減価償却による計算と言われたんだけれど、減価償却って何?
今回の記事では、減価償却の算定方法や、減価償却により低額な賠償額となってしまった場合の対策について、詳しくみていこう。
交通事故で自転車が破損したら、相手に自転車の弁償代金を請求できます。
このとき保険会社から提示される賠償金額が「減価償却」の方法で計算されるケースがあるので注意しましょう。
減価償却方式で弁償金が計算されると、当事者が予想しているより低額になってしまう傾向があります。
今回は「減価償却」とは何なのか、なぜ賠償金額が低くなるのか、できるだけ高額な賠償金を獲得するにはどうすればいいか解説します。
ロードバイクで事故に遭った方などはぜひ参考にしてみてください。
目次
そもそも減価償却とは?
自転車事故に遭ったとき、保険会社から自転車の弁償金を「減価償却方式」で算定されるケースがあります。
そもそも減価償却とは何なのでしょうか?
これは「時間の経過によって物の価値が減少していく」という考え方です。
建物や車、自転車などの資産は、時間が経つと老朽化して自然に価値が下がります。
その価値減少分を資産価値計上の際に考慮するのが減価償却です。
たとえば高額なロードバイクがあったとして、事故に遭った時点では新品価格の価値はないと考えられるでしょう。
購入時から時間が経っていれば減価償却を根拠にして、賠償金額を低額にされる可能性があります。
減価償却は税制によって定められている
減価償却は、もともと税金を計算するときの考え方です。
具体的な計算方法も税制によって定められています。
資産の種類ごとに「減価償却の期間」が定められており、その期間中にだんだん価値が目減りしていく計算をします。
この「減価償却の期間」を「耐用年数」といいます。
たとえば一般的な普通常用自動車なら減価償却期間(耐用年数)が6年とされており、軽自動車なら減価償却期間は4年となっています。
普通乗用自動車の場合、新品で購入して6年が経過したら「価値が0円になる(正確には1円の価値が残ります)」というのが減価償却の基本的な考え方です。
全損事故における賠償金額の算定方法
交通事故で自転車や車が全損した場合、加害者は被害者へ弁償金を払わねばなりません。
以下では全損事故が発生したときに適用される、一般的な弁償金額の計算方法をみてみましょう。
市場価格で算定する
一般的には壊れた物と同等の物の価値(時価)を算定し、その金額を適用して損害額を算定します。
事故車が自動車の場合、車種や型式、登録年数や走行距離などによって比較的簡単に適正な時価を算定できます。
レッドブックなどでも調べられますし、ネットなどの中古車情報も参考にできるでしょう。
自動車が全損したときには、市場価格を調べてその金額が自動車の弁償金(賠償金)として支払われるケースが多数です。
ただしこの方法は、市場価格が明確でないと適用できません。
市場価格がないレアなロードバイクなどには適用しにくくなります。
減価償却を適用する
2つ目に、減価償却を適用する方法があります。
減価償却を適用するときには、各資産の耐用年数に応じて対象資産の価値を算定します。
耐用年数
- 普通乗用自動車は6年
- 軽自動車は4年
- 自転車は2年
このように、自転車の法定耐用年数は「2年」なので、購入後2年が経過していると「価値は0円(正確には1円)」になってしまいます。
高額なロードバイクであっても、2年が経過していたら賠償金額を払ってもらえない可能性があるのです。
なお保険会社が減価償却を適用して自転車の時価を算定するときには、「本当は2年だけど1年はおまけでプラスします」などといって減価償却を「3年」で計算してくれたり「特別に新品価格の半額にしておきます」などと提案してきたりするケースもあります。
そのように多少色をつけてくれたとしても、当事者が期待するよりは大幅に低い金額になる例が多いでしょう。
ロードバイクと普通の自転車との賠償金の違い
減価償却が適用になると、思っていたよりも低額の補償となってしまうことが多いんだよ。
「ロードバイク」の交通事故では、一般的な自転車とは異なるトラブルが発生しやすい傾向があります。
以下で減価償却問題を含めた「ロードバイク事故の特殊性や注意点」をみてみましょう。
ライダーが違法なロードバイクに乗っている
道路交通法の規制を守らないロードバイクが公道を走っていて交通事故が起こるパターンです。
たとえばブレーキやライト、後部反射板などを取り外したロードバイクは、違法です。
そのような違法なバイクで事故を起こしたら、ライダーの過失が極めて大きくなると考えましょう。
ロードバイクが交通違反をしている
ロードバイクの形状は違法でなくても、運転の際に交通違反をしてしまうライダーがいます。
高速で走っているのでついつい信号無視をしたり、面倒なので二段階右折をせずに直接右折してしまったりするケースなどです。
こういった交通違反によるケースでもライダー側の過失割合が大きくなると考えてください。
減価償却を適用されやすい
ロードバイクは一般的な自転車より価格が高額です。
車のように時価を算定するための資料が揃っていないこともあり、保険会社側から「減価償却」による計算方法を提示される可能性が高いといえます。
