交通事故の示談交渉を専門家に依頼する場合、弁護士、司法書士、行政書士のどの専門家に依頼すれば良いの?
弁護士、司法書士、行政書士は、それぞれできる業務が異なるんだ。
だから依頼したい内容によって、専門家を選ぶと良いね。
今回の記事では、弁護士、司法書士、行政書士のそれぞれの違いとメリットについて、詳しく見ていこう。
交通事故に遭った場合、被害者が自分で示談交渉を進めると不利になりやすいので、弁護士などの専門家に対応を任せる方が多いです。
交通事故トラブルを相談する専門家としては、弁護士、司法書士、行政書士が考えられますが、これらの専門家は、何が違うのでしょうか?
今回は、交通事故の示談交渉を相談できる専門家の違いと、誰に相談するのがもっとも良いのか、ご説明します。
目次
交通事故を相談できる専門家の種類と特徴
交通事故トラブルを相談できる専門家
交通事故に遭ったとき、被害者が自分で加害者保険会社の示談担当者と交渉をすると不利になりますし、示談交渉は非常にストレスが溜まるものです。
また、後遺障害等級認定の手続きなど、被害者が自分で適切に進めることが難しいこともあります。
そこで、交通事故の被害に遭ったら、できるだけ早めに専門家に相談に行き、対応を依頼してしまった方がいろいろな意味で有利になりやすいです。
しかし、ひと言で「専門家」と言っても、さまざまです。
従来は、交通事故を相談する専門家というと「弁護士」か「行政書士」であることが多かったのですが、最近では「司法書士」も交通事故の相談を受けるようになっています。
交通事故トラブルを相談業務として取り扱っている専門家は、以下の3種類です。
- 弁護士
- 司法書士
- 行政書士
しかし、一般的には、弁護士と行政書士、司法書士のそれぞれの専門家の違いが理解されておらず、一体誰に何を頼んで良いか、わからないということもあるでしょう。
実は、上記の3種類の専門家は、取り扱える事件の種類や与えられている権限が大きく異なります。
交通事故問題を、権限の小さい専門家に依頼しても「できない」と断られる可能性が高くなるので、注意が必要です。
以下で、それぞれの専門家の違いや特徴、権限の範囲をご説明します。
行政書士とは
以下では、権限の範囲が小さな専門家から順番にご紹介していきます。
行政書士は、3種類の専門家のうち、もっとも権限が小さい職業です。
行政書士には「代理権」が一切認められないからです。
行政書士というのは、もともと行政文書の代書屋です。
たとえば、国や地方自治体などの行政機関に提出する各種の許認可の書類などを作成する仕事が多いです。
この範囲を超えて、行政書士が被害者の代理人として相手と交渉することはできませんし、相手ともめてしまったときに、訴訟を起こすこともできません。
相手から訴えられた場合の弁護活動(訴訟代理)なども、当然認められません。
行政書士にできるのは、依頼者の相談にのって一般的なアドバイスをしたり、後遺障害認定申請の書類を代理で作成したりすることです。
ただ、このように権限の範囲が小さい分、費用は3種類の専門分野の中でもっとも安くなります。
司法書士とは
次に、司法書士について、見てみましょう。
司法書士は、今や「法律家」というイメージも強くなっていますが、もともとは「登記の専門家」です。
つまり、法務局で不動産に関する登記や会社に関する商業登記などをするのが、司法書士の仕事でした。
今でも、こうした登記業務は司法書士が独占的に取り扱っています。
ところが平成14年、法曹人口不足などが問題となり、司法書士にも、一部弁護士が取り扱ってきた法律業務が解禁されました。
これにより、司法書士は、140万円以下の金銭請求事件であれば、代理権をもって交渉することができるようになりました。
ただし、どの司法書士でも代理権が認められるわけではなく、きちんと必要な研修を受けて、法務大臣によって認定された「認定司法書士」にのみ、この権限が解放されています。
最近では、よく司法書士事務所が「過払金請求」のCMを流していますが、これは、上記の制度改革により、認定司法書士が140万円以下の金銭請求事件を取り扱えるようになったからです。
