麻痺が残ってしまうと、どのくらいの慰謝料を受け取ることができるの?
今回の記事では、交通事故後に麻痺が残ってしまった場合に受け取れる慰謝料について、詳しく見ていこう。
交通事故でケガをすると「麻痺」が残ってしまうケースが少なくありません。
ときには全身を動かせなくなって全面的な介護が必要になってしまう方もおられます。
交通事故で麻痺が残った場合、後遺障害認定を受けて慰謝料を受け取れる可能性があるので、適切な方法で手続きを進めましょう。
今回は交通事故で麻痺が残りやすい傷病や認定を受けられる等級、慰謝料の金額などについて解説します。
交通事故後、麻痺症状に苦しんでいる方はぜひ、参考にしてみてください。
目次
交通事故により麻痺が残ってしまう傷病
それぞれどのような症状なのか、チェックしてみよう。
交通事故で麻痺が残ってしまうのは、主に神経や脳を損傷したケースです。
傷病名としては、以下の診断がつく場合が多数となっています。
脊髄損傷、頸髄損傷
脊髄は、背骨の中を通っている中枢神経、頸髄は、首の骨である頸椎内を通っている神経です。
脳から出た指令は頸髄や脊髄を通じて手足などの末梢神経に及び、全身に伝わります。
その中枢神経である頸髄や脊髄を損傷してしまうと、脳から身体への指令が伝わらなくなり、運動障害や感覚障害が発生します。
すると麻痺が残ってしまい、手足を動かせなくなったり嚥下機能が低下したりしてさまざまな症状が出ます。
脊髄損傷や頸髄損傷の症状
- 四肢の麻痺
手足を動かせなくなったり、温感や痛みなどの感覚が失われたりします。 - 排尿排便障害
排尿や排便をコントロールできなくなります。 - 嚥下障害
ものを飲み込めなくなる症状です。 - 呼吸機能障害
呼吸に困難が生じます。 - 自律神経機能障害
体温調節や心臓の鼓動など、生命を維持するために当たり前にしている活動ができなくなります。
脊髄や頸髄は一度傷つくと、二度と再生できないといわれており、完治が非常に困難です。
リハビリで多少の改善はみられますが、何らかの後遺症が残る可能性が高いでしょう。
外傷性脳損傷
外傷性能損傷とは、転落や交通事故などの外傷によって頭部を挫傷し、脳が損傷してしまうケガです。
軽ければ一時的な脳しんとうを起こした後で回復するケースもありますが、重大な障害が発生すると脳神経は元に戻りません。
全身にうまく指令を出すことができなくなって麻痺症状が発生する可能性があります。
麻痺の残る部分は損傷を受けた脳の部位によって変わります。
また脳損傷が発生すると、麻痺以外にも以下のような症状が起こるケースがあります。
- 認知障害
老年性の認知症と同じような障害が発生します。 - 記憶障害
記憶力が低下し、新しいことを覚えられなくなったり昔のことを思い出せなくなったりします。 - 失語症、失行症
これまで当たり前に話せていた言葉が出なくなったり、日常生活で当たり前にできていたことができなくなったりします。 - 性格の変化
怒りっぽくなる、ふさぎ込む、無気力になるなど性格に変化が生じるケースも少なくありません。
麻痺の分類
麻痺の症状は程度や内容によって分類されているので、以下でみていきましょう。
完全麻痺と不完全麻痺
完全麻痺は、脊髄等が完全に損傷して腕や脚などがまったく動かない状態です。
運動だけではなく知覚機能も失われます。
不完全麻痺は、脊髄の機能が一部残っている状態。
しびれや感覚障害はあっても少しであれば動かせる場合などです。
麻痺の程度による分類
麻痺の「程度」には
- 「高度麻痺」
- 「中等度麻痺」
- 「軽度麻痺」
の3種類があります。
高度麻痺とは
高度麻痺は、もっとも重症の麻痺です。
腕や脚の支える力や運動機能がほとんど完全に失われ、基本的な動作ができなくなります。
手足がほとんど動かない場合、自力で動かすのは不可能な場合などが該当します。
中等度麻痺とは
中等度麻痺は、腕や脚の支える力や運動機能が相当程度失われた状態です。
杖をつかないと歩けない場合、硬性器具がないと階段を上がれない場合、500グラム程度のものを持ち上げられない場合などが該当します。
軽度麻痺とは
軽度麻痺は、もっとも軽度の麻痺です。
腕や脚の支える力や運動機能が多少失われていても、基本的な動作自体は可能です。
動作の速度が遅くなったり、箸で物をはさんだり文字を書いたりする細かい動作ができなくなったりした場合が該当します。
麻痺の部位による分類
麻痺の部位による分類方法もあります。
- 四肢麻痺
両腕と両脚のすべてが動かなくなってしまう麻痺です。 - 片麻痺
右側の腕と脚、または左側の腕と脚など、片側の腕と脚に麻痺が残る状態です。 - 対麻痺
両腕または両足に麻痺が残った状態です。 - 単麻痺
四肢のうち1本に麻痺が残った状態です。
交通事故の後遺障害等級認定では、上記の「麻痺の種類」や「程度」「部位」によって等級が決まるので、まずは上記の分類を押さえておきましょう。
交通事故で麻痺が残った場合の後遺障害等級
介護が必要にはならない場合でも、麻痺の度合いによって、3級から12級に分類される事になるんだ。
交通事故で麻痺が残ると後遺障害として何級が認定されるのか、説明します。
1級1号(要介護)
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
- 高度の四肢麻痺
- 高度の対麻痺
- 中等度の四肢麻痺で、食事や入浴、用便、着替えなどについて常時介護が必要な場合
- 中等度の対麻痺で、食事や入浴、用便、着替えなどについて常時介護が必要な場合
2級1号(要介護)
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
- 中等度の四肢麻痺が認められるもの
