交通事故を起こすと、一般違反行為の時に点数が加算されるのと同じように、運転免許証の点数が加算されるの?
そうなんだ。
交通事故を起こした場合でも、点数が加算されてしまう事になるんだよ。
交通事故による運転免許の加算点数制度の事を、行政処分と呼ぶんだ。
行政処分って免れる事はできないの?
よし!では早速、行政処分について、詳しく調べていこう!
まずは行政処分とはどのような物なのか、説明するね。
交通事故を起こすと「行政処分」を受けることがあります。
そもそも「行政処分」とは何なのでしょうか?
行政処分を受けるとどのような影響が及ぶのか、また、行政処分を軽くする方法はないのでしょうか?
一般的に、交通事故による責任は「被害者との示談交渉」によって軽くなるとされていますが、行政処分を示談交渉によって軽くすることが可能なのか、という問題についても正しく理解しておきましょう。
今回は、交通事故の行政処分のことと、処分を軽くする方法について、解説します。
行政処分とは
交通事故加害者の3つの責任
交通事故の加害者には、3つの責任があると言われます。
- 民事責任
- 刑事責任
- 行政上の責任
民事責任とは、交通事故の被害者に対して損害賠償金を支払わなければならない責任です。
刑事責任とは、過失運転致死傷罪などの罪に問われる責任です。
有罪になれば、罰金を支払ったり、懲役刑や禁固刑を受けたりしなければなりません。
3つ目「行政上の責任」は、今回取り上げる「行政処分」を受けるべき責任です。
行政処分とは
行政処分とは、運転免許に「点数」が加点されることです。
日本の運転免許制度では「点数制」が採用されていて、交通違反や交通事故を起こすと、違反内容や事故内容に応じた「点数」が加算されます。
そして、違反点数が一定に達すると、免許停止にされたり免許取消になったりします。
免許取消になると、一定期間免許を再取得できなくなる「欠格期間」も発生します。
また、以前にも免許取消などの処分を受けた「前歴」がある場合には、科される処分が重くなり、小さな点数でも免許停止や取消決定を受けやすくなります。
免許点数の加算期間について
行政処分によって運転免許の点数が加算される場合、永遠に貯まり続けるわけではありません。
基本的に、累積点数となるのは「過去3年分の点数」です。
そこで、事故を起こしても、処分の対象となった事故を基準に、それ以後3年間交通違反や交通事故を起こさなければ、点数がリセットされます。
また、3年が経過しなくても、以下の4つのケースでは点数がリセットされて、0点に戻ります。
- 過去1年間、無事故無違反で過ごしたとき
- 運転免許の取消処分や停止処分を受けたが、その後無事故無違反のまま、取消期間や停止期間を過ごしたとき
- 3点以下の軽微な違反行為をしたが、過去2年間において違反行為をしたことがなく、その軽微な違反をした後3か月以内に違反行為をしなかったとき
- 3点以下の軽微な交通違反を繰り返して点数が6点になったが(交通事故の場合、1回で6点のケースを含む)、違反者講習を受けたとき
交通事故で、行政処分を科される場合
交通事故を起こしたときに行政処分を科されるのは、どのようなケースなのでしょうか?
まずは、人身事故を起こしたケースです。
人身事故を起こすと、被害者が死傷しますが、その結果に応じて運転免許の点数が加算されます。
加害者が飲酒運転をしていたり、速度違反があったりして道路交通法違反をしていると、その分点数が上がります。
また、事故を起こしたときに被害者を救護せずに「ひき逃げ」すると、さらに大きな点数が足されます。
また、加害者の過失の程度によっても加算される点数が異なり、過失割合が高くなると点数が上がります。
物損事故でも、当て逃げをすると行政処分を科されます。
交通事故で、行政処分にならない場合
交通事故を起こしても、物損事故であれば、基本的に行政処分はありません。
ただし、物損でも当て逃げをすると行政処分を受けることになるので、他人の車にぶつけた場合などには、逃げずに警察を呼んで対応することが重要です。
加算される免許の点数
事故によって、点数はどの位違うの?
死亡事故の場合には、一番重い点数が加算される事になるんだ。
その他の場合には、症状の度合いによって変わってくるよ。
それでは、実際に交通事故を起こしたとき、どのくらいの点数を加算されるのでしょうか?
