交通事故に遭ったら、加害者の保険会社との間で示談交渉を進めていかなければなりません。
このとき、どのように対応するかによって、後に支払いを受けられる賠償金の金額が大きく変わってくる可能性があります。
なるべく高額な支払いを受けるためには、どのような対処方法をすればよいのでしょうか?
今回は、交通事故後の保険会社との対応や示談交渉のコツを、ご紹介します。
目次
相手は味方ではないことを認識する
交通事故で、加害者の保険会社と交渉するとき、まずは「相手が味方ではない」ことを認識することが大切です。
相手の保険会社は、被害者に同情したようなことを言ってきたり、「お気の毒です」などといてきたりすることもありますが、基本的には加害者の代理人です。
賠償金を支払う立場ですから、できるだけ賠償金の金額を減らそうと考えているのが本音です。
「名の通った保険会社だから、大手だから、滅多なことをしないだろう」などという考えは危険です。
相手の保険会社と示談交渉を進めるときには、常に「相手が加害者の代理人として、何とかして賠償金を減額しようとしている」ということを、頭に入れておきましょう。
冷静に対応する
毎回こちらの言い分に反論してくるんだよ・・
感情的になってしまうと、上手く交渉が進まないから注意しよう。
示談交渉をするとき、どうしても被害者は感情的になってしまうことが多いです。
たとえば、相手から被害者の過失割合が高いと言われることもありますし、加害者が明らかに嘘をついていることもあります。
「うつ病になったのは、被害者が精神的に弱かったからだ」と言われたり「もともと体質的にむちうちが悪化しやすい性質だったので、損害発生は被害者にも責任がある」と言われたり「植物状態になったら、生活費がかからないはずだから、逸失利益を減額したい」などと言われたりすることもあります。
このようなことを言われると、たいていの人は立腹しますし、それも当然と言えるでしょう。
ただ、示談を有利に進めるためには、感情的にならない方が良いのです。
感情的になると、冷静な判断ができなくなってしまうからです。
冷静に判断ができないと、妥当な着地点を見逃して、示談が決裂してしまう可能性が高くなりますし、相手が言っていることに矛盾や間違いがあっても気づきにくくなってしまいます。
相手からどのような失礼なことを言われても、腹を立てるのではなく、反論して相手の主張を突き崩すことを考えましょう。
それが、加害者や保険会社に対するもっとも効果的な報復となります。
記録を残す
何か良い策はないかな?
示談交渉を進めるときには、各種の記録を残すことをお勧めします。
記録に残しておかないと、後になって「言った、言わない」の水掛け論になってしまう可能性が高いからです。
たとえば、相手が明らかに不当な要求をしてきたり、間違ったことを述べたりすることがあります。
このようなとき、記録を残しておいたら、後から「このような経緯があって、大変な迷惑であった」ということで慰謝料を増額したり「以前はこのような主張をしていたのに、現在は異なることを言っている」ということを明らかにして、相手の矛盾をついたりすることができます。
反対に、記録がなかったら「そのようなことは言っていない」と言われて終わってしまいます。
示談交渉の記録として、書面を残すことは基本です。
たとえば、相手の保険会社から何らかの書類が送られてきたら、送付書とともに、きれいに保管しましょう。
こちらから相手に書類を出すときにも、必ず控え(コピー)を取っておきましょう。
メールも、すべて保存し、できればプリントアウトして紙の形で保管しておくと良いでしょう。
メールは、間違えて消してしまうことや、消えてしまうこともあるからです。
また、相手の保険会社の担当者と電話で話をしたときには、特に重要なことを話した場合、日付と時間と話した内容について、紙に書いて記録に残しておきましょう。
示談を急がない
だけど、急いで示談交渉を進めてしまってはいけないよ。
症状固定までしっかりと治療を続けよう。
交渉は、急ぐと不利になる
相手の保険会社と示談交渉を有利に進めるには「示談を急がない」ことが非常に重要です。
交渉ごとというものは、「急ぐと不利になる」からです。
たとえば、単純な例で、こちらが1000万円を請求しており、相手は300万円しか支払わないと言っているとします。
