この3つを行わないと、罰則を受けてしまう事になるんだよ。
今回の記事では、交通事故を起こしてしまった場合、どのように対処しなければ罰則となってしまうのか、詳しく見ていこう。
交通事故の当事者となる場合、被害者とは限りません。
ときには自分が加害者として、交通事故を起こしてしまうケースもあります。
その場合、事故現場での加害者の義務があり、適切に対応しておかないと、後にさまざまな不利益を受けてしまうかも知れません。
また、「事故現場でやってはいけないこと」もあるので、押さえておきましょう。
今回は、「事故ったとき」の対処方法について、解説します。
事故を起こした人には「道路交通法上の義務」がある
交通事故を起こしてしまった場合、「道路交通法」によってさまざまな義務を課されます。
その内容は、以下の3つです。
- 被害者の救護義務
- 危険防止措置義務
- 警察への報告義務
これらの義務に違反すると、罰則も適用されるので注意が必要です。
被害者の救護義務
被害者の救護義務とは、交通事故の当事者(車両を運転していた人)が、事故現場の被害者を救護しないといけない義務です。
道路交通法72条1項前段に規定されています。
そこで、事故現場に怪我をしている人がいたら、応急処置をしたり救急者を呼んだりしないと法律違反になってしまいます。
危険防止措置義務
危険防止措置義務とは、交通事故の二次被害を防ぐため、事故を起こした人が事故現場の危険物を除去したり、後続の車に危険を知らせたりする義務です。
この義務も、被害者の救護義務と同様に、道路交通法72条1項前段に規定されています。
この義務は、「物損事故」を起こした人にも適用されるので、注意が必要です。
物損事故の場合、通常の対応をすると刑罰は適用されませんが、きちんと対応せずに「当て逃げ」をすると、違法行為となってしまいます。
警察への報告義務
交通事故を起こした人は、警察に通報する義務も負います。
この義務を報告義務と言います。
報告義務については、道路交通法72条1項後段に規定されています。
この義務も、人身事故はもちろんのこと、物損事故のケースでも適用されます。
そこで、事故を起こしたら、必ず警察を呼ばなければなりません。
「誰も見ていない」と思って走り去ると、「当て逃げ」となって罰則を適用されます。
被害者も「事故った」ら同じ義務を負う
ところで、こうした交通事故当事者の義務は、一般的に「加害者」の義務だと思われていることが多いです。
しかし、道路交通法は、上記の義務について「加害者の義務」に限定していません。
「当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員」と書いてあるだけです。
つまり、交通事故の当事者となっている車両や同乗している人には、加害者でも被害者でも同じだけの義務があるのです。
そこで、車とバイクが接触した場合や車同士が接触した場合などには、「自分は被害者ではないか?」と思われる場合でも、けが人を救護したり警察に通報したりしないと違法となってしまうので、注意が必要です。
ただし、自分の怪我の状態が酷く、倒れて動けない場合などにはもちろん何もしなくてかまいません。
加害者が救護して、救急車を呼んでくれるのを待ちましょう。
初期対応としてやるべきこと
そのまま逃げてしまうと、罪になってしまうから注意が必要だよ。
その後は、被害者の救助や警察への連絡などを行う必要があるよ。
以上を前提に、交通事故を起こしたらどのようなことをすべきか、望まれる初期対応を順番に確認しておきましょう。
まずは冷静になって停車
交通事故の当事者となったとき、最悪なのはその場を走り去ってしまうことです。
そのようなことをすると、上記のすべての義務に違反します。
「ひき逃げ」となり、重い罪が課されてしまうのです。
先ほども説明したように、被害者であっても義務はあるので、「被害者だし、急いでいるから」などと思って走り去るのもいけません。
まずは冷静になって、必ずその場で停車しましょう。
負傷者の救護、救急車の手配
次に、車を降りて、周囲に被害者がいないかを確認します。
相手の車両や歩行者など、怪我をしている人がいたら必ず応急措置を行いましょう。
必要があれば、すぐに救急車を呼ぶことも重要です。
危険防止措置をとる
被害者の救護を終えたら、事故現場の危険防止措置にとりかかります。
たとえば、周囲にガラスや車の鉄板の破片が飛び散っていたら、片付けましょう。
事故車両自身は動かして、路肩などに寄せておいた方がよいでしょう。
また、発煙筒を炊いたり、三角表示板を置いたりして、後続車両へ交通事故が起こったことを知らせましょう。
警察に連絡をする
そして、報告義務を絶対に忘れてはなりません。
このことは、後に被害者と示談交渉を行うためにも重要なポイントとなります。
近くに交番などがあったらそこに届け出ても良いですし、そういうことがなかったら、110番して警察を呼びましょう。
自分は安全な場所に退避する
ここまでできたら、後は警察が来るまで事故現場で待つことになります。