以下で、交通事故の種類別で、加算される点数を見てみましょう。
物損事故の場合
物損事故の場合、先ほども言いましたが基本的に点数は加算されません。
しかし、当て逃げをすると、以下の点数が足されます。
安全運転義務違反2点+報告義務違反5点=7点
この場合、6点を超えるので、30日の免許停止処分となります。
人身事故の場合
人身事故の場合には、被害者の死傷の結果と加害者の過失割合に応じて、以下の点数が加算されます。
被害者の死傷の程度 | 加害者の責任 | 点数 |
死亡 | もっぱら加害者の過失 | 20 |
それ以外 | 13 | |
重症(治療期間が3ヵ月以上または後遺障害が残った) | もっぱら加害者の過失 | 13 |
それ以外 | 9 | |
重症(治療期間30日以上3ヵ月未満) | もっぱら加害者の過失 | 9 |
それ以外 | 6 | |
負傷(治療期間15日以上30日未満) | もっぱら加害者の過失 | 6 |
それ以外 | 4 | |
軽傷(治療期間15日未満) | もっぱら加害者の過失 | 3 |
それ以外 | 2 |
死亡事故を起こすと、過去に前歴がなくても、いきなり運転免許取消になってしまいます。
また、ひき逃げをすると「措置義務違反」となり、上記の点数に35点がさらに加算されます。
危険運転致死傷、故意による交通事故のケース
通常の過失を大きく上回り、故意とも同視すべき危険な交通事故や、特定違反行為を起こしたケースでは、以下のとおりの高い点数を加算されます。
故意による交通事故の場合(運転殺人、運転傷害)でも同じです。
この場合にも、被害者の死傷結果に応じて点数が変わります。
被害者の死傷の程度 | 点数 |
危険運転致死(死亡) | 62 |
重傷(治療期間3ヵ月以上または後遺障害が残った) | 55 |
重傷(治療期間30日以上3ヵ月未満) | 51 |
負傷(治療期間15日以上30日未満) | 48 |
軽傷(治療期間15日未満) | 45 |
危険運転致死傷行為をした場合、たとえ相手が軽傷であっても、一回の交通事故で免許取消となりますし、長い欠格期間が発生します。
無免許運転の婆い、違反点数25点となり、その後2年間は、免許証を持つことはできません。
点数と処分内容の関係
点数によって処分は変わってくるよね?
そうだね。前歴と、点数によって処分内容が変わってくるんだよ。
詳しく見てみよう。
具体的に何点になったらどのような処分を受けるのか、免許の点数と処分内容の関係を見てみましょう。
()の年数は、免許取消歴などのある人が、一定期間内に再度免許の拒否・取消や6月を超える運転禁止処分を受けた場合に適用される年数です。
前歴の有無、回数 | 0回 | 1回 | 2回 | 3回 | 4回以上 |
点数 | |||||
2 | 停止90日 | 停止120日 | 停止150日 | ||
3 | 停止120日 | 停止150日 | 停止180日 | ||
4 | 停止60日 | 停止150日 | 取消1年(3年) | 取消1年(3年) | |
5 | 取消1年(3年) | ||||
6 | 停止30日 | 停止90日 | |||
7 | |||||
8 | 停止120日 | ||||
9 | 停止60日 | ||||
10、11 | 取消1年(3年) | 取消2年(4年) | 取消2年(4年) | ||
12~14 | 停止90日 | ||||
15~19 | 取消1年(3年) | 取消2年(4年) | |||
20~24 | 取消2年(4年) | 取消3年(5年) | 取消3年(5年) | ||
25~29 | 取消2年(4年) | 取消3年(5年) | 取消4年(5年) | 取消4年(5年) | |
30~34 | 取消3年(5年) | 取消4年(5年) | 取消5年 | 取消5年 | |
35~39 | 取消3年(5年) | 取消4年(5年) | 取消5年 | 取消5年 | 取消5年 |
35~39 | 取消3年(5年) | 取消4年(6年) | 取消5年(7年) | 取消6年(8年) | 取消6年(8年) |
40~44 | 取消4年(6年) | 取消5年(7年) | 取消6年(8年) | 取消7年(9年) | 取消7年(9年) |
45以上 | 取消5年 | 取消5年 | 取消5年 | 取消5年 | 取消5年 |
45~49 | 取消5年(7年) | 取消6年(8年) | 取消7年(9年) | 取消8年(10年) | 取消8年(10年) |
50~54 | 取消6年(8年) | 取消7年(9年) | 取消8年(10年) | 取消9年(10年) | 取消9年(10年) |
55~59 | 取消7年(9年) | 取消8年(10年) | 取消8年(10年) | 取消10年 | 取消10年 |
60~64 | 取消8年(10年) | 取消9年(10年) | 取消10年 | ||
65~69 | 取消9年(10年) | 取消10年 | |||
70以上 | 取消10年 |
交通事故の種類ごとの処分内容について
処分期間はみんな同じなの?