それまでは、司法書士が債務整理業務に取り組むことは認められていませんでした。
また、条規の制度改革により、簡易裁判所での訴訟代理権も認められたので、司法書士は、本人の代わりに簡易裁判所で訴訟を進めることもできるようになっています。
少額の交通事故なら、司法書士でも訴訟対応ができると言うことです。
司法書士は、行政書士よりは依頼費用が高額になることが多いですが、次に説明する弁護士よりは安くなることが多いとされます。
弁護士とは
弁護士は、昔から、あらゆる法律問題の処理権限を認められてきた、オールマイティな法律家です。
債務整理、離婚、企業法務、不動産などあらゆるジャンルの法律問題を取扱い、解決に導きます。
もちろん、交通事故も取り扱います。
また、本人の代理権を有しており、司法書士のような限度額もないので、請求金額がいくらになっても、代理で請求することができますし、請求を受けたときの代理も可能です。
簡易裁判所だけではなく、あらゆる裁判所における訴訟代理権をもっているので、どの裁判所で事件が起こっても対応可能です。
たとえば、地方裁判所の事件や、控訴して高等裁判所に事件が移ったとき、上告して最高裁判所で争うときなどにも、弁護士であれば対応できます。
このように、弁護士は3種類の専門家の中で、もっとも権限が大きいです。
その分費用は高額になりやすいとも言われますが、司法書士や行政書士とは、そもそも依頼できる内容が全く異なるので、費用だけを同列で比べるのは、正確でないとも考えられます。
交通事故で、それぞれの専門家が対応できること
交通事故に遭ってしまった場合、それぞれの専門家には、何を依頼することができるの?
弁護士の場合には、交通事故に関するすべてをお任せすることができるけれど、司法書士の場合には、140万円以下の損害賠償額まで、行政書士は、書類の作成までと決められているんだよ。
それぞれ詳しく説明するね。
次に、交通事故で、それぞれの専門家が対応できる業務内容を、見ていきましょう。
行政書士に依頼できること
行政書士は、書類作成の専門家です。
そこで、交通事故で必要な書類の作成であれば、どのようなものでも依頼することができます。
たとえば、加害者に対する損害賠償請求書(内容証明郵便)や、後遺障害認定請求の被害者請求用書面、後遺障害の異議申し立ての書類作成などが主な業務です。
ただし、行政書士には代理権がないので、被害者の代わりに後遺障害等級認定手続きを進めたり、示談交渉をしたりすることはできません。
手続を進めたり、示談交渉をしたりするのは、あくまでも「本人」となります。
後遺障害等級認定が得意な行政書士も多いのですが、その場合でも「書類作成」を援助しているだけで、被害者請求や異議申し立ての手続を進めるのは、被害者本人となるので、注意が必要です。
司法書士に依頼できること
司法書士に依頼できるのは、140万円以下の損害賠償請求です。
140万円以下の損害額であれば、示談交渉だけではなく訴訟にも対応できます。
司法書士には、簡易裁判所の代理権があるからです。
しかし、一審が140万円以下であっても、控訴審は地方裁判所になるので、司法書士が対応することはできなくなります。
行政書士に対し、後遺障害認定請求用の書類などの作成を依頼することも可能ですし、調停やADRを司法書士に依頼することもできます。
弁護士に依頼できること
弁護士には、およそ交通事故に必要なあらゆることを依頼できます。
たとえば、交通事故証明書の取り寄せや加害者に対する請求書(内容証明郵便)の作成と発送、引き続いての加害者との示談交渉、加害者の保険会社との示談交渉など、すべて問題なく行えます。
請求額に限度もありません。
また、損害賠償請求訴訟も代理で進めることができます。
この場合にも、請求金額に限度がなく、地方裁判所や高等裁判所、最高裁判所の事件においても代理権を持っています。
もちろん、調停やADRの代理権も持っていますし、本人の代わりに後遺障害等級認定請求をしたり、異議申し立て手続を進めたりすることも可能です。
それぞれの専門家に依頼するメリットと依頼すべき場面
専門家それぞれのメリットを教えて!
