交通事故の示談交渉を、無料で弁護士に依頼できる場合があるって本当?
弁護士特約を利用した場合だね!
自動車保険の契約に、オプションとして弁護士特約をつけていれば、費用をかけずに弁護士に依頼することが出来るんだよ。
弁護士特約はどんな時に利用できるの?
よし!では早速弁護士特約について、詳しく見ていこう。
交通事故に遭ったとき、弁護士費用特約を利用すると自動車保険会社が弁護士費用を負担してくれるので、被害者は気兼ねなしに弁護士に依頼できます。
ただ、具体的にどのようなときに弁護士費用特約が適用されるのか、知らない方が多いのではないでしょうか?
今回は、弁護士費用特約を利用すべきタイミングや、特約によってどこまでの補償を受けられるのか、特にメリットの大きいケースはどのような場合かなど、解説していきます。
目次
弁護士費用特約とは
そもそも弁護士費用特約とはどのようなものか、理解しておきましょう。
弁護士費用特約は、交通事故に遭ったときに必要な弁護士費用を保険会社や損保会社が負担してくれる特約です。
交通事故の被害者が弁護士に相談するときの法律相談料や、示談交渉等を依頼するときの着手金、報酬金、実費などの費用が保険によってまかなわれます。
保険の限度額以内であれば、被害者は弁護士費用を払う必要がありません。
また、保険の限度額を超える場合でも、超える金額だけを支払えば良いので被害者の負担額はかなり小さくなります。
弁護士特約を利用するタイミング
弁護士特約はいつ使うのがお勧めなの?
交通事故を起こしてしまったら、すぐに申請をするのがお勧めだよ。
弁護士費用特約は、どのようなタイミングで利用するのがよいのでしょうか?
交通事故に遭った直後
交通事故に遭ったらすぐに弁護士費用特約の適用を申請しましょう。
事故直後に弁護士に相談をしておくと、その後の流れを把握できて要所要所で適切に対応できますし、安心感も得られるからです。
1人で悩み、自己判断で対応すると、後になってさまざまな不利益が及ぶ可能性があるので、なるべく早めに弁護士費用特約を使って相談しておく方が良いです。
示談交渉を依頼したいとき
交通事故で、相手の保険会社と示談交渉をするときには、必ず弁護士費用特約を使って弁護士に依頼しましょう。
交通事故では、弁護士が示談交渉をすると高額な「弁護士基準」が適用されるので、それだけで慰謝料などの賠償額、示談金が一気に増額されるからです。
弁護士費用特約を使ったら、被害者には費用負担が発生しないのに(もしくは軽くなる)得られる利益が大きくなるので、弁護士に依頼しないと損です。
訴訟をしたいとき
交通事故後、加害者との示談交渉が決裂してしまったら、損害賠償請求訴訟が必要になるケースがあります。
この段階でまだ弁護士費用特約を使っていないのであれば、早急に特約を使って弁護士に相談しましょう。
訴訟を被害者1人で進めると非常に不利になってしまうからです。
特約を利用したら弁護士費用の負担はなくなるか非常に軽くなるのですから、利用しない理由がありません。
「こんな小さな事故なら、弁護士に相談するほどではないのでは?」と思う被害者の方もおられますが、そのようなことを考えるべきではありません。
むしろ小さい事故でこそ、弁護士費用特約を利用するメリットが大きくなるので、遠慮せずに適用しましょう。
弁護士費用特約のメリットが大きくなるケース
どんな事故の時に弁護士特約を使うのがお勧めなの?
