い交渉するのが大きなストレスになる方もおられます。
弁護士に示談交渉を依頼すると、自分で相手と話し合う必要はありません。
手間もかからず精神的にも楽になるでしょう。
示談が決裂したとき、訴訟も任せられる
自転車事故の加害者が誠実に対応しないなら、訴訟を提起しなければ前に進めません。
しかし自分1人で訴訟を起こすのは、極めてハードルが高くなるでしょう。
訴訟へ進めるのを諦めて、泣き寝入りしてしまう被害者も多数おられます。
弁護士に訴訟を任せれば、手間もかけずにきちんと権利を実現できるでしょう。
勝訴すれば裁判所が相手に支払い命令を出してくれるので、相手が不誠実な場合でも取り立てが可能となります。
ただし相手が無資力な場合には、勝訴しても支払を受けられない可能性があります。
そういったリスクが予想される場合には、訴訟提起前に弁護士からしっかり話を聞いて、提訴に踏み切るかどうか決断しましょう。
まとめ
歩行者は信号無視をしてしまったり、車道への急な飛び出しをすると、高い過失割合が割り当てられてしまうんだね。
弁護士に依頼すればスムーズな解決が可能だけれど、万が一の時に備えて、自転車保険に加入しておくのもおすすめだよ。
自転車と歩行者の交通事故では、基本的に歩行者の過失割合が低くなって自転車の過失割合が高くなります。
ただし歩行者であっても信号無視をしていると過失割合が上がるので、信号機による指示はきちんと守りましょう。
また自転車の加害者が自転車事故に入っていない場合、適切な補償を受けられないリスクも高まります。
困ったときには交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談をして、示談交渉や賠償金の請求の依頼を検討してみてください。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。