減価償却を適用されると、2年を過ぎると価値が0になってしまう可能性もあり、被害者は適切な補償を受けにくくなってしまうでしょう。
何十万も払って購入したロードバイクで普通に走行できたのに、たった2年で「0円」といわれては納得できないのも当然です。
交通事故で減価償却計算が適用されるケースとは
交通事故が起こっても、必ずしも減価償却による計算方法が適用されるとは限りません。
特に保険会社から減価償却計算を主張されやすいのは、以下のような場合です。
資産の価値を判定しにくい
よくあるのは「市場価格がわからない場合」です。
一般に出回っている乗用自動車のようにレッドブックで確認したりネットで調べたりできる場合、わざわざ減価償却の考え方を適用する必要はありません。
そうではなくレアな車やロードバイクなど「市場価値を把握しにくいもの」には減価償却が適用されやすいといえます。
登録年数が10年以上の自動車
自動車の登録年数が10年を超えると、レッドブックを探しても類似の車両を見つけにくくなります。
すると保険会社から減価償却をもとに計算されやすい傾向があります。
修理費用が高額
一般的に、修理費用が高額なケースで減価償却が適用されやすくなっています。
減価償却計算をすると、時価よりも金額が下がるケースが多いためです。
たとえば2年落ちのロードバイクで、自転車愛好家に売れば15万円で売れるケースでも、減価償却で計算したら0円(正確には1円)になります。
保険会社にとっては都合の良い計算方法ともいえるでしょう。
減価償却の計算方法
減価償却の計算方法には、定額法と定率法の2種類があります。
定額法
定額法とは、毎年定額で減価償却を計上する方法です。
話を単純化してわかりやすくいうと、20万円のロードバイクを2年で償却する場合、1年の減価償却額は10万円となります(ただし実際には年度途中で購入するケースが多いので、月数に応じた計算をします)。
1年後の価値は10万円、2年後の価値は0円(正確には1円)です。
定率法の計算方法とは
定率法とは、毎年一定の割合で減価償却していく考え方です。
たとえば耐用年数が5年の資産の「償却率」は0.4と定められているので、毎年の残額に対し、0.4をかけ算して減価償却の金額を求めます。
なお定額法でも定率法でも、資産の最終価値は「1円」とするのが税制の考え方です。
0円にはなりません。
「最終的に売却するまでは何らかの価値がある」という理解にもとづきます。
裁判所の考え方
裁判所が賠償金額を算定する際、安易には減価償却による計算方法を適用しません。
最高裁昭和49年4月15日の判決では以下のように判断されています。
つまり当事者が同意していないのに、みだりに減価償却の計算方法を適用すべきではない、と判示されています。
保険会社が減価償却でロードバイクなどの時価を算定してきたときに、納得できないなら応じる必要はありません。
ロードバイクの事故で損をしないためには
交渉は弁護士に依頼する事で、スムーズに進めることができるよ。
もしもロードバイクで事故に遭い、保険会社から減価償却計算を主張されて「価値は0円」などといわれたら、以下のように対応しましょう。
ロードバイク専門店で時価を確認する
ロードバイクが壊れたとき、減価償却による計算を避けるには「時価を立証」する必要があります。
まずはロードバイク専門店に持ち込んで、「このバイクが壊れていなかったらいくらくらいで買い取ってくれるでしょうか?」と聞いてみましょう。
買取価格を出してもらえたら、その金額を時価として保険会社へ主張することが可能となります。
ただしすべてのロードバイク専門店で時価算定に協力してもらえるとは限りません。
購入店で対応してもらえなければ、ネットなども活用して理解のあるお店を探し、問合せをしてみてください。
弁護士に依頼する
ロードバイクで交通事故に遭ったときには、弁護士に相談するようお勧めします。
弁護士であれば、これまでの裁判例などをもとにロードバイクや自転車、衣類などの物損の損害額も適正に算定してくれるでしょう。
またロードバイクの交通事故では、お互いの過失割合についても争いが発生しやすくなっています。
保険会社から過大な過失割合を割り当てられると、相手に請求できる賠償金額が大きく目減りしてしまいます。
弁護士に相談すれば事故の状況ごとに適正な過失割合を算定してくれるので、損をするリスクが大きく低下してメリットを受けられるでしょう。
まとめ
減価償却について、詳しく教えてくれてありがとう!
自転車事故、特にロードバイクで交通事故に遭った場合には、保険会社から「減価償却」による賠償金額を提示されて、金額を低くされてしまう可能性があります。
納得できないときには泣き寝入りをせずに、交通事故にくわしい弁護士に相談してみてください。
人身事故の場合には、弁護士に依頼することによって慰謝料も大幅に増額させることが可能です。
まずは一度、弁護士事務所の無料相談などを利用してみてみましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。