- 軽度の四肢麻痺で、食事や入浴、用便、着替えなどについて随時介護が必要な場合
- 中等度の対麻痺で、食事や入浴、用便、着替えなどについて随時介護が必要な場合
3級3号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
- 軽度の四肢麻痺で、食事や入浴、用便、着替えなどについて随時の介護は必要でない場合
- 中等度の対麻痺で、食事や入浴、用便、着替えなどについて随時の介護を必要でない場合
5級2号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 軽度の対麻痺が認められる
- 1本の腕や脚に高度の単麻痺が認められる
7級4号
神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 1本の腕や脚に中等度の単麻痺が認められる
9級10号
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
- 1本の腕や脚に軽度の単麻痺が認められる
12級13号
局部に頑固な神経症状を残すもの
- 運動能力や支える力、細かい動作や速度などにつき、ほとんど支障はないけれど軽微な麻痺が残った
- 運動障害はないが、広範囲にわたって感覚障害が認められる
脊髄、頸髄損傷、脳障害で後遺障害認定を受けるために必要な検査や書類
必要な書類としては、後遺障害診断書や脊髄症状診断書、日常生活状況報告書などを用意する必要があるよ。
脊髄損傷や頸髄損傷、脳障害で麻痺が残ったとき、後遺障害認定を受けるには以下のような検査を受けて「後遺障害を証明」しなければなりません。
画像診断結果が必要
脊髄損傷等の後遺障害認定では「画像診断」の結果が非常に重視されます。
レントゲン、CT、MRIなどの画像検査により骨折などの他覚所見を確認できないと、後遺障害認定されないと考えましょう。
なおレントゲンとCTは骨などの硬い組織の異常を確認する検査、MRIは軟部組織の状態を確認するための検査です。
後遺障害認定を受けたければ、まずはしっかり医療機関で画像撮影をしてもらいましょう。
神経学的検査結果が必要
麻痺の症状が残った場合「神経学的検査」も重要です。
神経学的検査とは反射テストや感覚テストなど、手足の動きや感覚機能を調べる検査をいいます。
いろいろな種類があるので、患者の状況に応じたものを実施してもらう必要があります。
後遺障害診断書、脊髄症状判定用、日常生活状況報告書
後遺障害認定を受けるには、必須となる書類がいくつかあります。
後遺障害診断書
医師に作成してもらう診断書です。
一般の診断書とは異なり後遺障害の内容に特化しているもので、自賠責に専用書式があります。
神経学的検査の結果も後遺障害診断書に記載する必要があるので、正確に結果を反映してもらわねばなりません。
後遺障害診断書に書かれた内容次第で認定を受けられなくなったり等級が変わったりするケースも多々あります。
医師としっかりコミュニケーションをとって適切に作成してもらいましょう。
脊髄症状判定用
脊髄や頸髄の損傷により後遺障害認定を受ける場合、「脊髄症状判定用」という書類を別途提出しなければなりません。
こちらも医師に作成してもらう書類です。
ただ医師としても患者の訴えをもとに作成するので、正しく記載してもらうには普段から医師とのコミュニケーションを適切にとっておく必要があります。
日常生活状況報告書
患者の日常生活の状況を伝えるための書類です。
こちらは患者が自分で作成しなければなりません。
普段生じている不都合など正確に伝えなければ後遺障害認定されないおそれがあります。
必ずしも書式に従うだけではなく「文章による説明」を足してもかまわないので、慎重に作成しましょう。
後遺障害等級によって異なる慰謝料の相場
交通事故後の麻痺の症状で後遺障害認定を受けられたら、「後遺障害慰謝料」が支払われます。
これは、後遺障害が残ったことについての精神的苦痛に対する賠償金です。
認定される等級によって金額が異なるので、以下で確認しましょう。
認定等級 |
後遺障害慰謝料の金額(弁護士基準の相場) |
1級 |
2800万円 |
2級 |
2370万円 |
3級 |
1990万円 |
5級 |
1400万円 |
7級 |
1000万円 |
9級 |
690万円 |
12級 |
290万円 |
このように、後遺障害慰謝料の金額は認定された等級によって大きく異なります。
また上記で紹介した金額は「弁護士基準(法的な基準)」による相場。
任意保険会社の基準とは異なります。
被害者が任意保険会社と示談交渉するときには、上記より大きく減額されてしまうのが一般的なので、注意しましょう。
だいたい上記の2分の1~3分の1程度の金額を提案されるケースが多数です。
任意保険会社からの示談案をそのまま受け入れてしまったら、本来受け取れるはずの金額を受け取れず不利益を受けてしまう可能性が高まります。
示談案の提示を受けたら、署名押印する前に弁護士に相談して妥当性を確認してみてください。
まとめ
等級によってこんなにも慰謝料の額が違うなんて知らなかったよ!
交通事故に遭って麻痺症状が残ると、日常生活でも仕事上でも大きな支障が生じます。
自分で後遺障害認定の手続きを進めたり示談交渉したりするのは大変な負担となるでしょう。
後遺障害認定や保険会社との交渉は弁護士に任せると有利です。
弁護士が示談交渉に対応すれば高額な弁護士基準が適用され、慰謝料の金額もアップしますし精神的・肉体的にも楽になるでしょう。
交通事故で脊髄損傷、脳障害となって麻痺が残った場合には1度弁護士に相談してみてみるようお勧めします。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。