このとき、自分は安全な場所に退避することが重要です。
交通事故を起こした人や被害者は、事故現場で車道にいたり、高速道路で車がスピードを出して走っているすぐ横にいたりして、後に来た車にはねられて死亡する例などがあるからです。
危険防止措置をしていても、無視して事故現場に突っ込んでくる車両もありますから、警察を待っている間は、車の往来が少ない場所で待っているのがよいでしょう。
目撃者の確保
警察を待っている間、もう1つしておくべきことがあります。それは、目撃者の確保です。
交通事故では、後の刑事事件や被害者との示談交渉において、交通事故の状況が大きな問題となり、被害者と加害者の言い分が一致せずに揉め事になることも多いです。
そうなったときに、後から目撃者を探そうとしても、なかなかうまくいくものではありません。
そこで、事故を目撃していた人をその場で確保しておくことにより、後の刑事事件や民事の示談を有利に進められる可能性が出てきます。
事故相手との連絡先の交換
交通事故を起こした場合でも、自動車保険などの損害保険会社に加入していたら、加害者が被害者と直接示談交渉をすることはありません。
間に引受保険会社が入るためです。
ただ、そうは言っても被害者のお見舞いに行ったり謝罪をしたりする必要はあります。
また、保険契約をしていない場合には、自分で相手と交渉しなければなりませんし、相手が保険に入っていない場合、相手本人と示談交渉しないといけないのです。
そこで、事故現場では、必ず事故の相手と連絡先を交換しておきましょう。
氏名と住所、メールアドレス、連絡を取りやすい方法、加入している保険会社(任意保険と自賠責保険)を確認しておくべきです。
このとき、相手が名刺を持っていたら、名刺をもらっておくことをお勧めします。
名刺には勤務先の会社名や職業などが記載されているので、相手がどのような人かわかりますし、相手が支払いをしないとき(自分が被害者の場合)に取り立てをするための手段にもつながるからです。
実況見分に立ち会う
警察が到着したら、事故現場で「実況見分」が始まります。
実況見分とは、警察が事故現場を検証することです。
その結果、警察は「実況見分調書」を作成しますが、これは、交通事故の刑事事件の資料となります。
実況見分調書には、道路幅や車両の位置、方向や当時出していたスピード、天気などの状況が詳しく書かれており、詳細な図面も添付されます。
警察の実況見分調書は、事故現場にいる当事者や目撃者の説明にもとづいて作成されるので、事故時にどのような状況であったかを警察に正確に伝えることが重要です。
きちんと自分に有利な事情を伝えておかないと、相手の言い分によって実況見分調書が作成されてしまって、刑事事件で罪が重くなったり、示談交渉で自分の過失割合が高くなってしまったりする可能性があります。
周囲の写真撮影
警察の実況見分が行われる傍ら、自分でも事故現場の状況を保存しておくことをお勧めします。
実況見分調書も、100%正確にすべての事故現場の様子を残せるものではありません。
自分が気づいたことがあっても、証拠を残しておかないと、後になって誰も信用してくれないかも知れないからです。
そこで、事故車両の様子や周囲の状況、道路状況など、できるだけたくさん写真を撮っておきましょう。
たとえば、傷がついている箇所や道路幅、交差点の見通しなど、わかるように写真を撮っておくと、後に役立つことがあります。
写真を撮ったら、記憶が新しい間に、自分が気になったことをメモしておくことをお勧めします。
そうでないと、後になって「何の写真だったのか」「なぜこの写真を撮ったのか」がわからなくなってしまう可能性があります。
保険会社への連絡
実況見分への立会いが終わったら、早めのタイミングで自動車保険へ連絡を入れましょう。
保険証券を確認して電話をかけ、事故が起こったことと、事故の現場や状況、相手の氏名や相手の加入している保険会社などを伝えましょう。
そうすると、保険会社でその交通事故での担当者が決まり、後は保険会社が示談交渉を進めてくれるようになります。
事故が労災である場合には、労災保険の手続きも進めましょう。
自分自身も診察を受ける
交通事故に遭ったなら、自分も怪我をしている可能性があります。
特に、交通事故後は神経が高ぶっており、自分では痛みやしびれなどの自覚症状がないことも多いので、注意が必要です。
また、むちうちなどの場合には外傷はありませんが、身体の内部で異変が発生していることもあります。
そこで、事故に遭ったら、自分でも必ず病院を受診しておくべきです。
一般的な交通事故のケースなら整形外科に行くことが多いですが、頭を打った場合などには脳神経外科に行くと良いでしょう。
診療科が適切でない場合には、病院で検査をして、適切な診療科を紹介してもらうことができます。
道路交通法上の義務を守らなかったらどうなるのか?
最悪の場合、懲役30年という事もあるから、義務はしっかりと果たすようにしよう。
交通事故に遭った当事者には、加害者でも被害者でも、道路交通法上の義務が課されますが、この義務を守らなかったらどのようなことが起こるのでしょうか?