いろいろと交渉を詰めた結果、こちらとしては700万円まで譲歩することとし、相手は600万円までなら支払うと言っているとします。
ところが、両者が、あと100万円のところで譲らず、双方が折れないとします。このとき、どちらかが折れないと、示談は成立しません。
このようなときには、結局示談を急いでいる方が、折れざるを得ません。相手が折れない限り、自分が折れないと示談が成立しないからです。
もし、急いでいなければもっと粘り強く交渉をしたり、場合によっては裁判をして自分の正しい主張を通すこともできたかもしれませんが、急ぐとそのようなことはできません。
交通事故被害者は、示談を急ぐことが多い
そして、交通事故被害者の方は、どうしても示談を急がれることが多いです。
そもそも、示談が成立しないと、いつまでも示談金を受けとることができませんし、裁判しなければならないと思うにつけても、気分が落ち込んでしまうでしょう。
賠償問題を早く終わらせて、気持ちを切り替えて前に進んでいきたいと思われる方も多いです。
このような状態で示談交渉に臨むと、どうしても相手に折れざるを得なくなってしまう可能性が高いので、自分ではどうしても気持ちがはやってしまう場合には、弁護士に示談交渉を依頼することをお勧めします。
相手に何を請求できるのか、把握する
詳しく見ていこう。
示談交渉を有利に導くためには、「相手にどのような請求ができるのか」ということを、正確に理解しておくことが重要です。
交通事故で請求できる賠償金には、非常にたくさんの種類があります。
また、ケースによっても、どのような請求ができるのかが変わります。
主なものだけでも、以下のようなものがあります。
物的損害
- 車の修理費用
- 車の買い換え費用
- 評価損
- 代車費用
- 休車損害
- 建築物の損壊費用
- 積荷損など
積極損害
- 治療費
- 付添看護費用
- 通院交通費
- 入院雑費
- 介護費用
- 器具装具の費用
- 文書料、雑費
- 自宅改装費用
- 車の改装費用など
消極損害
- 休業損害
- 後遺障害逸失利益
- 死亡逸失利益
精神的損害
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
※賠償金についての詳しい内容は交通事故の賠償金として受け取ることができる費用にて記載しています。
交通事故が起こったら、上記のそれぞれの損害の項目に当てはめて、自分のケースで該当する損害が発生しているか、見極めることが大切です。
被害者に知識がないと、相手は必要な賠償金を飛ばして計算してきて、支払をしてくれないケースなどもあるので、注意が必要です。
たとえば、被害者が自分で示談交渉をすると、付添看護費用が支払われないことなどがあります。
被害者が無知で、そういったお金の支払いを受けられることを知らなかったら、付添看護費用は支払われないまま示談してしまうことになるのです。
自分では正確にわからない場合には、交通事故トラブルに注力している弁護士に相談をして、自分のケースで具体的にどのような損害が発生しているのか、聞いてみると良いでしょう。
交通事故の賠償金計算の仕組みを把握する
弁護士基準を利用する場合には、弁護士に依頼する必要があるよ。
交通事故で、有利に示談交渉を進めるためには、賠償金計算の基準や仕組みについて理解しておくことが重要です。
たとえば、休業損害や逸失利益、慰謝料はどのようにして計算されるのか、などということです。
交通事故の賠償金計算基準は複数あります。
被害者が自分で示談交渉をするときに適用される計算基準は「任意保険基準」というもので、かなり低い基準となっています。
これに対し、弁護士が示談交渉をするときや裁判所が判決をするときに利用するのは「弁護士基準(裁判基準)」というもので、任意保険基準よりかなり高額になっています。
これらの計算基準でそれぞれの賠償金を計算すると、具体的にどのくらいになるのかがわかると、相手の言っている賠償金の金額が妥当であるかどうかがわかります。
こうした知識がない状態だと、相手が「慰謝料は〇〇円です」と言ってきたときに、それが妥当かどうか、わかりません。
相手が「そういうものです」と言って強く迫ってきたら、たいていの人は受け入れてしまうでしょう。
そのような不利益を受けないためには、事前にきっちり交通事故の賠償金計算方法についての知識を持っておくべきなのです。