小さい事故でも大きい事故でも、弁護士特約を使った方がメリットは大きいんだよ。
交通事故の中でも特に弁護士費用特約のメリットが大きくなるのはどういうケースか、ご紹介します。
物損事故や小さな交通事故
物損事故や小さな人身事故の場合、弁護士費用特約を利用せずに普通に弁護士に依頼すると、得られる利益よりも弁護士費用の方が高額になる可能性があります。
すると、弁護士に依頼しても損になってしまうので、多くの方はわざわざ弁護士に依頼しません。
一方、弁護士費用特約を適用すると、必要な弁護士費用は全額保険会社が支払ってくれるので、被害者の自己負担はありません。
弁護士が介入したことによって増額された賠償金は、全額被害者が受け取ることができます。
そこで、物損事故や小さい人身事故の場合には、弁護士費用特約を利用するメリットが大きくなります。
加害者が無保険
交通事故で、加害者が無保険(任意保険に未加入)のケースがあります。
この場合、弁護士に対応を依頼しないと適正な賠償金を払ってもらうことは困難です。
示談交渉に誠実に対応しない加害者もいますし、話合いが出来たとしても、被害者も加害者も素人なので、正しい損害賠償金の計算方法がわからないことなどが多いからです。
しかし、加害者が無保険だと、弁護士に依頼しても損になってしまう可能性も高いことも事実です。
加害者に保険会社がついていれば、決まった賠償金は必ず保険会社が支払いますが、加害者が本人の場合には、「お金がないから支払えない」などと言ってくることがあるからです。
相手に支払能力がない場合には、たとえ裁判を起こしても賠償金を払わせることができません。
最終的に自己破産をされたら1円も回収できない可能性もあります。
すると、支払った弁護士費用はすべて無駄になります。
ここで弁護士費用特約を適用すると、弁護士費用については保険会社が支払いをしてくれるので、被害者が自分で負担する必要はありません。
最悪、相手から賠償金の支払を受けられなかったとしても、弁護士費用分の損失が発生する心配がないので、気楽に弁護士に対応を依頼できます。
大きな交通事故の場合
それでは、相手が保険に入っていてある程度大きな交通事故であれば、弁護士保険特約を利用するメリットがないのでしょうか?
そういうことではありません。
事故が大きい場合にも、弁護士費用特約の限度額までは弁護士費用を支払わなくて良いので、増額された賠償金のうち、被害者がもらえる分が増えるからです。
たとえば弁護士が介入したことによって300万円分賠償金が増額され、60万円の弁護士費用が発生したとします。
このとき弁護士費用特約を利用しなければ、60万円を差し引いた240万円が被害者の利益となります。
一方、特約を利用すれば300万円を丸々被害者が取得できるのですから、メリットがあることは明らかです。
以上のように、弁護士費用特約は、あらゆる交通事故で利用するメリットのある保険です。
もしも自動車保険に弁護士費用特約をつけているならば、忘れずに利用しましょう。
弁護士特約を利用するメリット、デメリット
弁護士特約を使うと、何かデメリットはあるの?
弁護士特約のオプションをつけると、その分保険料が上がってしまうというデメリットがあるね。
弁護士特約のメリットとデメリットを詳しくチェックしてみよう!
以下では、弁護士費用特約を利用するメリットとデメリットを紹介します。
メリット
相手から得られる賠償金額が高額になる
1つ目のメリットは、弁護士費用特約を使って弁護士に依頼することにより、加害者から獲得できる賠償金の金額が大きく増額されることです。
交通事故の損害賠償金請求で高額な賠償金を獲得するためには、後遺障害認定を受けること、示談交渉で法的な基準である裁判基準で賠償金を計算すること、過失割合を適正にあてはめることの3点が重要です。
被害者自身が自分で対応すると、適正に後遺障害認定を受けられないことも多いですし、裁判基準より低い「任意保険基準」という基準によって賠償金が計算されてしまいます。
また、被害者側に過大な過失割合を割り当てられて大きく過失相殺されてしまい、賠償金が減額されることも多いです。
これに対し、弁護士に依頼すると、後遺障害認定を受けやすくなりますし、高額な裁判基準によって賠償金を計算できます。
また、過失割合についても適正な基準で判定するので、一気に獲得できる賠償金がアップします。
被害者の手取り額が増額される
弁護士費用特約を利用すると、利用しないケースよりも被害者の手取り額が上がります。
通常の事案であれば、賠償金が増額されたとしても、そこから弁護士費用を支払わないといけないので、被害者の手取り額は減ります。
これに対し、弁護士費用特約を適用すると、限度額までの弁護士費用は保険会社が支払ってくれるので、被害者の手取り金額が大きく増額され、大きなメリットを得られます。
精神的に楽になる
交通事故の被害者は、大きな精神的ストレスを抱えるものです。
特に後遺障害が残って身体が不自由になると、生活状況も大きく変わり理不尽さを感じることも多いですし、加害者との示談交渉も過度な精神的負担になりがちです。
このようなとき、弁護士費用特約を利用して弁護士に対応を依頼すると、味方になってくれる人ができたことや、加害者の保険会社と自分で話をしなくて良くなった解放感で、ストレスが大きく軽減されます。
デメリット
保険料が上がる
弁護士費用特約のデメリットは、自動車保険の保険料が上がることです。
保険会社にもよりますが、だいたい年額1200円~1500円程度上がることが多いです。
ただ、年に1500円程度で大きな安心を得られるのですから、さほど大きなデメリットとは言えないでしょう。
等級は下がらない
弁護士費用特約を利用すると、「保険の等級が下がる」と思われていることがあります。
しかしそのようなことはありません。
翌年から保険料が上がることはないので、安心して特約を利用しましょう。
弁護士は誰が選ぶのか
弁護士を選ぶ場合には、保険会社が決めるの?