救護義務違反、危険防止措置義務違反
被害者の救護義務と危険防止措置義務は、セットの義務ですから、違反もセットとして扱われます。
人身事故で、これらの義務に違反すると、いわゆる「ひき逃げ」となり、以下の刑罰を適用されます。
10年以下の懲役または100万円以下の罰金
報告義務違反
警察への報告をしなかった場合にも、別途刑罰を適用される可能性があります。
刑罰は、以下の通りです。
3か月以下の懲役または5万円以下の罰金
当て逃げの場合
物損事故を起こして危険防止措置義務や報告義務を怠った場合、どのくらいの刑罰が適用されるのでしょうか?
この場合、以下の罪が適用されます。
1年以下の懲役または10万円以下の罰金(危険防止措置義務違反)
報告義務違反の罪は、ひき逃げのケースと同様です。
3か月以下の懲役または5万円以下の罰金
交通事故の罪と併合罪になる
上記のように、ひき逃げをしたり警察に通報しなかったりすると、刑罰を適用される可能性がありますが、実は交通事故加害者に適用される罪は、これだけでは済みません。
交通事故の加害者(人身事故)には、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪と言って、自動車運転に関する罪も適用されるからです。
過失運転致死傷罪や棄権運転致死傷罪の関係は「併合罪」となります。
併合罪になると、重い方の罪の刑罰の長期が1.5倍となるのです。
その結果、たとえば死亡事故でひき逃げをすると、最悪30年までの懲役刑を適用される可能性も出てきます。
そのようなことが絶対無いように、必ず事故現場で適切な対応をとることが重要です。
事故った時にしてはいけない事
なぜその場での示談がNG行為となるのか、詳しく説明するね。
交通事故を起こしたときに、絶対にしてはいけないことについて、ご説明しておきます。
その場で示談してはいけない
交通事故現場でありがちなNG行為として「その場での示談」があります。
交通事故を起こすと、気持ちが焦ってしまって、「事故をなかったことにしてしまいたい」という気持ちになるものです。
また「刑事事件になったらどうなるのか?懲役刑になる?」「莫大な賠償金が発生したら払えないかも」「運転免許の点数が上がって免許取消になるかも」などと、さまざまな心配が頭をよぎります。
そこで、被害者に対し、「この場で示談してお金を払うから、警察を呼ばないで終わらせよう」と言ってしまうのです。
このようなことを言い出すのは、特にタクシードライバーや運送業者など、車の運転を仕事にしている方に多いです。
これらの方の場合、交通事故を起こしたとなると、会社にも迷惑をかけることになりますし、評価にも直結します。
また、運転免許を停止されたり取り消されたりすると、明日から仕事ができなくなります。
そこで、その場でまとまったお金を支払ってでも、交通事故をもみ消そうとしてしまうのです。
しかし、そのようなことは絶対にしてはいけませんし、被害者の場合、そのような申出を受けてはいけません。
それでは、もしもその場で示談してしまったら、どうなるのでしょうか?
報告義務違反となる
先にも説明した通り、警察への事故報告義務は、被害者と加害者双方の義務です(ただし、歩行者をのぞく)。
そこで、その場で示談して警察を呼ばなかったら、報告義務違反となり、罰則を適用される可能性があります。
被害者だから許してもらえる、というわけにはいきません。
加害者の場合
加害者の場合には、その場で示談をしてお金を支払っても、それで示談が集結するとは限らないという問題があります。
たとえば、被害者が後に「より重大な損害が発生した」と言い出して、示談を無効だと主張する可能性があります。
つまり、事故現場でまとまったお金を支払っていても、さらに損害賠償をされる可能性があるということです。
このようなとき、警察に届出をしていないと、交通事故証明書が発行されません。
すると、保険会社が対応してくれないので、保険利用ができません。
その結果、示談交渉をしてもらうこともできませんし、示談金や保険金請求もできません。
最悪の場合、加害者が自腹で被害者に賠償金を支払わなければならない可能性も出てきます。
被害者の場合
被害者の場合にも、その場で示談すると悲惨な状況となる可能性があります。
事故現場で示談をしても、後になって「思ったより重傷だった」ということはあります。
すると、治療期間も長引きますし、仕事もできなくなります。
後遺障害が残るかも知れません。
しかし、事故現場で示談してしまっているので、「もはや追加の請求は受け付けない」と言われてしまう可能性が高くなります。
そうなったら、自腹で治療費を支払わなければならない上、一生後遺障害を抱えて、賠償金も無しで生きていかないといけないのです。
相手に損害賠償したい場合には裁判しないと難しくなりますが、必ず勝てるとは限りません。
たとえ受け取った示談金よりも、車屋に支払う修理代の方が高くても、後から請求する事もできないのです。
このように、その場で示談交渉をすると、加害者にとっても被害者にとっても良いことは1つも無いので、絶対に辞めておきましょう。
まとめ
安全運転を意識しているつもりでも、交通事故を起こしてしまった場合には正しい対処法を知っておく事が大切なんだね。
不安を感じる場合には、弁護士事務所に相談してみよう。
今回は、「事故ったとき」の対処方法について解説しました。
道路交通法上の義務を理解して、事故現場で適切に対応するようにしましょう。
交通事故に遭って困ったときには、弁護士に正しい対応方法を相談することをお勧めします。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。