保険会社が途中で治療費を打ち切ってきたときの対処方法
交通事故後、治療を継続していると、相手の保険会社から「治療費の打ち切り」に遭うことがあります。
交通事故によって入通院治療を行うと、当然治療費がかかりますが、治療費は加害者に請求することができます。
交通事故がなかったら治療を行う必要がなかったのであり、治療費は、交通事故によって発生した損害と言えるからです。
そして、交通事故が起こった当初は、加害者の保険会社が病院に対し、直接治療費を支払うことが多いです。
ところが、治療が長びいてくると、加害者の保険会社は、被害者に対し「そろそろ治療を終わりましょう」と言ってきて、それでも被害者が病院通いを続けていると、治療費の支払いを打ち切ってしまうのです。
そうなると、被害者は、「もう、治療は辞めないといけないのか」と考えて治療を辞めてしまうことがあります。
しかし、なるべく多額の賠償金を獲得するためには、治療を辞めてはいけません。
交通事故後の治療は「症状固定」するまで継続しなければならないからです。
症状固定前に通院を辞めると、治療も中途半端になってしまう上、入通院慰謝料も大きく減額されてしまうので、被害者にとって良いことは1つもありません。
示談交渉を有利に進めたい場合には、医師が症状固定したと判断するまで、通院治療を続けるべきです。
相手の保険会社が治療費支払いを打ち切った場合には、医師に症状固定したかどうか聞きましょう。
もし、症状固定していないと言われたら、健康保険を使って通院を継続しましょう。
後遺障害認定は、被害者請求を利用する
後遺障害認定を受けるだけで、受け取る賠償金は全く違う金額になるんだよ。
後遺障害認定とは
交通事故に遭うと、さまざまな後遺障害が残る可能性があります。
その場合、加害者の自賠責保険に対し、後遺障害等級認定請求をしなければなりません。
後遺障害等級認定とは、後遺障害の内容や程度に応じて「等級」を正式に認めてもらうことです。
後遺障害の等級が認められたら、認定された等級に応じて後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を支払ってもらうことができます。
もし、認定されなかったら、慰謝料も逸失利益も支払われないので、被害者にとって、後遺障害等級認定は非常に重要です。
相手の保険会社が「後遺障害認定をする」と言ってくる
そして、交通事故後、治療を終えると、加害者の保険会社は、「後遺障害の等級認定をしますよ」と言ってくることがあります。
つまり、加害者の保険会社が、被害者の代わりに後遺障害等級認定の手続きを行う、ということです。
多くの交通事故被害者の方が、加害者の保険会社からこのように言われて、相手に後遺障害認定を任せてしまいます。
しかし、実際にはこの対応は適切とは言えません。
後遺障害の等級認定を受ける方法としては、「被害者請求」と「事前認定」の2種類があります。
上記のように、相手の保険会社に手続きを任せてしまう方法のことを、事前認定といいます。
事前認定の場合、被害者とは相対する立場である保険会社に後遺障害認定の手続きを任せてしまうことになりますので、被害者にとっては不安が大きいです。
実際に、事前認定を利用すると、後遺障害が非該当になる割合も高くなると言われています。
後遺障害認定は「被害者請求」を利用しましょう
そこで、後遺障害の等級認定を受けたいときには、被害者が自分で後遺障害認定請求を行う「被害者請求」という方法を利用することをお勧めします。
被害者請求なら、被害者が自分で手続きを行うので、どのような経緯で後遺障害認定請求が行われて、どのような経緯で等級認定されたのかが明らかになります。
被害者が自分に有利な証拠を追加提出することなどもできます。
過失割合に注意する
交通事故後、相手の保険会社と示談交渉をしていると、相手の保険会社が「本件では、過失割合は〇対〇です。」と言ってくることがあります。
過失割合とは、交通事故の結果発生に対する被害者と加害者それぞれの責任の割合のことです。
過失割合が高くなると、相手に請求できる賠償金が小さくなってしまいます。
このことを「過失相殺」と言います。
そこで、被害者にとっては、自分の過失割合が小さくなった方が有利です。
実際の示談交渉の場面では、過失割合はどのように認定されるのでしょうか?