ほとんどの場合、保険契約者が弁護士を決める事になるから、交通事故案件に強い弁護士へ依頼するようにしよう。
弁護士保険特約を利用するとき、相談する弁護士を選べるのかが問題です。
交通事故の対応は、なるべく交通事故に強い弁護士に依頼すべきだからです。
多くの場合、被害者が自分で弁護士を選べます。
たとえばウェブなどで交通事故に強い弁護士を探して委任契約を締結し、保険会社に報告すれば保険会社と弁護士が連絡を取り合って保険会社がその弁護士に費用を支払ってくれます。
自分でなるべく交通事故に強そうな弁護士を選びましょう。
弁護士特約を利用できる条件
弁護士特約が使えない事もあるの?
契約者に重過失があった場合には、弁護士特約を利用できない事もあるんだよ。
弁護士費用特約は、以下のようなときに利用できます。
- 被保険者が交通事故に遭ったとき
- 被保険者の配偶者が交通事故に遭ったとき
- 被保険者の同居の親族が交通事故に遭ったとき
- 被保険者の別居の子ども(未婚)が交通事故に遭ったとき
- 契約自動車に乗車していたとき
たとえば歩行中や自転車に乗っているときに自動車に接触されて怪我をした場合にも特約が適用されますし、契約自動車以外の自動車(友人の車やタクシー、バスなど)に乗車していて交通事故に遭った場合にも特約を利用できます。
被保険者だけではなく、配偶者や同居の親族、別居している未婚の子どもなどにも適用されます。
自分が弁護士保険特約に加入していなくても、事故に遭ったとき乗車していた自動車が弁護士費用特約をつけている場合にも、その特約を利用することが可能です。
このように、弁護士費用特約が適用される場面はとても広いので、交通事故に遭ったときには自分の加入している保険の特約だけではなく、家族が加入している保険の内容なども見直してみることが大切です。
弁護士特約が利用できない場合とは
反対に、弁護士費用特約を利用できないケースもあるので、みておきましょう。
- 被保険者の故意や重過失によって、本人に発生した損害
- 無免許運転や薬物などの影響で正常に運転ができないおそれがあるのに運転したため本人に発生した損害
- 酒気帯び運転などによって発生した本人の損害
- 闘争行為や自殺行為、犯罪行為によって、本人に発生した損害
- 被保険者が、記名保険者や家族、父母、配偶者または子ども、契約自動車の所有者に対して損害賠償請求をする場合
- 台風や洪水、高波によって発生した損害
- 被保険者の財物の欠陥や摩滅、腐しょく、さびなどによって発生した損害
- きちんと正規の乗車方法で乗車していなかった場合や、異常かつ危険な方法で乗車していた場合
- 日常の事故など、交通事故ではない場合
- 自転車同士の事故や自転車と歩行者の事故など
このように、本人に問題がある場合や天変地異の場合、日常生活の事故など自動車事故ではない事故の場合などには、弁護士保険特約の適用はありません。
また、保険会社によっては「事業用の自動車」を運転していたときの交通事故には弁護士費用特約を適用できないと定められていることもあります。
本人に過失があっても特約を利用できる
上記を見ると、被保険者本人に「重過失」があると、弁護士費用特約を利用できないことになっています。
そこで、2割や3割程度の過失がある場合にも、特約を利用できないと思ってしまう被害者の方がおられます。
しかし、重過失というのは「故意と同視できるほど重大な過失」です。
たとえば酒酔い運転や居眠り運転、無免許運転などが重過失の例です。
通常の2割や3割程度の過失の場合には、問題なく弁護士費用特約を利用できるので、積極的に活用しましょう。
弁護士費用の支給上限額(限度額)とは
弁護士特約には制限ってあるの?