行政書士や司法書士は、費用が安く、親しみやすいという事、弁護士のメリットは、慰謝料が高額になるという事がメリットだね。
次に、それぞれの専門家に依頼するメリットと、依頼すべきシーンを、紹介していきます。
行政書士に依頼するメリットと依頼すべきシーン
行政書士に依頼するメリットは、以下の通りです。
費用が安い
まずは、費用が安いことです。
行政書士に書類作成を依頼する場合、数万円でおさまることが多いです。
弁護士や司法書士に依頼すると、成功報酬が発生して10万円~数十万円以上発生することもあるので、それと比べるとメリットがあると言えるでしょう。
親しみやすい
法律家に相談に行くというと、どうしてもかまえてしまう方が多いのですが、行政書士は「町の身近な法律家」などと宣伝していることも多いですし、実際敷居が低く、相談しやすいです。
後遺障害認定が得意な人が多い
行政書士は、昔から交通事故の後遺障害認定を得意としている方が多いです。
知識も豊富で、弁護士よりも後遺障害認定に力を入れている人もたくさんおられますし、実績の高い方もいます。
そこで、後遺障害認定や異議申し立ての手続きであれば、そういった仕事を得意とする行政書士に依頼すると、認定を受けやすくなることがあります。
ただ、行政書士の業務内容は千差万別で得意分野と不得意分野の差が激しいので、特に後遺障害認定に強く、経験のある行政書士を探して依頼する必要があります。
小さい事故でも交通事故直後でも対応してもらえる
交通事故には、小さい事故から大きい事故までさまざまなものがありますが、小さい事故の場合、弁護士は対応してくれない傾向があります。
行政書士ならば、そのようなことはなく、小さい事故でも親身になってくれることが多いです。
また、交通事故直後の段階や後遺障害認定前の段階では、弁護士や司法書士は対応に積極的でないことがありますが、行政書士ならそういった時期でも被害者の立場になって、対応策を考えてくれます。
行政書士に依頼すべきシーン
行政書士に依頼すべきケースは、以下のような場合です。
- 小さな事故で、とりあえず対処方法を知りたい
- 被害者請求の書類を作成してほしい
- 後遺障害の等級認定を受けたい(示談交渉は、別途弁護士に依頼する予定)
- 事故直後の段階で、とりあえず専門家に今後の対応方法について、相談しておきたい
司法書士に依頼するメリットと依頼すべきシーン
次に、司法書士に依頼するメリットと依頼すべき場面を見てみましょう。
弁護士より敷居が低い
一般的に、弁護士というと敷居が高く、相談しづらい、という方もいらっしゃいますが、司法書士は行政書士と同様、比較的身近であり、気軽に相談しやすいです。
費用が安め
司法書士の場合、請求金額が小さいこともあり、弁護士ほど費用がかからないこともあります。
ただ、それは請求金額や回収金額が小さいからであり、同一の条件だとさほど変わらないケースもありますし、むしろ、弁護士の方が良心的な例もあるので、きちんと調べてから依頼されることをお勧めします。
小さい事故でも引き受けてもらいやすい
司法書士が対応できるのは140万円までの事故ですから、比較的小さな事故に限られます。
そこで、弁護士はあまり引き受けたがらないような小さな事故の場合、司法書士の方が親身になって対応してくれることがあります。
司法書士に依頼すべきシーン
司法書士に依頼すべきシーンは、以下のような場合です。
- 物損事故、後遺障害が残らなかったケースなどの小さな事故
- 自分で示談交渉を進めるのが苦痛な場合
- 簡易裁判所で訴訟を起こしたい、あるいは起こされた
弁護士に依頼するメリットと依頼すべきシーン
次に、弁護士に依頼するメリットと、依頼すべきシーンをご紹介します。
どのようなことでも対応してもらえる
弁護士に依頼するメリットの1つ目は、弁護士であれば、交通事故に関するあらゆることに対応してもらえることです。
行政書士のように、各種の書類を作成することもできますし、司法書士のように、示談交渉をすることも可能です。
弁護士の場合、限度額がないので、数千万円、一億円を超える請求をする場合でも、示談交渉や訴訟に対応してもらえます。