過失割合や、その事故が故意であるかによっても、処分期間は変わってくるんだよ。
以下では、交通事故の種類ごとの処分内容を見てみましょう。
一般の人身事故の場合
死亡事故 | 専ら加害者の過失 | 免許取消1年 |
それ以外 | 免許停止(90日~) | |
重症事故 3ヶ月以上 後遺障害あり |
専ら加害者の過失 | 免停(90日~) |
それ以外 | 免停(60日~) | |
重症事故 30日以上 3ヶ月未満 |
専ら加害者の過失 | 免停(60日~) |
それ以外 | 免停(30日~) | |
軽傷事故 15日以上 30日未満 |
専ら加害者の過失 | 免停(30日~) |
それ以外 | - |
軽傷事故(治療期間が15日未満、建造物損壊事故)の場合には、処分はありません。
危険運転致死傷、故意による交通事故の場合
危険運転致死小の場合や故意による交通事故の場合には、被害者の死傷の程度により、欠格期間が変わります。
欠格期間 | |
死亡 | 8年 |
治療期間3月以上又は後遺障害 | 7年 |
治療期間30日~3月未満 | 6年 |
治療期間15日~29日 | 5年 |
治療期間15日未満 | 5年 |
人身事故を取り下げてもらえるのか?
人身事故だと、行政処分を受ける事になってしまうんでしょ?
じゃあ人身事故を取り下げてもらえば良いのかな?
一旦人身事故として届け出た場合には、取り下げることはできないんだ。
事故を隠してしまうと、その分処分が重くなってしまう事があるから注意しよう。
交通事故を起こしたときに行政処分を受けるのは、事故の当事者が警察に「人身事故の届出」をしたことがきっかけです。
そうであれば、被害者が人身事故の届出を取り下げると、行政処分を回避することができるのでしょうか?
たとえば、被害者と示談交渉を進めて事故の取り下げを約束してもらえたら、処分を受けずに済むのかなどが問題です。
実際には、そういったことは難しいです。
そもそも、交通事故の当事者には、警察に対する事故の報告義務を負っています。
これは、むしろ交通事故の加害者の責任です。
道路交通法は「交通事故を起こした車両の運転者」に報告義務を課しているからです。
そこで、加害者が事故を報告しなければ法律違反となり、刑罰も科されてしまいます。
つまり、「被害者さえ事故を報告しなければ、処分を回避できる」というものではありません。
事故が発生した以上、警察は必ず報告を受け付けて調査しなければならないのです。
窃盗や殺人が起こったときに、被害者さえ黙っていれば処罰されない、ということではないのと同じです。
また、いったん届け出た人身事故を取り下げるための「制度」も用意されていません。
そこで、人身事故の届出を取り下げてもらうことにより、行政処分を回避することは不可能です。
なお、人身事故を起こしたとき、「そもそも警察に報告しなければ良いのではないか?」と考える方もいますが、その発想は非常に危険です。
当初にも言いましたが、事故を起こしたときに警察に報告することは、加害者の義務ですし、報告しなければ報告義務違反となります。
また、被害者がケガをしている場合にきちんと対応しなければ、後にバレたときに「ひき逃げ」扱いされて、非常に重い刑罰と行政処分を受ける可能性もあります。
そこで、交通事故を起こしたら、たとえ行政処分を受ける可能性があるとしても、必ず警察を呼んで人身事故の届出をしなければなりません。
行政処分を軽くする方法は?
行政処分を軽くする事って可能なの?
被害者に嘆願書を書いてもらったり、意見の聴取などに参加すると、行政処分を軽くすることができるよ。
それでは、交通事故を起こしたら、一切行政処分を避けたり軽くしたりする方法はないのでしょうか?