弁護士費用が300万円までとなっている保険会社が多いよ。
だけどほとんどの場合、そこまで大きな額になってしまう事はないから、心配いらないよ。
弁護士費用特約には、「限度額」があり、限度額を超える場合には超えた部分を被害者が自己負担しなければなりません。
多くの保険会社において、法律相談費用については10万円、示談交渉などの依頼については300万円が限度となっています。
そこで、大きな事故等の場合、弁護士費用が300万円を超えて被害者に自己負担が発生する可能性があります。
弁護士特約の利用方法
弁護士特約を利用する場合には、まずは何をすれば良いのかな?
保険会社に弁護士特約を利用すると伝えた上で、弁護士探しをしよう。
弁護士費用特約を利用する手順をご紹介します。
まずは交通事故後、保険会社に対して「弁護士費用特約を利用したい」と申し出ましょう。
すると、多くの場合、保険会社の担当者が「わかりました。では、依頼する弁護士を決めて連絡をしてください」と言います。
そこであなたが自分で事故対応を依頼したい弁護士を探し、法律相談を受けて委任契約を締結します。
このとき弁護士に「弁護士費用特約を利用したい」と伝えて了承をとっておく必要があります。
そして、損害保険や保険会社名と担当者名、担当者の連絡先を弁護士に伝えます。
すると、あとは弁護士と保険会社の担当者がやり取りをして、保険会社が弁護士費用を支払ってくれます。
あなた自身は費用について考える必要なく、普通通りに弁護士に示談交渉や後遺障害認定、訴訟などの手続きを依頼することができます。
限度額までは保険会社がすべて費用を支払ってくれます。
弁護士特約の利用で注意する点
弁護士特約を使う時に、注意した方が良い事ってあるの?
保険会社によっては、弁護士特約を使わなくても解決できると言ってくるような場合もあるけれど、弁護士特約のオプションをつけているのであれば、小さい事故でも大きい事故でも弁護士特約を利用するべきだと考えよう。
弁護士費用特約を利用するときには、以下のような点に注意しましょう。
特約を使わせないようにする保険会社
1つは、被害者が弁護士費用特約を利用しようとしたところ、なるべく使わせないようにする保険会社があることです。
はっきり「使えません」とは言わなくても「弁護士に依頼する必要はないのでは?」「あなたにも過失があるのでは?」などと言って、被害者が特約の適用を諦めるように仕向けます。
保険会社がなるべくなら弁護士費用を負担したくないと考えているからです。
しかし、適用除外になる場合以外は特約を利用できるので、諦める必要はありません。
自賠責保険からの経済的利益の控除
もう1つは、自賠責保険から保険金が支払われた場合の問題です。
このとき、保険会社からは、自賠責保険からの入金分については、弁護士費用算定の根拠にならないと言ってくることがあります。
弁護士報酬は、被害者が得た経済的利益の〇%という計算で評価するので、経済的利益が多ければ多いほど高額になります。
ただ、被害者請求をした場合など、賠償金の一部が自賠責保険から支払われることがあります。
その場合、自賠責保険の支払分は弁護士介入によって増えた部分ではないので、報酬算定の根拠から外れると言われるのです。
すると、保険会社が負担する弁護士費用が、自賠責保険の支払い額の分、減額されてしまいます。
一方、弁護士との契約においては、自賠責保険からの支払分を除外しないことが通常なので、弁護士との契約内容と保険会社による補償内容にズレが発生し、被害者に負担額が発生してしまうことがあるのです。
このようなとき、どうやって差額を処理するのか、つまり被害者が自腹で支払うのか弁護士がサービスで減額するのかという問題について、弁護士と話し合って決めておく必要があります。
まとめ
弁護士特約のメリットや特徴について、しっかりと学ぶことができたよ!
弁護士特約はつけている方がお得だね!
弁護士特約のオプション契約をしている事を忘れてしまっている人はとても多いんだ。
弁護士特約だけではなく、搭乗者傷害保険や、人身傷害保険などの契約により、受け取る事ができる保険金が増える場合もあるから、交通事故に遭ってしまったら、まずは自分の保険契約を見直してみよう!
以上、弁護士費用特約を利用すべきタイミング、利用方法、注意点などを解説しました。
今後交通事故に遭ったとき、弁護士費用特約を利用できる状況であれば、確実に利用して有利に損害賠償請求を進めましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。