また、調停やADRでの紛争解決業務、簡易裁判所、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所など、どのような機関で何の手続をとる場合でも、代理人として行動してもらうことができます。
被害者が矢面に立つ必要が一切ないので、とても気持ちが楽になります。
慰謝料が高額になる
弁護士に依頼する大きなメリットの2つ目は、慰謝料やその他の賠償金が高額になることです。
それにはいくつか理由がありますが、1つには「裁判基準」が適用されることが挙げられます。
交通事故の賠償金計算基準には、裁判基準と任意保険基準、自賠責基準があり、被害者が自分で示談交渉をすると、低額な任意保険基準が適用されて、賠償金が低く抑えられてしまいます。
弁護士に依頼すると、もっとも高額な裁判基準が適用されるので、それだけで慰謝料が大きくアップします。
たとえば後遺障害慰謝料は、多くのケースで2~3倍になりますし、死亡慰謝料も1,000万円程度、高くなることが多いです。
弁護士に依頼すると弁護士費用がかかると言われますが、実際には弁護士費用を払ってでも弁護士に依頼した方が、結果的に返ってくるお金の金額が大きくなります。
2度手間にならない、かえって費用が安くなる
当初に行政書士や司法書士に依頼した場合、それだけでは解決できず、結局は弁護士に依頼しなければならないケースがあります。
たとえば、行政書士に後遺障害認定を依頼して実際に等級認定を受けられたとき、行政書士は示談交渉を代理で進めることができないので、弁護士を探して依頼しなければなりません。
司法書士に対応を依頼した場合にも、後遺障害認定を受けられて請求額が140万円以上になってしまったり、裁判を起こして控訴したので事件が地方裁判所に移ってしまったりすると、もはや司法書士に慰謝料は依頼できないので、弁護士を探すしかありません。
このように、途中で専門家を変えることは非常に手間ですし、2重に費用がかかり、かえって高額になる危険性もあります。
そのようなことであれば、当初から弁護士に任せていた方が、費用的にも労力的にもメリットが大きいことも多々あります。
そこで、ある程度以上の事故であれば、当初から弁護士に対応を任せる方が良いでしょう。
ただ、後遺障害認定については後遺障害が得意な行政書士に依頼して、示談交渉は弁護士に依頼する、という、両立てで手続きを進める方法もあります。
弁護士に依頼すべきシーン
弁護士に依頼すべきシーンは、以下のような場合です。
- 示談交渉で、なるべく高額な慰謝料や賠償金を獲得したい
- 後遺障害認定請求をしたい
- 保険会社が提示している慰謝料に納得できない
- 保険会社が提示している過失割合に納得できない
- 保険会社が治療費を打ち切ると言ってきて、困っている
- 交通事故についての全般的なアドバイスを受けたい
- 相手に損害賠償請求訴訟を起こしたい
- 相手が無保険なので困っている
以上のように、どのようなシーンにも幅広く対応してくれて、慰謝料も増額させてくれるのは弁護士です。
交通事故に遭って、対応に困ったときは、とりあえず弁護士に相談に行くと良いでしょう。
まとめ
専門家3つの違いについて、良く分かったよ!
費用が高いから弁護士は避けていたんだけれど、実際には、弁護士に依頼する方が、安心なんだね。
交通事故の状況に応じて専門家を選んでみよう。
事務所選びをする時には、それぞれの法律事務所で、法律相談を利用すると安心だね。
契約書を交わしていなければ、着手金などの費用がかかってしまう事はないから、まずは無料相談を利用するのがお勧めだよ。
行政書士と司法書士、弁護士は、一般的に混同されることも多いのですが、実際には全く異なる資格です。
3つの中で、もっとも大きな権限を持ち、どのような場面にも対応できるのは、弁護士のみです。
特に、一定以上の規模の事故で、慰謝料などの賠償金を増額させたい場合には、弁護士に依頼することが必須と言えるでしょう。
もしも交通事故に遭って誰かに相談したいとお考えならば、まずは交通事故に強い弁護士を探して相談の申込みをされることをお勧めします。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。