いくつか、対処方法があります。
意見の聴取の機会を利用する
1つは、「違反者からの意見の聴取」の手続きを利用する方法です。
行政処分の内容が免許停止90日以下の場合には、処分決定の際に、違反者を呼んで意見の聴取をしなければならないことになっています。
このとき、違反者の立場として、「自分には前歴もなく、違反の程度も軽微で、偶然性が高く、危険性が小さい」ことなどを説得的に説明したり、上申書を提出すれば、行政処分を軽減してもらえたり、猶予してもらえたりする可能性があります。
意見聴取が行われるときには、事前に自宅宛に聴取通知書が届き、出席するか欠席するか選ぶことができるので、行政処分を軽くしたいときには、必ず出頭して自分の意見を述べるようにしましょう。
弁護士に付添人を依頼できる
意見の聴取の際には付添人の同行も認められているので、自分だけでは説得的な説明をできない場合には、弁護士に付き添ってもらうことをお勧めします。
交通事故トラブルに注力している弁護士事務所に対応を相談すると、どういった話をすれば良いか弁護士回答を得ることができますし、主張内容をまとめた書面なども作成してもらえます。
自分で話をするのが苦手な方でも、効果的に意見聴取の機会を利用できます。
免許取消処分が予定されている場合
意見の聴取が行われるのは、免許停止期間90日以内のケースのみであり、それを超える大きな事故の場合には、意見聴取は行われません。
ただ、意見の聴取はなくても、行政処分を受ける際に「出頭要請」が届きます。
その場において、処分の軽減の要件に該当すれば、行政処分を軽くしてもらうことも可能です。
行政処分を軽減してもらうための要件(運転免許停止・取消の軽減条件)
意見の聴取が行われる場合でもそうでない場合でも、一定の要件を満たせば、免許停止や免許取り消しの処分を軽くしてもらうことができます。
その要件は、以下のようなものです。
- 交通事故の「被害状況」や「運転者の不注意」が軽微で、違反者の危険性が低い事情がある
- 急病人の搬送中や災害などのやむを得ない状況があり、違反者の危険性も低い
- 他人から強制されて違反した場合など、やむを得ない事情があって違反者の危険性も低い
- 被害者の健康状態や年齢などの他の事情によって重大な結果が発生したものであり、違反者の危険性が低いと言える事情がある
- 被害者は運転者の家族や親戚などであり、他にも違反者の危険性が低い事情がある
- 上記以外に、違反者の危険性が低いと言える事情があって、今後の改善を期待できる
そこで、意見聴取を受ける場合や、出頭要請を受けた場合には、上記の要件にあてはまることを説得的に述べることが重要です。
嘆願書を書いてもらう
上記以外にも、交通事故の被害者に「嘆願書」を書いてもらう方法があります。
嘆願書とは、被害者の立場から「加害者の処分を軽くして下さい」とお願いする書面です。
加害者を憎むべき立場である被害者自身が自ら加害者の処分を軽くすることを希望することで、加害者への各種の処分が軽減されます。
一般的に、嘆願書を作成してもらうのは、加害者の刑事事件に対応する目的であることが多いです。
たとえば、起訴前に被害者の嘆願書を取り付けることができれば不起訴処分になる可能性が高くなりますし、起訴後に嘆願書を入手できれば、刑罰を軽くしてもらいやすくなります。
行政処分の場合、被害者の嘆願書があっても、刑事処分ほどに劇的な効果はなく、用意しても、必ずしも処分を軽くしてもらえるとは限りません。
ただ、嘆願書があることにより、上記の「免許停止・取消の軽減条件」に該当することを立証しやすくなる可能性があります。
たとえば、被害者が「自分に過失があったので加害者には危険性が小さい」と書いてくれたり、「自分の健康状態などの問題によって結果が大きくなっているのであり、加害者のせいではありません」と書いてくれたりするケースもあります。
すると、公安委員会も、その内容を精査して、軽減条件に該当すると判断してくれやすいです。
行政処分の軽減を狙って被害者に嘆願書を書いてもらうためには、上記の「免許停止・取消の軽減条件」の内容を意識して作成してもらう必要があります。
単に「処分を軽くして下さい」では、あまり効果が無い可能性があるので、弁護士に相談をして、効果的な文面を考えてもらうと良いでしょう。
まとめ
人身事故を起こしてしまった場合には、行政処分は免れることが難しいんだね。
行政処分を免れる事は難しいけれど、その処分を軽くすることは可能なわけだから、弁護士に相談しながら少しでも処分を軽くすることが出来るようにするのがお勧めだよ。
今回は、交通事故の行政処分のことと、処分を軽くする方法について、解説しました。
被害者が人身事故を取り下げる方法によっては行政処分を回避できませんが、意見の聴取や公安委員会への書面提出等によって「免許停止・取消の軽減」を受けられるケースがあります。
まずは交通事故トラブルに注力している弁護士に相談をして、要件に該当すると判断してもらえるように、適切な対応方法を考えてもらうと良いでしょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。