ほとんどの場合、加害者の保険会社が一方的に決定しています。
当然のように「本件での過失割合は〇対〇です」と言ってくるので、被害者としては「そういうものかな」と思って受け入れてしまうのです。
ところが、実際には、加害者の保険会社が主張する過失割合は、法的に適正な割合になっていないことが多いです。
被害者の過失割合が高くなると、相手の保険会社は支払う賠償金が少なくなって、得です。
そこで、必要以上に被害者に大きな過失割合を割り当ててきて、大幅な過失相殺を狙うのです。
このように、相手の保険会社が過失割合を当てはめてきたら、そのまま受け入れるのではなく、法的に適正な過失割合の基準を調べましょう。
判例タイムズなどの本で調べるか、弁護士に相談すると、ケースに応じた適切な割合がわかります。
もし、相手の言っている基準が法的な基準からずれていたら、訂正を求めるべきです。
弁護士に相談する
不安になってきたよ・・・
相手の保険会社の対応に不満や不安を感じる被害者が多い
交通事故後、相手の保険会社と示談交渉をしていると、相手の主張する賠償金の金額に納得できないことがよくあります。
相手の主張する過失割合が高すぎると感じることもあるでしょう。
相手の保険会社の担当者の態度が悪いので、気に入らない、ということもあります。
自分で示談交渉をしていると、大変にストレスが溜まってうつ状態になってしまわれる被害者の方もいます。
弁護士に相談するメリット
このように、自分で示談交渉をしていて、不満や疑問を感じたり、過度な負担となったりしたときには、弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士は、ケースに応じた適切なアドバイスをしてくれますし、必要なら、弁護士に示談交渉を依頼することもできます。
弁護士が示談交渉を代行すれば、相手に言いくるめられて不利な条件で示談してしまうこともありませんし、感情的になったり示談を急いだりして、不利な条件を受け入れてしまうこともありません。
弁護士基準を適用して各種の賠償金を計算できるので、賠償金が大幅にアップすることも多いです。
弁護士に相談すべきタイミング
交通事故後弁護士に相談すべきタイミングは、交通事故直後を始めとして、なるべく早いほうが好ましいです。
早期に相談に行ってアドバイスをもらっていたら、各場面で適切な対処ができるので、後に受ける不利益を小さくすることができます。
もし、自分で示談交渉を始めてしまった場合でも、自分で進めることに限界を感じたら、すぐに弁護士に相談に行きましょう。
たとえ、弁護士費用を支払っても、弁護士に依頼すると賠償金が大きく上がりますし、ストレスや手間もかからなくなるので、依頼するメリットが大きいと言えるからです。
まとめ
今回は、示談交渉における加害者の保険会社への対応方法について、解説しました。
示談交渉を有利に進めるには、正確な知識を持って、焦らず冷静に対応することが大切です。
なるべく早いうちに交通事故トラブルに注力している弁護士に相談をして、適切なアドバイスをもらっておきましょう。
福谷陽子
京都大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として約10年間活動。うち7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては交通事故案件を多数担当し、示談交渉のみならず訴訟案件も含め、多くの事件に関与し解決。
現在はライターとして、法律関係の記事を執筆している。
■ご覧のみなさまへのメッセージ:
交通事故に遭うと、今までのように仕事を続けられなくなったり相手の保険会社の言い分に納得できなかったりして、被害者の方はさまざまなストレスを抱えておられると思います。
そんなとき、助けになるのは正確な法律知識とサポートしてくれる専門家です。まずは交通事故の賠償金計算方法や示談交渉の流れなどの基本知識を身に付けて、相手と対等に交渉できるようになりましょう。
お一人で悩んでいるとどんどん精神的にも追い詰められてしまいます。専門家に話を聞いてもらうだけで楽になることも多いので、悩んでおられるなら一度弁護士に相談してみると良いと思いますよ。